東北地方の三百名山は残り祝瓶山、摩耶山、泉ヶ岳の3座となった。宮城県にある泉ヶ岳は新幹線とレンタカーを使えば日帰り可能なので、今回は山形県にある祝瓶山と摩耶山をセットに2泊3日で登る計
画を立てた。
祝瓶山は朝日連峰の南に延びる尾根の先端にあり、その山肌は雪崩で磨かれ、「東北のマッターホルン」と異名を取る尖鋒である。登山道は小国町と長井市の東西両面に整備されている。
一方、摩耶山は花崗岩が隆起してできた山で、日本海に近く根雪期間が120日を越える多雪地帯であるため、雪による浸食が花崗岩の山を磨き上げて、東北の山では珍しく峻険な山容である。鉾ケ峰と槍
ケ峰という二つのドーム状の岩山、「奥摩耶」を従えている。鶴岡市に位置し、登山ルートとしては東面の倉沢ルートと西面の越沢ルートが有るが、倉沢ルートは急峻な登りが続き、修験の場としての地名が今
も残っている。越沢ルートは航海安全、雨乞いなどの神を祀っている。春と秋に登山会が開催されており、地元民に愛される「故郷の山」となっているようだ。
[行程]
2020年10月13日(火)
自宅9:10→練馬IC→関越道・日本海東北道→荒川・胎内IC→R117→16:40民宿「さいとう」泊
14日(水)
民宿「さいとう」5:30→5:55針生平(はんなりたいら)登山口6:05→9:07一の塔9:15→9:41祝瓶山山頂10:14→10:39一の塔10:42→13:30登山口13:45→R117・R7→17:00温海温泉 「萬國屋」泊
15日(木)
「萬國屋」9:00→R345→9:40越沢登山口10:00→分岐10:35→12:35摩耶山山頂13:00→追分分岐13:45→15:00登山口15:25→山形道・東北道・首都高・→用賀IC→22:55自宅
[山行日誌]
電車か車か迷ったが結局車の便利さを選んだ。気温の変化が激しくどんな衣類を持っていけばよいか選択に困ったとき、車なら取り敢えず積んでおけば良いが
、電車では荷物が多くならないように厳しくチェックしなければならない。唯、今回のように長距離運転になると、往きはともかく帰りは6〜7時間歩いた後の運転に
なるので、体力的に難しいし危険でもある。
本日は小国町にある民宿「さいとう」に行くだけなので気持ちは楽である。9時過ぎに出発、練馬ICから高速に入り、関越道、日本海東北道をひた走り、荒川・胎
内ICで下りて、「白い森小国」へ入った。「白い森」とは雪の白とブナの白い幹から命名されたとのことだ。「さいとう」に着いたのち祝瓶山の登山口を確認に行っ
た。
林道の途中で下山してきた女性と情報交換をした。京都から一人で新潟遠征に来ている75歳の女性で、三百名山に挑戦中、車で寝泊まりし、この遠征で289座になるとのことだった。
この方との出会いで妻は気合が入ったようだ。
翌朝、林道を走って登山口に6時前に到着。先行者が一人居てほっとした。ユーチューブで何度も見た吊橋が前方に見える。橋板が幅30cm程度なので揺れる
と怖いが、両側にロープが張ってあるので落ちる心配はないようだ。天気は雲が多いが晴れ、ただ午後は雨の予報なので午前中に下りて来たかった。2本の沢
を渡ったのち、いきなり急登が始まる。「東北のマッターホルン」のニックネームにふさわしい。朝日連峰の大朝日岳や西朝日岳が思ったより近くに見える。鈴振
り尾根に取り付く。この辺りはまだ紅葉が始まったばかりで、ブナは緑の葉を付けている。勾配はさらに増し、息苦しさが続く。気が付くと朝日連峰はガスがかか
り、一の塔も隠れてしまった。鞍部に下りた後一の塔の突き上げるような急登が始まる。じっと我慢して足を前に出す。1239mの一の塔に到着。山頂は全く見え
