ガードナー講演会に参加して

中根 信一


「21世紀の教育,創造性と多重知性」
Creativity and Multiple Intelligences(MI) in Education
ハワード・ガードナー(ハーバード大学教育大学院教授)講演会
コーディネーター:佐藤 学 (東京大学大学院教育研究科教授)

日時:平成15年6月7日(土)
会場:東京大学 山上会館


なぜ参加したのか。

 昨年くらいから,この多重知性理論(MI理論)には興味がありました。この考えを何か教育に応用してみたい。そのためにはまずMI理論はしっかり理解したい,そう考えていました。するとタイミング良く,ガードナーの講演会があることを知り,参加することにしました。本当は,シンガポールだったか他の国で行う予定だったのが,SARS関連で急遽日本に変更したのだと言ってました。土曜日ということもあり,絶好のチャンスだと思ったのです。

伝統的な知性の見方

 知性は,生物学的なもので,一生変わらない。テストなどではかられるもの。Bell Curb などで表せる。ピアジェなどに代表される。画一化された学校では,主に,言語的知性,論理・数学的知性だけが重んじられ,他の能力はおざなりになっていることが問題である。

新しい見方

 進化論的証拠,小さいときに才能を発揮する子ども(神童),脳の作用,自閉症の子どもなどの研究成果からガードナーが,多重知性を提唱。
 ガードナーによると,知性とは,ある文化的背景において活性化され,問題を解いたり,その文化において価値があるとされるプロダクト(製品,成果)をつくることができる,ある種の方法で情報を処理する生物学的,心理学的潜在能力のことであるとしている。

MI(多重知性)理論とは何か。

 人は皆それぞれ,一組のMultiple Intelligences(多重知性)を持っている。また少なくともその8〜9つの知的活動における特定分野で,才能を大いに伸ばすことができる。(言語的知性,論理・数学的知性,音楽的知性,空間的知性,運動感覚的知性,対人的知性,内省的知性,博物学的知性)

8つの知性
(1)言語的知性(Linguistic Intelligence)
 言語的知性とは,心にあるものを表現し,他人を理解するために言葉(自国語,他国語)を使う能力です。たとえば,詩人などがこれに当てはまります。このほかにも,政治家,弁護士などもそうです。
(2)論理・数学的知性(Logical-Mathematical Intelligence)
 数量を操作するのが得意で,ある因果システムに介在する法則を科学者や理論家のように理解することができます。
(3)音楽的知性(Musical Intelligence)
 音楽で考える能力で,パターンを聞くことができ,認識したり,覚えたり,巧みに使うことが得意です。音楽的知性の強い人は,いつどこにいても音楽とともにあるそうです。
(4)空間的知性(Spatial Intelligence)
 心の中に空間的世界を再現する能力です。航海士やパイロット,チェス・プレイヤー,彫刻家などが持つ知性です。空間的知性は芸術や科学において使われます。空間的知性があり,芸術に向いている人は,音楽家や著述家より,画家か彫刻家か建築家になるでしょう。解剖学,位相幾何学のような科学でも空間的知性が重要になります。
(5)運動感覚的知性(Bodily-Kinesthetic Intelligence)
 からだ全体又は一部,手,指,腕などを使って問題解決する能力です。具体的には,運動競技選手や特にダンスや舞台の演技者がもっています。
(6)対人的知性(Interpersonal Intelligence)
 他の人を理解する知性です。誰でも他の人と取り引きしたり関係を結ぶとき,この領域で熟練を必要とします。教師,医者,セールスマン,政治家は大いに必要です。
(7)内省的知性(Intra-personal Intelligence)
 自己理解の知性です。自分が誰か,何ができるか,何をしたいか,物事にどう反応するか,何を避けようとするか,何に惹かれるかといった自分自身を理解する知性です。
(8)博物学的知性(Naturalist Intelligence)
 自然主義的知性とも言います。自然の中でどう生き延びていくかといった知性です。博物学者は,自分の環境の多数の種,動植物を見分けて分類する優れた能力を持っていることからこの名前がついたようです。

知性は習得できる

 MI理論によると,知性は,学び得るものであり,より賢くなれる。インテリジェンス・プロフィールは変化する。

5つのエントリーポイント

 どんな学習課題にも5つの入り口がある。5つの入り口とは,審美,逸話,論理・量,根拠,経験である。
 生徒にとって,どのエントリーポイントが適切か。これを考えて,教師は,教材や方法,評価を考えると良さそうである。

創造性について
 

伝統的な創造性とは,
 ・個人的な特性で,頭(心)の中にある。
 ・一つにおいて創造的であれば,すべての領域に当てはまる。
 ・芸術の領域だけに閉じこめられる。
 ・生まれつきのものである。
 というものであるが,ガードナーはこれらを批判的にとらえている。
また,creativityとCreativityは区分されるものであると考えている。前者の創造性は,子どもの芸術性,創造性などであり,後者のそれは偉大な人が発揮する創造性である。
新しい考え方の創造性とは,
 ・問題を新しい方法で解決する。
 ・新しい問いを見つける。
 ・ある領域だけで発揮される。
 というものである。
Youth of Creatorsは
 ・生まれたとき中産階級
 ・親の支持を受けている
 ・ある年になると大都会に住む
 ・そこで自分と同じ考えを持つ仲間と出会う
 という共通点があるという。

Creatorは
 ・childlike(子供っぽさ,遊び心)をもつ
 ・情熱を持ってcommitmentを行う。何年も何年も行う。
 ・自分の仕事において,実直さを持つ。(sense of Honesty,Truthfulness)

Extraordinary personから学ぶ3点(3 lessons)
 1.Reflecting 自分がやっていることはどうか。自分に問いを投げかける。反省。
 2.Leveraging 自分が得意なところを見いだす。強みを発揮できるところに焦点化する。
 3.Framing 失敗から学ぶ(わくづけ)

感想

 MI理論をすべて書くことはこのページの目的ではない。本を買えばよい。また,そんな力量もない。ただ教師として,この知性の考え方は,生徒を見る見方を変えるものであるし,生徒の可能性を広げていくものであると確信する。この理論に基づいた実践をして,MI理論の有効性を考えてみたい。
 また,会場から質問がいくつか出たが,ほとんどの人が英語で質問していたので,正直驚いた。俺もいつか・・・。

参考資料

参考図書
 "Intelligence Reframed"-Multiple Intelligences for 21st Century- Howard Gardner
 邦訳版 MI:個性を生かす多重知能の理論 松村暢隆訳 新曜社

 邦訳版 「マルチ能力」が育む子どもの生きる力 トーマス・アームストロング 吉田新一郎訳 小学館

WebSite
 ハーバード・プロジェクト・ゼロ
 Adult Multiple Intelligences
 Education with New Technologies(ENT)
 Active Learning Practice for Schools(ALPS)
 Harvard Graduate School of Education,WideWorld Online Course

最後に

 このWebPageは,ガードナー講演会および講演会資料(ソニー上條雅雄氏作成)を参考にしました。

戻る


2003-6-8作成
Copyright(C) S.Nakane 2023.All Rights Reserved.