二百名山完登まで残り5座、何とかこの夏中に終わらせたいと思い、作戦を考えたが、南アルプスの2座、笊ケ岳と上河内岳のコースの選択が難しい。特に、笊ヶ岳には色々コースが有る。
静岡県側の椹島から往復するコース、二軒小屋から入って転付峠を経て笊ヶ岳を往復するコース、いずれも東海フォレストのバスの制約を受ける。朝日のガイドブックを読んでいたら、
山梨県側の富士川上流の雨畑からのコースが有り、老平から入って、布引岳で幕営し、笊ヶ岳をピストンするコースが紹介されていた。唯、このコースは標高差が2100b有り、急登の連続で、
日帰りピストンは困難と書かれていた。ネットを見ると、幾つか山行記録が載っている。妻と一緒の場合は布引山で幕営が必要となるが、妻が急登を理由に回避したので、荷物を軽くして、
日帰りピストンに挑戦してみる事にした。標高差で言えば、今までの1日の最高は北アルプスの毛勝山と越後三山の一つ中ノ岳の1600bであり、今回の2100bは未体験の領域となる。
笊ヶ岳は、富士山に次いで高峰である南アルプス北部の北岳に始まり、南下して安倍山稜に連なる白嶺南嶺の中程にあり、南アルプス南部の聖岳、赤石岳、悪沢岳の展望台と言われ、
大笊・小笊二つの山頂を持つ双耳峰である。
[行程] 2017年7月14日(金)
自宅9:30→国立・府中IC10:15→甲府南IC→15:00 ヴィラ雨畑泊
15日(土)
ヴィラ雨畑3:30→老平3:40→広河原5:38→山ノ神6:21→
桧横手山8:39→10:37布引山10:40→11:56山頂12:20→13:23布引山13:30→桧横手山14:38→山ノ神16:13→広河原16:44
→老平18:00→ヴィラ雨畑18:10→甲府南IC19:00→国立府中IC21:10→21:50自宅
[登山日誌]
ナビでみると、自宅から雨畑湖まで240キロ程度なので、朝はゆっくりと準備し、9時半に自宅を出発
中央道国立・府中ICから中央高速に乗り、甲府南ICで下りて約1時間30分で、富士川上流のダム湖
の雨畑湖に着いた。
ヴィラ雨畑は元小学校の敷地に建てられ、ゆったりとした造りである。この地では硯の材料となる石
が採掘され、硯が製造されていたが、今では過疎化が進み、人口が当時の約10分の1の1200人まで
減ってしまったそうだ。
翌朝、3時に起床、身仕度を調え、ヘッデンを点けて宿舎を出た。途中まで街灯が有ったが、老平駐
車場を過ぎ、ゲート辺りから真っ暗闇、手書きの登山届をボックスに入れ、林道へ入って行った。時々
月が出てきて辺りを照らす。多少恐怖感もあったが、それよりも日帰りするためには少しでも時間を稼
がなければ、という気持ちの方が強く、ズンズンと飛ばし、林道と分かれて狭い登山道へと回り込む。
その時、5bぐらい前を岩らしきものが落ちていった。「落石」と一瞬思い、岩の行方をみると、崖の下ですっくと立ち上がった。
鹿である。多分、こちらのライトにびっくりして落ちたらしい。落石ならぬ落鹿であった。
途中、ザレた沢をトラバースしたが、ロープが渡してあり、危険と言うほどではない。何回か吊り橋も渡ったが、しっかり整備が
出来ていた。2時間弱で広河原に着き、徒渉、飛び石伝いで渡れた。ここから山ノ神まで700bの急登、50分ほどで石祠に着く。
ここだけ少し緩やかとなるが、再び急登が始まり、カラマツの植林帯に入って行く。ケーブルやワイヤーロープが散乱する架線
場跡を過ぎ、コメツガやシラビソの林の中、噴き出る汗を拭いながら歩を進めると、また、少し緩やかになって桧横手山に到着。
標高2000bを越えた。
この辺が最もきつかった。二度の急登で疲労困憊、足が思い通りに前に進まない。登山人生で初めての体験である。
懸命に自らを鼓舞して一歩一歩足を進める。ようやく布引崩の縁に出て南アルプス南部の山々が現れ、元気が回復し
た。主稜線に出て、所の沢越からの縦走路と合流すると直ぐその先が布引山である。ここで一息入れ、ここからの急降
下に備える。2400b地点まで下り、そこから250b近く一気に登って、岩塊とハイマツに覆われた笊ヶ岳山頂に到着。悪
戦苦闘の8時間半だった。
山頂からの眺望は唯々感動だ。山頂の長い聖岳、沢にたっぷり雪を残している赤石岳、そして荒川岳、悪沢岳、塩見岳
南アルプス北部の北岳、間ノ岳、先日登った大無間山、南アルプスの山々の揃い踏みである。
小笊と重なる富士山を是非見たかったが、残念ながらガスの中だった。帰りのことが気になり、簡単に昼食を摂って下山
にかかった。帰りは布引山への登り以外はほとんど登りはないので、気持ちが軽い。布引山ではソロの女性と話しをした。
転付峠の方へ縦走するそうで、ツエルトが有ればどこでも寝られると言っていた。羨ましい。
布引山を13時半に出た。妻には16時から17時の間に戻る、と伝えてあったが、ピッチが上がらず、難しいようだ。布引山か
ら桧横手山はまずまずのペースで下ったが、桧横手山から山ノ神は長い。気温がどんどん上がってきて、汗が絞れるくらいだ。
水はペットボトル(500cc)5本持ってきたが、残り1本半。ここら辺りから休む回数が増えてきて、気がつくと休んでいるという感
じだ。危険な箇所は無いが、狭い道なのでずり落ちないように細心の注意を払って下って行く。やっと山ノ神に到着。汗を拭う。
ここから700bを40分で下り、広河原。ほっと一息。先行者が水遊びをしている。タオルを濡らし頭を冷やす。実はあまりの暑さに熱射病にならないか心配していた。崖から水がしたたり落ちている箇
所が幾つかあり、天然のシャワーを楽しむ。最後の山道を味わいながらヴィラ雨畑で待機していた妻に電話。老平まで迎えに来てもらい、心配してくれていたヴィラ雨畑の従業員の方に挨拶をして、帰
宅の途についた。
今回の登山は自身の体力の限界を試すものだった。南アルプスの深南部の山で、一人登山を楽しみながら、精神的にも身体的にも一つ上のレベルに行けたような気がしている。また、天気に恵まれ、
南アルプス南部の山々を間近に眺める事ができ、とても印象に残る登山となった。