難峰シリーズの上州朝日岳、北アルプスの鍬崎山に続いて第3弾は南アルプス前衛の森深き山の奥茶臼山。厳しい山に登るときに同行を依頼している友人に今回もお願いした。友人からの提案で、新宿のバスタから
出る長距離バスに乗って飯田まで、そこからレンタカーで標高1,910bにあるしらびそ高原「天の川」に行き、宿泊する、その途中、遠山郷の「下栗の里」に立ち寄り、ガイド付きで散策する、という計画となった。私一人
では到底そこまで気が付かないので、提案してくれた友人に感謝している。
奥茶臼山は南アルプスの赤石岳と聖岳の中間あたりから北西に派生する山稜の最高峰で、山頂は大鹿村に位置する。シラビソやトウヒなどの針葉樹林が山を覆い、コケの緑のじゅうたんが目に優しい。登山口と山頂の
標高差は約600bで、たいして厳しい山ではないと思いがちだが、実際には、前尾高山、尾高山、奥尾高山、岩本山と4つの峰が控えており、登り返しが大変である。また、山中には膨大な数の倒木が横たわっていて、登
山者の行く手を阻んでいる。倒木は1959年の「伊勢湾台風」やその後の台風で被害を受けたもので、そのまま放置されている。
[行程]
2021年9月21日(火)
自宅5:30→新宿バスタ6:55→11:00飯田駅11:15→12:30「下栗の里」15:40→16:30しらびそ高原「天の川」泊
22日
「天の川」5:05→5:10登山口5:30→6:08前尾高山6:22→7:04尾高山7:21→7:53奥尾高山8:05→9:00岩本山9:10→10:10奥茶臼山10:31→11:37岩本山11:45→12:29奥尾高山12:42→13:11尾高山
13:20→13:57前尾高山14:08→14:37登山口14:50→17:15飯田駅18:00→22:20新宿バスタ→自宅
[山行日誌]
バスタで友人と待ち合わせ出発。上高地や信濃大町行きのバスが出ていて、ザックを担いだ登山客もちらほらいる。4時間ほどで飯田到着、レンタカーで下栗の里へ向かう。
曲がりくねった狭い道を上がり、1時間ちょっとで下栗の里に到着。高原ロッジ下栗で地元産で作った昼食を頂く。信州の伝統野菜に指定されている「下栗いも」を味噌田
楽にしたものが美味しい。コンニャク、ソバなども素朴な味で中々である。このレストランの正面に聖岳、兎岳が見える。深田久弥の「下栗ほど美しい平和な山村を私は他に
知らない」と書かれた石碑が建っている。ガイドさんと待ち合わせ、説明を受けながら下栗の里を巡る。「天空のビューポイント」から下栗の里の景を眺め、そこからかなり下
ったところにある下栗拾五社大明神を祀る神社まで歩き、そこで毎年行われる「霜月祭」や「掛け踊り」について、ご自身の子供の頃の記憶をたどりながら説明して頂いた。
標高800メートルから1100bに点在する下栗の里でも、ご多分に漏れず過疎が進み、今では30パーセントが空き家となっているそうだ。
本日の宿泊地「天の川」に着く頃には雨が降り出した。翌日の予報は曇りのち雨だが、登山天気としてはAがついている。最悪のCではないのでほっとした。レストランで夕
食を食べながら道迷いの話をしていると、通りかかった支配人が我々の話を聞きつけて、「飯田市から補助金をもらって、8月に奥茶臼山へ4人で行き、チェーンソーで倒木
を600本切った。リボンも迷わないようにちゃんと付けた。」と言ってくれた。これはラッキーだった。距離が長い(片道8キロ)上に登り返しがきつい、これだけでも大変なの
に倒木、道迷いに気を使うことになれば、1時間、1時間半以上余分にかかるのは明白だからだ。憂鬱な登山が楽しみなものとなった。
翌朝、5時に出てみると雨は落ちてなかったがいつ降り出してもおかしくない状況だ。宿から5分ぐらいのところに登山口がある。雨具の上衣とスパッツを着けて登り開始。
カラマツの林の中、ササに覆われた登山道を歩き始める。すぐに雨が降り出したが、樹林帯なのでほとんど影響はない。急登をしばらく行くと前尾高山。一息後、降りて登っ
て尾高山。ここまでは登山道はよく整備されていて、倒木もほとんど目立たない。いつの間にかシラビソやトウヒが主役となっている。奥尾高山に近づくにつれて倒木が目立
つようになり、シダやコケの緑が鮮やかになる。雨は降り続き、強くなったり弱くなったりしている。切り口の新しい倒木があちこちに登場する。確かに登山道の邪魔になるよ
うな倒木はない。ピンクリボンも必要なところには必ず付けられている。奥尾高山から先は尾根というより広い山稜で、見渡す限り倒木が横たわっている。コケに覆われ、イ
スやゾウに見えるものもある。やがて岩本山。そこから平坦地をしばらく行くと最後の登りに差し掛かる。息絶え絶えで約170bの急登を越えると奥茶臼山の山頂。ここで急
に雨風が強まり、食べ始めた弁当をしまって慌てて下山にかかる。
登り返しが有るので油断はできないが、やはりほっとする。山頂直下の風の当たらないところで昼食を取り、一息ついたのち、下り始める。この頃から天候が回復し、ガスの
向こうに青空も見えてくる。岩本山、奥尾高山、尾高山、前尾高山と登り返しを何とかクリアー。約9時間半かかって登山口に到着した。これで倒木や道迷いがあったらとぞ
っとする。
今回の登山は、日本の原風景ともいうべき「段々畑」の美しい村を訪れ、その歴史や文化に触れ、また、コケに覆われた緑濃き山に登り、豊かな気分に浸ることができた。
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