赤石山脈に属し南アルプス深南部にあるこの山は、名前のように山体が大きく、どのルートを取っても行程が長い。近年、鋸歯と呼ばれている小ピークのP4〜P1までの区間の崩壊が
激しく、事故が起きればいずれは登山道の閉鎖も取り沙汰されるかもしれない。
私も早いうちにと考えていたが、 少し前に読んだ「ヤマレコ」の記事に、落石が続き、設置ロープも役立たずで、命からがら通過した、と有り、これでは、個人では無理と考え、ツアーを探
したところ、名古屋が拠点のP社の主催のツアーが眼に付いた。早速電話して確かめたが、既に定員に達して締め切った、とのこと、途方に暮れたが、折り返し電話がかかってきて、ガイド
を2人体制にするので、参加可能とのこと、直ぐに申込書を郵送、費用を振り込んだ。
[行程]
2017年5月26日(金)
自宅7:15→新横浜8:16→9:23静岡駅10:00→11:00竜爪山14:30→16:30「大西旅館」泊
27日(土)
大西旅館3:30→3:45田代登山口(諏訪神社)4:00→6:53小無間小屋7:00→8:44崩壊地点9:24→小無間山9:48→11:40大無間山12:00→小無間山14:02→14:46崩壊地点15:30→小無間
小屋16:33→18:20登山口18:35→18:45大西旅館
28日(日)
大西旅館7:40→10:00静岡駅10:20→新横浜11:15→12:05自宅
[登山日誌]
行程は、1日目は静岡駅に集合し、近くの竜爪山(りゅうそうざん)という標高1,000m程度の山で足慣らし、ということだ
った。生憎の雨で、中止かと思ったが、小止みになり、竜爪山の麓まで車で入り、階段の多い登山道を登った。ガイド2名
を含めて総勢10名、全てが二百名山、三百名山に挑戦中のようだった。車中の話を聞いていても、知らない山の名前
が飛び交って、それぞれが自身の流儀を持つ強者のようだった。この大無間山を目指すのは、自分達だけで行くほどの
力量はないが、ツアーの力を借りれば行ける人達で、それなりの達人ということか。
およそ千段ある階段を通って小雨の中を歩き、1時間ほどで竜爪山の薬師岳、文殊岳に到着、その後、昼食を摂って、2
時半頃下山、2時間ほどかけて、大井川鉄道の終点井川から30分ほど先にある田代の大西旅館に着いた。畑薙
湖が直ぐ近くにあり、まさに深南部へやって来た、という感じだった。
旅館の食事はフランスで修行を積んだという女将さんが和風の素材でフランス料理に挑戦、ということで、色々
説明されたが、皆明日の登山で頭が一杯、7時過ぎにはお開き、それぞれの部屋に帰り、翌日に備えた。朝2時
半に起床、ザックを確認後3時半に宿を出発、15分ほどで諏訪神社の横にある登山口に到着、真っ暗の中、ヘッ
デンを点けて歩き始めた。天気は夜中まで雨が降っていたが、2時頃止んで、星が見える。 10人のパーティで
私はガイドの直ぐ後の2番目をキープ、それぞれの脚力が全く未知数なのlで、無難な位置取りをした。
登山口が標高700bぐらい、山頂は2329b、標高差1600bだが、小ピークが連続しているので、実際には相当な上がり
下がりとなるようだ。 まずは緩やかな造林帯を進んでいく。少しずつ夜が明けて、歩き始めて30分ぐらいでヘッデン無し
の歩行が可能となる。雷段を過ぎ、池口岳でも見たシカ除け用の青いビニールテープを横目で見ながら、急登を息を弾
ませながら行くと、青い屋根の小無間小屋が現れる。ここらはP4と呼ばれる地点で標高は1800b。ここからP3、P2、P1
という激しいアップダウンが連続する。「鋸歯」と地図では表記されている。P1を下ると、いよいよ登山の核心部の崩壊地
点にやって来る。登山道は道幅50pくらい、長さ10メートルくらいで、両側は切り立っている。真ん中ぐらいからは残置ロ
ープが2本延びている。道は崩れやすそうだ。
まずは2人のガイドが立木を利用してロープを固定、参加者はハーネスを付け、スリングとカラビナでロープに身体を
固定、墜落防止を図りながら、狭い道を渡っていく。特に問題はないようだ。装備を付けたり外したりに時間がかかり、
結局1時間程度滞留した。その間、ハクサンコザクラ、コイワカガミ等が目を楽しませてくれる。特に白色のコイワカガミ
は珍しい。浮き石の多い急斜面を登ると小無間山に到着。平坦地でシラビソなどの針葉樹に囲まれ展望は全くない。次
の唐松谷の頭では雄大な大無間山と富士山が望める。中無間山を通り、更に稜線を進むと、展望地に出る。南アルプ
スの山頂部の長い聖岳、双耳峰のような赤石岳、そして悪沢岳などが雪をたっぷり残して揃い踏みだ。更に少し行くと
山頂に着く。大きな山名標示板の前で次々に記念撮影し、昼食休憩に入る。
帰路も長いので、20分後に下山にかかる。まずは中無間山までの緩やかな下り、更に小無間山への急登、幾つもあっ
たアップダウンだが、ここは格別きついものだった。何とか下ると崩壊地点。 1時間ほどかけて、行きと同じようにロー
プで安全を確保する。更にP1〜P4までの鋸歯。小無間小屋が見えてほっとした。ガイドの方から、何とかヘッデンを出
さずに登山口に着きたい、とのことで、スピードアップ。パーティは2つに分かれたが、最後尾をもう一人のガイドが付い
ているので心配は無い。 小無間小屋から2時間ほどで登山口のある諏訪神社に到着、まだ明るかった。宿に帰り、皆
で乾杯。無事何とか登れたことに皆満足の表情であった。
翌日はのんびり7時半に出発、10時前に静岡着、新幹線、横浜線、田園都市線を乗り継いで、正午に自宅に到着した。
南アルプス深南部のこの山にどうやって登るか、と色々考えたが、ツアーを利用して安全に登れたことに満足している。崩壊地点は思ったほど危険ではなかったが、それは結果論、実際に行って
みて初めて分かることだ。また、懐の深い、緑の濃い山道をたっぷり歩けたこともとても良かった、と思っている。