殺しあいかセックスか、どちらかしかないと言われればセックスの方がマシに決まってる。どちらかだ。選択肢は他にはない。
 互いの眼を見た瞬間に分かってしまい、そうなると今ここで取るべき行動はひとつしか無かった。若島津は目の前の男の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「閉じろよ」
 焦点がブレるほどの至近距離、それでも睨み付けるように吐き捨てる。
「どっちをだ?」
 なのに馬鹿ばかしい、早くも二つ目の選択だ。もちろん目を、と言うつもりだった。口を開けっ放しでキスを待つ奴がどこに居る。だが男の鼻で嘲うような口調が気に入らなくて、若島津は答えないまま男の下唇に噛み付いた。
「…ツッ、」
 男は顰めた顔を僅かに逸らせた。鉄の味が舌先にじわりと染みて、若島津は嘲笑を鏡のように返してやる。
 今度は男の腕が若島津の腰に回る。いささか唐突で無造作な動きで。意地でも避けないつもりだったが、唇を覆い塞ぐようなキスの息苦しさに、思わず身体が揺らいで抵抗しかける。それをまたねじ伏せて男がしつこく唇と舌を絡めてきて、おかげで口の中はお互いに血まみれだ。
 息を接がせろというつもりで背中を少し逸らせる。けれどもそれすら男の強い両腕に阻まれてしまう。拘束は余計にキツくなった。腰から背中を強く抱き込まれながら、若島津は崩れ落ちないために男の肩に腕を回した。
 苦しい。酸欠を起こしかけた頭の片隅で考える。少しでもマシな結末を。
「……は、ァっ」
 ついに我慢し切れず、頭を振るようにして男の唇から逃れる。顎に伝い落ちた唾液を拭おうとしたが、手首を掴まれてそれもままならない。
 何度目かに眼が合った。男の感情は読めなかった。ただ琥珀色の虹彩が街灯の光を弾いたのが見えただけだった。
 
 殺しあいかセックスか。マシなのはどっちだ。決まってる。殺して済むならそのほうが簡単で後くされのない決着の付け方だ。なのにそれで済まないのが分かった以上、身体を繋いで互いの底を覗き込むような真似をするしかない。
「ふ、…」
 若島津は笑い出しかけた。さきほどとは違い、本気で腹の奥底からおかしみがこみ上げかけた。だがそれは男の癇に触ったらしい。強引にまた掴み寄せられて唇を塞がれる。
 逆らわず、若島津も男の頭に腕を回して抱き込んでやる。硬い毛先が指を掠める。
 そうだ、どれだけ悪趣味だろうが選ぶなら少しでもマシな結末。  










10.07.20
7/19のブログ内容から派生。
『若島津が根っこから日向に「甘くない」コジケン』というものを模索してみたら何故かこんな感じに。
タイトルはテキトーです。

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