実施日:9月5日(土)〜8日(火)
コースタイム
9月5日 快晴
小淵沢(3:10ムーンライト信州)〜白馬(5:39 5:50)〜バス〜猿倉(6:17 6:30)〜白馬尻(7:18)〜岩屋跡(8:55)
〜村営ロッジ(11:15 12:55)〜白馬山頂(13:25)〜村営ロッジ(13:50)泊
9月6日 快晴
村営ロッジ(6:05)〜鑓ケ岳(7:35)〜天狗山荘(8:15)〜不帰キレット(11:00)〜唐松岳(11:25)〜唐松小屋(11:40)
〜五竜山荘(13:45) 泊
9月7日 快晴
五竜山荘(5:15)〜五竜岳(6:00)〜口ノ沢コル(7:40)〜キレット小屋(8:25)〜鹿島槍ケ岳北峰(9:55)〜鹿島槍ケ岳
南峰(10:25)〜布引山(11:00)〜冷池小屋(12:30)〜爺ケ岳南中峰(13:00)〜種池小屋(13:40) 泊
9月8日 快晴
種池小屋(5:30)〜扇沢登山口(7:10)〜大町〜小淵沢〜清里(11:30)
(注)私の記録は標準時間より早いので参考にする場合は他の記録もご検討してください。
山行後記
青春時代に新宿駅から何本も出発していた夜行急行アルプス号に乗り北アルプスに良く出かけていた懐かしい思い出がある。
今は季節列車で週末に「ムーンライト信州」が一本だけ運行されているので青春時代の思い出をザックに詰めて小淵沢駅から
乗り込んだ。これがとんでもない結果を招くとは予想せずに夢心地で一路白馬駅へと列車は走るのだった。
猿倉でバスを降り妻の手作りの「お稲荷さん」を胃の中に押し込み「それ行くぞー」とばかり大雪渓を目指して急ぐ。夏を過ぎて小
さくなった雪渓をピッチを上げて気持ち良く高度を上げていく。5人組の若者たちに追いつく。「どうぞお先に」と彼らが立ち止まる
「政治の世界も世代交代したのだから若者から先にどうぞ」と訳のわからないことを私が言う。世間話をしながら彼らの後を付い
てゆく。3年ほど前から若者たちが山に登るようになってきている。今回も多くの若者たちに出会った。
山小屋まで約1時間の所でいつものように両足に痙攣が来る。若者たちも心配してくれるので「いつものことなので先に登って
ください」と私。今回はいつもよりひどい。両足が丸太棒のように硬直し動かなくなる。5mほど歩いては倒れる状態。本業の夏休
みの疲れが取れない上に「青春時代の思い出」の夜行列車で睡眠不足が重なり症状が悪化したようだ。神様が「お前、年齢を
考えろ」と忠告してくれたが時すでに遅し。七転八倒し地べたを這うようにして村営山荘にたどり着く。今日は天狗山荘まで入る
予定だったが最終日の針ノ木岳を諦めここで泊まることにし暫く小屋の前のベンチで約2時間寛ぐ。休憩後に両足の状態を試す
ため白馬岳に空身で登る。思ったより順調に足が動き山頂を往復する。明日は足の状態で雪渓を下り帰路に着くか縦走するか
を決めようと早めに床に就く。
白馬岳の大雪渓 白馬岳山頂 イワギキョウ(岩桔梗)
5時起床。準備体操をする。足は嘘のように動いてくれる。今日は足と相談しながら縦走を続けよう。このコースはいくつもの逃
げ道があるので途中でまた悪化した場合はそこで考えよう。杓子岳は巻き道でパス。鑓ヶ岳の登りも順調に動いてくれた。鑓
温泉の硫黄の匂いが稜線まで登ってくる。「温泉に浸かリたいなー」。足は思ったより順調に動いてくれるが今日はこれから先
には縦走路最大の難所の「不帰嶮」が待ち受けている。コルでオレンジ、水羊羹、きゅうりなどを腹に入れ力を付け閻魔(?)さ
まにもお供え(?)をしたら「お前天国と地獄どちらを選ぶのだ」と閻魔さまの声。「どちらにも行きたくないので今日は通過させて
ください」と私。
両足が万全でないため岩などに膝やザックをぶつけたりつまずいてバランスを崩さないよう鎖や岩角を確保しながら垂直に近い
