まとめ:
我ながら山に向かう気力の源泉が何なのか良く理解が出来ていないのである。「山がそこにあるから」などと高尚な心も持ち合わせていない。脚の故障を抱えながら北国の残雪の山々を三日間も歩きまわって来た。大自然や高山植物や残雪の山が好きなのだと言うことでは確かな答えにはなっていないかもしれない。

山がどんなに高く聳えていても急峻な登りでも一歩一歩、左右の足を前に出し続ければ山頂に立てると言う事は良く理解している。登る山が麓から眺めて高く遠くても、途中で険しい山肌が見えても「大変だな、辛いだろうな」とは思わない。我が人生も能力のなさゆえに単純に左右の足を前に出し続ける人生だったように思う。これからもそんな人生なのかもしれない。何人かの山好きな方がこのブログを読まれても私が「どうしてそんな苦労をして登るのか?」と思われるのは当然と思う。

今回も多くの方々に親切にしていただいたり、優しい言葉を掛けていただいたりしました。心より感謝申し上げます。
68歳の初夏の思い出。
キバナノアツモリソウ(黄花の敦盛草)
高妻山山頂
シラネアオイ(白根葵)
ツマトリソウ(褄取草)
妙高山山頂
称名滝(上段)と光明滝(下段)
火打山山頂で記念写真
稜線に咲くサンカヨウ(山荷葉)
天狗の庭から火打山

山遍路  残雪の火打山〜妙高山〜高妻山を歩く(単独行


日程:2012年6月24日(日)〜26日(火)
コースタイム:
●6月24日 歩行時間 6時間45分
清里(5:30)〜妙高高原IC(7:40)〜笹ヶ峰登山口(8:00 8:15)〜十二曲の頭(9:10)〜富士見平(9:55)〜高谷池ヒュッ
テ(10:25)〜火打山(11:40 昼食 12:05)〜高谷池ヒュッテ(13:00)〜十二曲の頭(14:05)〜笹ヶ峰登山口(15:00)〜
燕温泉(14:0 0)泊
●6月25日 歩行時間 5時間30分
燕温泉登山口(4:30)〜麻平分岐(5:25)〜天狗堂(6:10 朝食 6:30)〜妙高山(7:25 7:45)〜天狗堂(8:35)〜麻平
分岐(9 :15)〜燕温泉登山口(10:00)〜戸隠牧場(12:40)泊
●6月26日 歩行時間 6時間30分
戸隠牧場登山口(4:35)〜不動避難小屋(5:50 朝食 6:10)〜五地蔵山(6:45)〜高妻山(8:10 8:30)〜五地蔵山(9:
30)〜不動避難小屋(10:05)〜戸隠牧場登山口(11:05)〜信濃IC〜清里(14:30)

山行後記
●火打山(2461m) 快晴
笹ヶ峰登山口は立派な関所(?)のような門が建っている。少し疼いている脚が順調に動くことを願ってストレッチをして「それゆけ
―」と出発。野鳥たちの囀りを聞きながらブナの森の中をしばらく歩く。良く整備された木道にはおびただしい昨秋のブナの実の殻
が落ちている。大豊作だったようでツキノワグマも喜んでいたと思う。黒沢に掛る橋を渡ると勾配がきつくなり始める。

十二曲がりを登り切った所でトマトや水羊羹を腹に流し込み休憩。脚はやはり少し痛むが登りは支障がないようだ。高谷池ヒュッ
テに泊まった登山者が何組か降りてくる。「おはようございます」と元気に声を掛け合う。女性2名と単独行の男性は積雪に恐れ
をなしたようで途中で引き返したと語る。富士見平の手前から残雪が多くなる。マーキングのピンクのテープを探しながら真直ぐ
に登る。

富士見平で後ろから40代中ごろの男性単独行者に追いつかれた。「おはようございます」「今年5回目です」と地元の登山者。し
ばらく話をしながら登る。このあたりから黒沢池ヒュッテ〜妙高山のコースに通じる道がある筈なのだが雪に埋まっているのか標
識が見当たらない。彼も「見えませんね?」と言う。「のんびりと登りますのでお先にどうぞ」と私は声を掛け後になる。計画ではこ
こから妙高を登り高谷池ヒュッテに泊まり翌日火打山に登る予定だった。

ヒュッテで様子を聞いた。いつもなら融雪が進んでいるが今年は例年になく残雪が多くあるとのこと。妙高への登山道は残雪に埋
まりマーキングもなくルートを探しながらでは難しいと言う。「折角、ご用意をして頂きご迷惑をお掛けしますが宿泊はキャンセルに
してください」と丁寧に申し上げた。管理人の方も親切な方で「安全が第一ですので心配しないでください」とおっしゃる。

残雪を踏みしめ火打山に向かう。陽が高くなり雪渓も柔らかくなり心も軽やかに雪の中に強めに登山靴をけり込み山頂に立つ。隣
には水蒸気を噴出する焼山。西には白馬、五竜、鹿島槍、槍、穂高と3000mの山々が真っ白に残雪を抱き見渡せる。「早いで
すね」と山頂にいた男性単独行者。「もう年寄りですのでのんびりと登ってきました」と私。暫し山談議などをしながら過ごす。

ヒュッテまでの帰路はサンカヨウやシラネアオイなどの花を撮りながら下る。一面のお花畑は望めないが残雪の山は雪の中から
立ち上がり咲き始める愛おしい花々が多いので好きである。ヒュッテに寄りもう一度キャンセルを詫びて一気に下った。






















