時折、夜に何かが怖くて目が覚める。何がなのかは分からない。ただ単に考えたくないだけかもしれない。
 それでも再び目を閉じる事は出来なくなって、寝返りを打って狭い二段ベッドの壁を眺める。
 こんな時、日向の寝息が聞こえるとホッとする。ベッドの下の段から人の気配がするのは、早い鼓動を少しずつ落ち着かせていく。
 これが日向でなかったらどうだろう?、と考えてみる。実家では自分は子供の時から一人部屋だった。こんな身近に寝起きを共にした相手は、修学旅行や合宿を除けば日向だけだ。比較対象の少なさにすぐに思考は行き詰まる。だからやはり考えても仕方がないのだ。
 
 
 その内に我慢が出来なくなって、布団を抜け出して梯子段を降りる。裾の短い仕切りカーテンを開けて中の日向を覗き込む。窓から漏れ入る屋外灯だけを頼りに、その肩の辺りに片手を置く。
「…なあ」
 熟睡していたらしい彼は声をかけられたくらいでは目を覚まさない。置いた手で軽く体を押してみる。低い呻きで、日向は顔を覆うように片腕を上げた。
「…なあ、日向ってば」
「……んー…」
「そっち詰めろよ、少し」
 投げられた言葉をハッキリ理解しているのかいないのか、それでも日向は押されるままにシーツの上を少しズレた。そこへ無理に潜り込む。
 いつも日向は目は開けない。開けたとしてもきっとこの暗がりでは互いの表情までは分からない。だが息遣いと、匂いと、温度を感じる事は出来る。自分の口からは無意識に安堵のため息がこぼれる。
「──…また、…だろ、……おまえ…」
「……うん」
 夢じゃない。別に怖い夢を見たわけじゃない。でも怖いんだ。息が止まりそうに怖い。
 だから全部が夢で終わればいいのに。世界が夢の中で終わればいいのに。
 
 日向の腕は温かい。抱き込むようにされて耳元に掠った湿った息が、意味のない混乱や怯懦を全て押し流していく。
 しばらく待ってから目を閉じると、暗闇はすぐに安寧の場所に変わった。二つの呼吸と鼓動は穏やかに重なりあい、小さな世界を柔らかな眠りにいざない始める。
 
 穴蔵の中の熊の子供みたいだなと、最後の意識でぼんやりと思った。












 08.?
最初に拍手に置いたもの。これのみちょっと変わり種っぽくなってしまったので、一応は別枠で。

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