第4章 コンピュータを用いた授業を対象とした質的な研究

A小学校の分析事例

<分析事例1

 1.背景

 第一の段階「授業における子ども同士の教え合いの存在とそれに対する教師の望ましい  

       対応」

 そして更に他の観察で得られた知見と総合して分析し

      「教育に新たなテクノロジーが導入される場合に,そのテクノロジーが,教

       師によって,以前の授業に文化的に同化するように利用される」

 という,コンピュータに対する教師の潜在的な文化態度の理論化を試みる。

 

 2.「授業における子ども同士の教え合いの存在とそれに対する教師の望ましい対応」

爆発 2: だめ

教師は,容認。そして

奨励

 
楕円: 子どもの教え合い    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

額縁: このような観察と分析により,
*	教え合いの存在と,教師のそれに対する不適切な対応による無秩序な教え合いへの発展の問題を発見
*	それに対する適切な対処法を発見
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


3.「教育に新たなテクノロジーが導入される場合に,そのテクノロジーが,教師によって, 

 以前の授業に文化的に同化するように利用される」

 

 コンピュータを用いた授業では学習活動が孤立化する。しかし,これまでの教室文化の中で学習してきた歴史を有しているから完全に孤立化してしまうことは望まない。

フローチャート : 代替処理: たずねる・教える(ボランテイア的な行動)・泡状コミュニケーション
教師が基準を設け工夫を行う

 

 

 

   

          

楕円: 学級の文化的な状況を従来の状況に近いものに保つことによって,学級活動の孤立化を防ごうとする自覚的・無自覚的な教師の態度が存在する。
 

 

 

 

 


4.分析のまとめ

 以上を,質的データ分析・表現法の一種である概念ネットワークで表現した。

                               (図4−1)

 

 

<分析事例2>

 1.背景

  「コンピュータを用いた授業での,さまざまな問題やトラブルは,授業や授業者のど

 のような要因と結びついているのか」を解明するため,質的データ分析を行う。

 2.分析方法

  質的マトリクスのうちの,事例間・メタマトリクス法である。

 3.基本マトリクスの作成

   図4−2を参照

 4.マトリクスのソートによる分析

授業者の教職経験年数の長い順にソート(並び替えた)したマトリクスを作成

コンピュータの経験年数

…しかし,明確な関係が見いだせなかった。

授業者の特性ではなく,CAILOGOかという授業形態と関係があるらしい

 
そこで……

*授業の形態でソートしてみた。

 

5.CAILOGOによる類別で現れる特徴

  仮説…「CAIでは子どもが長い間コンピュータに向かっているが,LOGOでは,多様 

     な指示や説明を必要とするため一般の一斉授業と同じ特性を有するにもかかわらず,そのうえさらに学習活動が個別になるため,規律・統制上の問題が生じやすい」

6.この仮説に反する例外の存在とその意義

  DHJの授業がこの仮説に反するが,この2種類(3件)を排除せず,観察記録にかえって詳細に検討し,この仮説から逸脱するだけの条件が揃っていることが確認できれば,かえって仮説を支持することになる。

7.仮説の例外となる授業の検討

@Dの検討

教師と生徒のやりとりから分析する。

角丸四角形: CAIを用いてはいるがその操作法の説明を必要としており,しかも複雑な内容なので典型的なCAIの授業の特徴を備えていない。
 

 


     

AHの検討

コースウェアにバグがあり,教師は隣の障害児学級の教師に相談しにいく。

角丸四角形: 非常に特殊な条件を有しており,典型的なCAIの授業の特徴を備えていない。
 


  

BJの検討

TTの授業。SK(学級担任)は授業の学習指導面の進行をKKに任せながらも,自分の学級であるという責任の自覚の上に子どもに対して規律・統制面の指示を直接出す。

SKのコンピュータに対する自信が教授行動の背景であると考えられる。

C確認のためのTTによるIの検討

SKHMの経験の差による違いがあった。

D分析のまとめ

180ページのaからfを参照

 8.質的データ分析手法としての質的マトリクスの適用の評価

  分析1(理論的コード化)

分析2(質的マトリクス)

要素間の潜在的関係や事象に潜在する原理を,段階的な手続きによって発見し,理論化をめざした。

 

ある要因に着目したソートという手段でケースを再配置して表示することで,要素間の潜在的な関係をパターンとして発見あるいは認識しやすくした。

分析者が思考の道筋を建てながら連続的に理論を作り上げていく。

 

ソートという非連続な過程を経て,予測しなかった関係を分析者につきつけて発見を迫る。

リスト2−1(147ページ)を参照にして,他の質的データ分析も試みて,質的研究を発展させることが筆者の課題である。