「ほら」
「──ん」
 目の前で繰り広げられた光景に島野は絶句した。自分がどこか異空間にまぎれ込んだような気さえした。でもここはいつものロッカールームで、今は部活練習後のお着替えタイムで、そこに居るのはチームメイトの友人二人で、──つまりはどこぞの茶店やファーストフードのイチャイチャラブラブ・バカップルを前にしてでは別になかった。ないはずだった。
 
「あ、ホントだ。うまいねコレ」
「だろ?」
 日向は右手にしたプラスチックスプーンを左手に持ったヨーグルトミニ容器に突っ込み、今度は自分の口に運び直した。
「なんか凄ぇトロっとしてて舌触りいいっつーか。甘さも俺にはちょうどいいカンジ」
「えーと、ナニ? 生クリーム…増量?」
 若島津は首を斜めにかしげて、日向の手許の容器を覗き込む。
「へえ、生クリーム増量なんたらってのはプリンの特権かと思ってた」
「なんでそこで限定してんだよ」
「や、イメージイメージ」
 そっちのも寄越せよ、と言われて若島津は自分の手許に目を落とす。
「えー、お前も食うのー」
「自分は貰っといてそれかよ!」
「日向の一口、デケぇんだもん」
「じゃお前が量決めろよ」
「あそうか」
「ちょ、それ少ない少ない! 俺、もうちょっとお前にやっただろー」
「うっそ、こんぐらいだったよ」
「すくねえー!」
 叫びながらも日向が口を開けて待ちの体勢。ん、とこれも素直に若島津がその口にスプーンを突っ込む。
「──あっま! 甘過ぎ」
「食って文句言うしー」
「麦茶くれ、麦茶。ってか、お前髪ちゃんと拭けよー。ボタボタ水が垂れてんじゃねーか」
「いーよ、寮戻ったらドライヤーかけるって」
「その前に寒風にさらされるって考えはねえのかよ。風邪ひくだろ馬鹿」
 日向が横にあったタオルを掴んで若島津の頭に被せる。「んおっ、いらねえっ」とか叫び返しながら、結局は若島津は日向に頭をゴシゴシとこすられている。
 
「──…反町」
 島野は隣で着替えていた反町にひっそりと耳打ちした。
「なに? あれ、島野シャワーまだなの? 空いてんよ?」
「入る、今入るけど、……なあ、あのさあ」
「? だからナニよ?」
 その時、島野は言いたかった。
 ウチの部・来年度のキャプテンとサブキャプテン候補、同期ではダントツトップでレギュラー入りを果たしたFWとGKのツーカーコンビ、──あいつらちょっとおかしくね?、と。
 百歩譲って『自分が持ってる食い物の取り替えっこ』はアリとしよう。でもなんか雰囲気が果てしなくおかしくねえか? 男子高校生通り越して女子的ベタ度、いやむしろそこも通り越して、……ビミョーな空気を感じてるのは俺だけなんかい!?
 島野の物言いた気な目線の先を点々で結び、反町は日向と若島津の方角へ顔を向けた。
「あ! なに食ってんのお前らー!」
「ンー。日向ご推薦の新発売滑らかプレミアヨーグルト」
「と、こいつのはチョコババロア。くっそ甘ぇ」
「だから日向、人の食ってて文句言うな!」
 ひと口チョーダイ、と二人に寄って行った反町は気軽に言う。ひとくちだけな!、と念を押しつつ若島津は反町にババロアを容器ごと渡す。
「あ、そこは渡すんだ…」
 思わず呟いた島野の声に気付いて、「?」とクエスチョンマークを飛ばしながら若島津はこっちを見る。そして横から日向に「俺ももうひと口」と突つかれて、
「日向には甘ぇんだろ! 無理して食うな!」
「ふた口でジューブンって話だろ」
「だーからァ、うまいんだったら素直にうまいって言えってのー」
 とか何とかボヤきながら、反町に返された容器からスプーンでババロアをすくい、
「ハイ」
「おう」
 日向には小さなスプーンでひと口分を差し出す。
 
 
 ───ねえ、俺が悪いの!? 俺が勝手に変な電波を受信してんのっ!??
 島野はぶるぶると頭を振って、一人シャワーブースへと足を向けた。
 
 














09.02.28
 日記で以前に記した事ありますが、島野だけは大分最初の方から「うっかり」気が付き始めていたかもしれませんという話。(反町は既に毒されているというか、身近に居すぎる事が幸いして本気でスルーしているらしいです)

 
 「お口あーんv」ネタをリクエスト(?)で口走ってしまった某tさんに捧ぐ(笑)
 

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