●妙高山(2445m) 快晴
貧乏人の私は山行の時に旅館に泊まることはない。いつも前泊は車中と決まっているが今日は脚が本調子ではなく疲れが少しあ
るので清水の舞台から飛び降りる心境で温泉旅館に豪華(?)に宿泊となった。

赤倉温泉の源泉がある所までは狭いが舗装された路が続く。止むを得ない事だが登山靴で舗装道路を歩くこと程、味気ないもの
はないように思う。硫黄臭が冷気を含んだ風に流れてくる中を登る。今日も快晴である。赤茶けた岩肌に光明滝と称名滝が流れ
落ちている脇を越えると本格的な登山道になる。

麻平分岐の先で地元の山菜採りのおじさんに会う。根曲がり竹を採ると言う。北地獄谷の河原から雪渓が詰まっている。マーキン
グのリボンを探しながら軽やか(?)に登る。早朝なので落石の心配は少ないが辺りをキョロキョロしながら歩を進める。しばらく登
るとリボンが左に向かい小さな沢に入る。天狗堂の尾根に到達し朝食とする。ミニクリームパン、バナナ、キュウリ、ミニトマトなど
を胃に流し込む。

北国の登山道は個人経営の山小屋が少ないので登り易い新道を造る作業を昔に行っていないため直登コースが多い。私は変に
安易なコースを造ってしまうより真直ぐに登る方が好きである。鎖場を無事に通過し岩場を乗り越えると「妙高大神」が祀られてい
る岩に到着。登山の安全を祈願した。山頂かと思いザックを降ろしたが標識が無く何か変だぞ!良く見ると約100m位先の所が
山頂なのだ。

昨日登った火打山が右に見え、遠くには白馬連峰から穂高連峰まで見渡せる。至福の時である。饅頭やオレンジ、水羊羹などを
食べ暫し休憩する。下りは脚の調子が悪いので慎重に下る。特に雪渓は落ちていた棒切れを杖代わりにして無事通過。混浴の
露天風呂「川原の湯」を期待していたが現在は途中にかかる吊橋が危険なため使用できないとのことで残念。やむなく男女別
の「黄金の湯」にゆっくりと浸かり山旅の疲れを取り戸隠牧場に向かう。





















●高妻山(2352m) 快晴
昨夜はいつものように侘びしく車中泊となる。登山口が戸隠牧場の中にあるため登山者が駐車場を独占する場合があり困ってい
るとのこと。前の日に早く到着したので管理事務所のお姉さんに伺い、端の方に控えめに止めればお目こぼしいただけるとの許
可(?)を貰う。

月齢5・5日の月が輝き始めた19時30分に眠りに就く。24時頃目覚めて車を降りると満天の星空が輝いていた。天の川がはっ
きりとうねって見える。こんな素晴らしい星空を見たのは田舎にいた50年前位だろうか?車中泊はこれだから止められないなど
と負け惜しみを言ってみる。その後はぐっすりと寝てしまい気が付けば4時20分。急いで身支度を整え、ストレッチをする。

寒い位に冷え込んだ(?)冷気の中をカッコウやウグイスに励まされ出発。トチノキやサワグルミの大木を見ながら牧場の中を行
く。牛が逃げないように人が通れるスペースのジュグザクになっているゲート(?)を2か所通過すると登山道になる。小さな沢を
何箇所か渡る。イタドリの枯れた幹を使い夜露に濡れた草を払いながら進む。

滑滝と不動滝の鎖場を登る。鎖が水や夜露で濡れているので滑りやすい。鎖の輪の中に指を差し込み滑らないよう慎重に登る。
涸れた沢筋の石の脇でノビネチドリが2株咲いていた。こんな所で咲いていると言うことは種が登山者に付着して移動したのだろ
うか。沢の源流部に「氷清水」がある。飲んでみると冷たくて美味しかった。帰りに2本のペットボトルに詰めて帰った。

不動避難小屋で朝食を摂り休憩。五地蔵山への尾根にキバナノアツモリソウが咲いていた。思わぬ自然の贈り物に嬉しくなった。
戸隠山を中心とした山岳信仰があり観音蔵や菩薩像などが祭られている。一つ一つ丁寧に頭を下げて安全を願って進んだ。幾つ
かの小さな山を越えるとシラネアオイが咲き乱れる八観音に出る。ここで高妻山の最後の急登に備えて小休止。

心躍る(?)直線の登山道である。今回は脚の調子が悪いため道路脇のダケカンバやクマザサに掴まりながら登る。彼らは冬の
長い間、根をしっかりと踏ん張り雪の重みに耐えてきた。ようやく芽を出し栄養を蓄える時期にまたしても枝や幹を登山者に引っ
張られてしまう。「本当に申し訳ありません」と詫びながら登った。

山頂に8時10分到着。今日も妙高山に続いて本日の初登頂(?)を果たした。今日も快晴。残雪を抱く白馬連峰から穂高連峰や
登って来た妙高、火打が綺麗に見える。達成感に暫し浸り至福の時を過ごす。下山は地蔵、観音、菩薩さんに三日間の無事を感
謝しながら丁寧に頭を下げ戸隠牧場に降りた。管理事務所にも無事に下山出来たことに感謝を告げた。入口にある戸隠そばを
堪能し帰路に就いた。