カムイエクウチカウシ山(1,979m)

             


  北海道の二百名山で残っているのは、カムエク、芦別、暑寒別の3座で、あと2年で完登するためには今年中に終わらせる必要がある。唯、カムエクは二百名山では「最難関の山」と畏敬の念

               を込めて呼ばれていて、非常に手強い。当初はガイドに案内を依頼するかツアー会社に連れて行ってもらうことを考えていたが、出来れば何とか自力で登りたかった。そこで、長年の山の友人を誘って、

               二人で登頂を目指すことにした。

                計画では昨年の夏に登る予定であったが、林道が通れないという情報がありペテガリ岳に変更した。今年は浦河の荻伏からの林道が崩壊し、ペテガリ岳登山は中止になったとのツアー会社の情報が

                あり、また、暑寒別岳で出会った方も、7月にペテガリ岳に登るつもりで林道を行ったが、大きな穴が空いていて、とても通れる状況ではなかったとのことだ。結果的には昨年ペテガリ岳に登っておいて大

               正解となった。

                カムエクは、正式な名称は「カムイエクウチカウシ山」であるが、アイヌ語で、カムイは神、ウチカウシはシカを急な崖に追い詰めて追い落とす猟場、という意味だ、とアイヌ語地名研究の第一人者山田秀

               三氏は説明している。シカが落ちるほどの急傾斜の山ということだろうか。

                今年は何としても登りたいという思いが強くネットの情報に注目していると、7月からヤマレコに登った人の記事が出るようになり、登っている自分の姿をイメージし始めた。

               いずれにしても天候に恵まれないと絶対に登れない山であり、北海道の天気予報に注目していたが、8月の始めは大雨が降り、天を仰いだが、その後は天候が安定し、日高山脈山岳センターに問い合わ

              せたところ札内川の水位が下がり、膝までぐらいとのことでほっとした。

               [行程]

                 2016年8月6日(土)

                 自宅5:00→6:10羽田空港9:50→11:25帯広空港11:40→日高山脈山岳センター13:15→13:36駐車場14:00→七ノ沢出合15:25→17:50八ノ沢出合テント場

                    8月7日(日)

                 八ノ沢出合テント場5:15→三股7:15→9:00八ノ沢カール9:25→福岡大遭難碑9:37→11:30カムエク山頂12:00→13:34八ノ沢カール14:00→三股15:28→17:46八ノ沢出合テント場

                    8月8日(月)

                八ノ沢出合テント場6:15→8:26七の沢出合8:35→10:40駐車場11:00→日高山脈山岳センター11:10→「道の駅」中札内→「道の駅」虫類→13:15帯広空港




           
[登山日誌] 

出鼻から挫かれるとはこんなことを言うのだろうか。朝、4時半に起きて6時過ぎに羽田空港に到着したところ、前日の新千

歳空港での「保安所不通過」騒ぎで乗員のやりくりがつかず、帯広行きは2時間半
近く遅れとなっていた。一瞬、今日中に八

ノ沢のテン場に入れるか、と計算したが、何とかギリギリで到着できそうだ、と分かりほっとした。これは同行の友人がJAL

の便を取っており、先に行ってレンタカー
や食料の準備をしていてくれたお陰で、感謝している。偶々別会社の便を取ってし

まったが、これが幸いし
帯広空港を11時40分に出発、日高山脈山岳センターに寄って登山届けを提出し、10キロあまり離

れた駐車場に行ったところ、30台くらい駐まっており、満杯。カムエクはこの
夏一番の賑わいを迎えているようだった。

                







               準備を整え14時に出発できた。これはテン場まで約4時間かかることを考えるとギリギリの時間である。
まずは7.4キロの

              林道歩き。今回は軽登山靴を履いてきた。天気はほぼ快晴。日差しが暑い。トンネル
を2つ越え、札内川に沿って黙々と歩

              く。北海道特有の巨大なフキノトウがお出迎えだ。
ゆったりした緑濃い林道は北海道の山の特色だ。ほぼ2時間強で七の沢

              の出合に到着。沢靴に履き替える。
ここからは札内川に沿って、或いは川の中を八ノ沢のテン場を目指す。ピンクリボンを

              確かめながら進んでいくが、リボンは付いているが急流でしかも深く、渡れそうにない箇所があった。一瞬、ここを無理して


               渡ることを考えたが、上流に渡れる箇所を友人が見つけてくれ、事なきを得た。1時間近くここで停滞したが、無理をしてい

              たら間違いなく流されただろう。その後も熊の恐怖におびえ、また、道に迷いながら、
何とか6時前にテン場に到着した。

                 





