剣岳〜雄山〜五色が原〜薬師岳縦走(単独行)

行程 9月7日〜9月10日
9月7日(霧時々雨) 清里(4:00)〜松本〜上宝村〜大規模林道高山大山線〜有峰湖〜富山地鉄有峰口駅(8:15 8:54発)〜立山駅〜美女平〜室堂(10:20)――雷鳥沢(10:45)――剣御前小屋(12:20)――剣沢小屋(12:45泊)
9月8日
(朝雨後曇り時々晴)
剣沢小屋(5:30)――別山(6:15)――真砂岳(7:15)――大汝山(8:00)――雄山(8:15)―― 一の越山荘(8:50)――獅子岳(10:30)――五色が原山荘(11:50泊)
9月9日(晴) 五色が原山荘(4:45)――鳶山(5:10)――越中沢岳(6:15)――スゴ乗越小屋(8:10)――間山(9:20)――北薬師岳(10:40)――薬師岳(11:20)――薬師岳山荘(12:05)――太郎平小屋(13:00泊)
9月10日(晴) 太郎平小屋(5:50)――五光岩ベンチ(6:15)――折立(7:45)(9:30バス発)〜富山地鉄有峰口駅(10:35)〜上滝〜大沢野(国道41号線)〜神岡〜上宝村〜栃尾温泉(露天風呂入浴)〜松本〜清里(15:30)


 山行後記

 北アルプスの縦走は約40年ぶりになるだろうか。清里に移り住んでからは主に仕事として南アルプスや八ヶ岳、秩父の山々を歩き北に足を向けることが無かった。今年から趣味として好きな山をのんびりと歩こうと思って出発する。天気予報では7日は雨その後まずまずの天候と予報している。7日は剣沢までなので雨でも良いと考えて清里を早朝出かける。ガスが立ち込め強風が吹く室堂に降り立つ。バスの乗客の中では大日岳に登るという夫婦と私だけが山に向かった。地獄谷の噴煙をくぐり雷鳥沢から登り始める。強風と雨のため途中から引き返してきたという何組かの登山者と言葉を交わしながら高度を上げていく。ガスの中から時折、雷鳥の親子が現れて天候の悪さから来る塞ぎがちな心を慰めてくれる。別山乗越から剣沢小屋に到着。

20時頃から雷鳴と雨音が屋根を断続的に激しくたたく。明日の進路の選択肢を考えて眠りに着く。3時に目覚める。外はぱらぱらと雨。5時朝食。剣岳は諦め別山まで登りさらに天候が悪化したら雷鳥沢に下る。現状維持なら別山から雄山に向かい一の越から室堂に降りる。回復したら薬師岳に向かう。いくつかの選択肢を考え出発。雄山に着く頃はガスが上がり時折薄日が差し込む。剣も雄姿を現したが時すでに遅く迷いも無く一路薬師岳に進路をとる。

一の越を過ぎ竜王岳を登り返すと行きかう登山者は極端に少なくなる。鬼岳、獅子岳を越える。加藤文太郎の「単独行」の中に出てくるこのコースで私の印象にあるザラ峠やスゴ乗越を通過する縦走路は静かで快適な山旅になりそうである。左には針ノ木岳、烏帽子岳、赤牛岳、水晶岳の雄姿を望み右には富山湾から弥陀が原、天狗平、室堂のなだらかな姿が見られる。ザラ峠を登り返すとイワイチョウやコバイケイソウ、ハクサンフウロウなどの色付いた草紅葉のなだらかな五色が原に到着。転々と池塘群が広がる木道をリズミカルに進むと五色が原山荘。12時前だがスゴ乗越小屋までは地図上では残り5時間ほどとあるので無理をせずここで泊まることにした。晴れ上がったので小屋の前で昼食を取り雨や汗で濡れた雨具や靴下、シャツ、登山靴などを広げ乾かす。


日向ぼっこをしていると13時に木道の彼方から60歳代と思われる単独行の登山者の姿が次第に大きくなり私の前に差し掛かった。こんちわ。と声を掛けるが不機嫌そうに何のためらいも無く小屋の前を通り過ぎた。小屋の女将さんも「スゴ小屋までの時間がわかっているのでしょうか?引き止めるわけにも行きませんしね。」と首をひねった。装備を観察するとテントは持っていそうにも無い軽めのザックだし靴や身に着けている服装からしてベテランとも思えない。木道の彼方に消え行くスピードもかなり遅い。心配になる。

小屋の同宿者は室堂から五色が原の往復をする滋賀県から来た7名、電力会社の調査員6名でのんびりと過ごせた。「風呂が沸きました。」との連絡。水が豊富なところは理解できるが少し贅沢すぎると思いつつさっと湯に浸かる。宿泊者が少ないため東南の角部屋に一人で寝られたのは有り難いのだが今夜は満月で窓越しに一晩中月明かりが差し込む。光の明暗で体内時計を刻む原始人の私は感覚が狂い早朝上手く起きられるかと少し困った。明日は薬師岳山荘(標準時間11時間30分)か太郎平小屋(同13時間)までなので朝食は弁当を頼んだ。無事に4時起床。朝食の弁当を小屋でとり4:45出発。


越中沢岳を越えスゴ小屋で給水。雷鳥には良く出会う。今日のコースは紅花苺やウスゴの実が沢山熟れている。口に含むと美味しい。雷鳥の餌なのであまり食べてしまうと悪いので登りのコースで疲れ防止にと何粒か失敬した。スゴ小屋から北薬師岳〜薬師岳と登りが続く。今年の冬は豪雪だったため沢筋やカールには万年雪がかなりの数で存在している。雪解けが遅く高山植物の開花も遅れたため本来なら6〜7月に咲いている花がまだ咲き残っているものがある。結実しないまま積雪の季節となってしまうのではないだろうか
北薬師岳からはごつごつとした岩だらけの稜線を行く。薬師岳山頂。振り返れば雄山から無念の剣岳。雲の平、黒部五郎、水晶岳、赤牛岳。眼下には黒部湖、有峰湖。スゴ小屋から来たという単独行の青年と山頂で話す。北薬師岳から私が登ってくるのを見ていたようだ。「すごい早さですね」と彼。「荷も重いし、もう年だからのんびり歩いてきました」と私。「スゴ小屋に昨日の夜に単独行の年配者が泊まりませんでしたか?」と彼に尋ねた。「もう寝ようとしていた19時過ぎに夕食を作れと若い管理人にわめき散らしていました。」と彼が答えた。五色が原山荘を素通りしたあの登山者である。スゴ小屋まで6時間以上掛かり途中からは夜道を歩いていったようだ。何事も無くて良かったが人騒がせな老人である。自戒。薬師岳山頂で私としては長い休憩(20分)を取り一気に太郎平小屋まで下る。早めに到着したので衣服や靴などを乾かしながら日向ぼっこをして夕食時間まで過ごす。


最終日は折立まで一気に下る。8時前には到着。バスの時間に遅れるといけないので少し早めに小屋を出発したが2時間ほどの時間待ちとなる。折立登山口には昭和38年1月の愛知大学生13名の立派な薬師岳遭難碑が建立されている。私と同世代の若い命が散った事故は私の記憶に鮮明に残っている。ご冥福を祈り今回の縦走が無事だったことを感謝し今後も幾多の登山者を見守ってくださるよう丁寧に祈った。


  

         ミヤマリンドウ
      万年雪のカールと薬師岳
五色が原と赤牛岳
剣沢小屋からの剣岳