ない。ここから35分、やや傾斜が緩み背の低い灌木帯となる。縦走路岐を過ぎようやく山頂に到着。360度の展望を期待していたが全く何も見えない。がっかり。
用意していたダウンを着て民宿で作ってもらったおにぎりを食べ、先行者に写真を撮ってもらい、少し会話をした後下山開始。
一の塔に着いたころから天気が急速に回復し、ガスも晴れて太陽が顔を出す。赤や黄色の紅葉のグラデーションが見事だ。ブナの黄葉も日の光に輝き美しい。
急降下ながら紅葉を楽しむ余裕が出てきた。気温も上がり絶好の登山日和に変わった。長い樹林帯の中を鼻歌交じりの良い気分で下りてきた
吊橋を渡って駐車場まで来たところ、近くで芋煮会をやっており、珍しいキノコや牛肉の入った芋煮汁のご相伴に預かった。空腹だったこともありとても美味し
かった。着替えをし靴を履き替えて温海温泉の「萬國屋」に向けて出発。およそ2時間半の距離で、再び117号を走る。山沿いの道から海岸線に出て国道7号を
北上、17時ちょうどにホテルに到着した。「GO TO」のお陰でどこのホテルも満員の盛況のようだ。温泉でのマッサージ、豪華な夕食と朝食、快適な客室ですっ
かり疲れが回復、翌朝、9時過ぎにホテルを出て、摩耶山の登山口に向かう。
10時前に登山口に到着。駐車中の車が何台かあり、そのうちの一人と会話をする。北海道から三百名山を目指して来ており、冬のカムエクを何度か登ったとの
こと、相当の実力の持ち主である。天気の回復が遅れていて空は曇りである。まず沢沿いを歩き、ハシゴが掛かる沢を渡って、また、沢沿いの道を歩く。
やがて「弁財天の滝」コースと関川コースの分岐にやって来る。ユーチューブで何度も見ているので弁財天の滝コースを選択し、急流の沢を見ながら進む。岩が
濡れていて滑り易そうなので慎重に歩く。轟く水音が聞こえてくると弁財天の滝である。これも何度もユーチューブで見た。30bぐらいの水量の多い滝を横目に
ハシゴを登っていく。ハシゴは安定していて恐怖感はない。この後は中尾根コースで沢筋とはお別れとほっとしていたところ、白いテープが結んである岩棚にやっ
て来た。こちらがコースと勘違いし、進んでいったところ大きな段差が出きて進めなくなった。これ以上の前進は不可能なので引き返すしかないと思い下がって
よく見たところ、2〜3メートル上方にピンクリボンが見えた。白いテープは立ち入り禁止を意味するテープだった。危ないところだった。その後は急登の連続。
滑ればそのまま落ちていきそうな急傾斜である。何とか足を前に出してやっと稜線に出た。そこからすぐに山頂だ。
随分時間がかかった気がしたが、ほぼコースタイム通りだった。
山頂からの眺めは抜群で、鳥海山、雲を被った月山、飯豊連峰の障子ケ岳などが遠方に見え、近くには奥摩耶と呼ばれる鉾ケ峰と槍ケ峰の紅葉が鮮やかである
山座同定をしばし楽しんだのち、関川コースを下る。厩(うまや)神社の奥ノ宮、六体のお地蔵さんが鎮座している六体地蔵尊、避難小屋をあっという間に過ぎ
関川コースとの分岐の追分で一休み、その後,弁財天の滝の分岐で引き返してきた若い登山者とおしゃべりしながら駐車場に戻った。彼は私たちが祝瓶山の
林道で出会った京都の女性とおしゃべりしたそうだ。駐車場では地元の夫婦と情報交換、楽しい時を過ごした。着替えをし靴を履き替えて山形道、東北道、首都
高をまっしぐら、23時前に帰宅した。
今回の東北遠征は、「東北のマッターホルン」の名にふさわしい急登の連続の祝瓶山、沢筋と尾根筋の歩きがそれぞれに厳しい摩耶山、紅葉の真っただ中、秋の色を楽しみ
ながらの印象に残る登山となった。