テン場はおよそ20張りくらいテントが張ってあり、我々も砂地のスペースにテントを張ってほっと一息。 まずはビールで乾杯、


ラーメンやおにぎりの夕食を食べ、8時過ぎに就寝。翌日は4時半起床、5時15分に出発した。ピンクリボンや河原のケルンに

従って上っていく。本流を徒渉したり、急なところは巻き道に上がり、八ノ沢を詰めていく。唯、まともな道はほとんど無く、流木、

ササ、
倒木など気が抜けない。幸いなことに天気は快晴、崩れる心配は皆無である。左手に見事な滝が現れ、やがて標高約

1,000mの三股に到着。一本立てる。ここから八ノ沢カールまでが核心部、標高差600mを
一気に登る。水量の最も多い真ん

中の
沢の左岸に道が切ってある。かなりの斜度で、また、浮き石がゴロゴロしており、慎重に登っていく。2時間ほど頑張ると傾

斜が緩くなり、八ノ沢カールの底に着く。

                




             憧れのカールはだだっ広い緑の草原で、ウサギギク、オトギリソウ、ヨツバシオガマなどの高山植物も眼に付く。ここで軽登山

            靴に履き替え、山頂に向かう。およそ40年前、ヒグマに襲われた3人の福岡大生の
遭難碑に手を合わせ、ピラミッド峰とカムエ

            クを結ぶ稜線に向かう。稜線分岐のコルから痩せた岩稜を北上し、ハイマツに足を取られながら11時半に山頂に到着した。


            頂には真新しい標示板が置いてあり、記念撮影をし、幌尻岳やペテガリ岳などの山座同定を楽しむ。中札内の山岳会の方に

            説明をして頂く。山頂には20名くらいの人がいて、今年一番の賑わいだそうだ。



                 



 30分ほど休んで下りにかかる。まだまだ大変な道中なので全く気が抜けない。まずは八ノ沢カールの底まで下り、一休み後、

三股まで急降下する。この辺りから旧式の沢靴のため、爪先に痛みが出始める
が我慢するしかない。耐えること2時間弱で三

股に到着。道が平坦になると痛みが無くなる。相変わらずルートファインディングは楽ではなく、ピンクリボンや河原のケルンを

探しながら下って行く。ようやく6時前に
テン場に到着。合計12時間半、行き、帰りがほぼ同じ時間かかった。 テン場ではたき

火をおこし、濡れた靴や服を乾かしながら、ビールで乾杯、無事の登頂をお互いに祝した。夕食を摂って、その日は爆睡、朝ま

で目が覚めなかった。






                 翌朝はゆっくり5時過ぎに起床、朝食を摂り、テントを撤収、6時過ぎにテン場を出発、2時間ほどで七の沢出合、沢靴を

              履き替えて、2時間ほど歩いて駐車場に到着、日高山脈山岳センターに無事登山が終了したことを報告
、道の駅「虫類」で

              ゆり根のかき揚げ丼を食べ、帯広空港で友人と別れ、妻と待ち合わせ、次の目的地、芦別岳、暑寒別岳へと向かった。

               
カムエクは誰もが認める最難関の山、私の愛読する「二百名山紀行」の投稿者は5回目にしてやっと登れたそうだ。3日間

              ほぼ快晴に恵まれ、飛行機の遅れも何とかクリアーし、1度目で無事登頂できたこと
は本当にラッキーと言うしかない。同行

              してくれた友人に心から感謝したい。
南北に重畳と連なる山並み、深く切れ込んだ険悪な沢筋、八ノ沢カールの雄大な緑の

              草原、日高らしい遡行での登頂、この感激は生涯忘れることはないだろう。



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