岸壁を登り下りして天狗山荘から約3時間を要して最大の難所の「不帰嶮」越えて唐松岳に到着。静かだった縦走路から一変し
て唐松岳山頂は大賑わい。八方尾根のゴンドラで簡単に登れるためだろうか。喧騒が好きではないので写真も撮らずに五竜岳
山荘に向かう。
しばらくして60歳代の男性4人組に鎖場の下りで追いつく。「この路は悪すぎます。先程の路は良かったのに」とおっしゃる。「こ
の路は国道と違いますので整備はされていません」と私。ゴンドラでこのような登山客まで運んでしまうことは少し問題かも知れ
ません。この連中のお一人は五竜山荘でビールを美味しそうに飲んだのは良いが高山では酔いの回りが早いことを知らずにト
イレで盛んにゲロゲロとやっていた。
ガレ場ではコマクサ(駒草)がまだ咲いている。長雨のせいで開花が遅れてしまったのだろうか。イワギキョウ(岩桔梗)やイワツ
メクサ(岩爪草),ウサギギク(兎菊)などの花々を眺めホシガラスがハイマツの実を盛んに啄んでは岩の上で食べている姿などを
のんびりと眺めながらハイマツ帯を縦走路最大の難所を越えて心も軽く五竜山荘に向かう。
五竜岳の朝焼けと十六夜の残月 五竜岳からの日の出 五竜岳山頂
村営白馬山荘では蚕棚(?)の大きな部屋に一人で寝られたが五竜山荘は比較的混んでいたためか空いている部屋があるの
に狭い上段の蚕棚に6人も詰め込まれた。小屋によって対応が違うのは従業員の掃除の効率のためだろうか?
5時15分出発。今日も両足と相談しながら冷池山荘か次の種池山荘までにするか決めることにしよう。五竜岳の稜線で右手に
残月がかかる五竜岳の朝焼けを左手には雲海の彼方から登る真っ赤な日の出を拝むことが出来た。こんな情景に出会うから
山登りが止められないのかも知れない。
早朝の五竜岳を踏破しいくつもの鎖場やガレ場を越えキレット小屋で早めの昼食を食べ私としては長めの休憩を取り小屋で少し
水を分けていただき鹿島槍ヶ岳に向かう。双耳峰の北峰を踏み吊尾根を越えて南峰に立つ。快晴の北アルプスの山々が眼前
に見渡せる。目の前に剣岳、左に立山、雄大な山容の薬師岳。黒部五郎岳。鷲羽岳、水晶岳、三俣蓮華岳、槍ヶ岳。遠くには
富士山、八ヶ岳、鳳凰三山、南アルプスの山々も見渡せる。今回の縦走路では常に前述した山々を眺めながらの快適な山旅だ
ったが五竜岳と鹿島槍ヶ岳の山頂からの眺めは格別である。
五竜山荘でテントを張っていた40歳代後半の男性2人と仲良くなり私より早く出発した彼らに北尾根の頭付近で追いつく。「おは
ようございます」と言葉を交わす。この日は常に私の後ろに彼らの姿が見え隠れしながら行動を共にした。リーダーの方は大学
の山岳部で鳴らした人で鹿島槍ヶ岳も厳冬期に登っているとのこと。彼らは私が大雪渓で難儀を強いられている間に白馬では
無く天狗山荘まで到達していたので私と同じルートを縦走していたのである。種池山荘に到着した後に彼らと談笑しながら「テン
トを背負っている人に抜かれるのは腹が立たないが小屋泊まりの人に抜かれるのは悔しいです。しかも年齢が高い人には」とリ
ーダーは話す。「白馬雪渓以外でここまで誰にも抜かれてはいません」と私。
若いころマラソンや駅伝を走っていた蓄えで今でも元気に山々を歩けることを感謝せずにはいられないがアスリート魂が災いを
して「山と喧嘩」をしてしまう悪い癖が時々出る。今回も夜行列車での寝不足や夏の疲れがあったとはいえ大雪渓を無理して飛
ばしたことがとんでもない結果を招いてしまったことを猛省しなければならない。
新越山荘まで到達できなかったが多少無理すれば種池山荘から針ノ木岳を登って扇沢までその日のうちに下れるが初日に失
敗をしていたのでこれ以上「山と喧嘩」せずに大人しく種池山荘から扇沢に降りよう。今回も楽しい山仲間たちと語らいがあり素
晴らしい景色や花々や野鳥達に出会い至福の時を過ごせたことを感謝した。ありがとう山仲間。ありがとう後立連峰。