1980
 ボクの記憶、遠い記憶。
 砂山。泥ダンゴ。きれいな先生。ヒーローの剣。そして、レバーとボタン。
 母親にせがんでコインを入れたインベーダー。何も分からずに、ただガチャガチャと動かす。放たれる弾。消し飛ぶインベーダー。ゾクッと背筋に電気が走った気がした。ただ、戦果は7匹。奴らの放つ弾に、為す術もなく粉砕されていく砲台。ザーという音、塵芥と化すその姿が、死を感じさせた。怖くて、大声で泣いた。
 ボクは出会った。0と1の恋人に。

1985
君と出会った奇跡が、この胸を焦がしてる。
きっと今は、自由に空も飛べるはず。
〜スピッツ 「空も飛べるはず」〜
 
 ボクの家に、ファミコンが来た。おにいちゃんが買ってきてくれたんだ。中古だったから、少し汚れていたけど、そんなの気にならなかった。
 友達はみんな持っていた。これからは、もう馬鹿にされないぞ。でも、まだカセットが無い。それも後でおにいちゃんが借りてきてくれるみたいだからいいけど。ああ、早く遊びたいなぁ。早く早く早く早く。どんなゲームができるんだろう。友達の家で遊んだゼビウスとかもできるのかなぁ。スパルタンXとかもできるのかなぁ。早く遊びたい。それしか考えられない。宿題のことなんか考えたくない。

 宿題なんか、なくなっちゃえばいいのに。

1986
例えば、君がいるだけで、心が強くなれること。
何より大切なものを気付かせてくれたね。
〜米米クラブ 「君がいるだけで」〜
 

 夏休みに、ボクは蝉を追わない。

 やるべき事は決まっていた。・・・ゲームだ。休み直前に友達と大量にゲームを貸し合った。ボクは「影の伝説」「マイティボンジャック」「スターソルジャー」「ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大魔境」を貸し、友達からは「ドラゴンクエスト」「魔界村」「チョップリフター」「ハイドライドスペシャル」を借りた。

 真夏の日差しを避け、真横に「強風」の扇風機の突風を浴びつつ、ただひたすらにコントローラーをこねくり回す。口は常に半開きだった。まるで、モニターの中に魂を吸い込まれているかのように。

 時々、友達が遊びに来る。カセットを持って。祖母が持ってくるよく冷えたスイカを、汁を飛ばしながら、しかし、コントローラーには汁を付けないように最新の注意を払ってかぶりつく。クリアの為に、ああだこうだとバカ騒ぎする。

 気が付くと、ヒグラシが夕暮れを告げる時間。友達は帰り、母は夕飯の支度を始める。ファミコンの電源を切り、ほんの10分ほど算数のドリルを開いて、何も解かずに放り投げて、再放送の「ルパン3世」を見始める。

 夏休みに、ボクは蝉を追わない。モニターに蠢く「奴ら」を狩ることこそが、ボクにとってリアルだったからだ。

 それにしても、レッドアリーマー強いなぁ。明日、シンちゃんに倒しかたを聞いてみよう。

1988
 最初に好きになったのは、声。それから背中を整えられた指先。
 時々黙りがちになる癖、何処かへ行ってしまう心とメロディ。

 〜PSY・S「angel night」〜

 熱狂は最高潮だった。何かに捕らわれた子供と大きな子供は、極寒の中、量販店の前に並び、ただひたすらにシャッターが開くのを待っていた。ボクはその奇怪な光景を、歯を磨きながらテレビで眺めていた。

 ドラゴンクエスト3、発売。

 シャッターが開く。一番前の男が誇らしく四角い箱を掲げている。まるで100カラットのダイヤを見つけたような騒ぎようだ。たった8ビットの箱に差し込むための箱。それだけの存在の筈なのに。

 バカだよなぁ。

 たかがゲームじゃん?寒いのに並ぶなんてヘンだよ、ヘン。ボクはもう何ヶ月も前から予約しておいて、今日の朝、おとうさんが取りに行ってくれるんだよ。ざまあない。世の中、賢い奴が勝つんだよね。

 何だかんだ言って浮かれていた。何てったって発売日にドラクエだ。前の2つは友達に借りて遊んだから、駆け足の攻略だった。でも、今回は違う。お年玉を使わなかった甲斐があった。ゆっくりと、勇者の冒険を楽しむことができるんだ。

 そうして朝食を待っていると、母親がやって来た。

 「あのね、お父さんが風邪引いちゃって、今日ゲーム取りに行けないんだって」

 ・・・・ぶわっ

 もの凄い勢いで涙が出た。母親の「しょうがないでしょ!」の叱咤など聞こえたもんではない。ちくしょう、ちくしょう、チクショウ!オヤジの馬鹿野郎!!ドラクエだぞ!?ドラクエ!!あのクソオヤジ!!ちくしょう、こんな事なら、並べば良かった。そうすれば買えたのに!!

 ちくしょう。

1989

 「あ痛っ!!」

 親指の関節部分に激痛が走る。慌ててティッシュを四角く折り、それを十字キーに乗せてプレイを再開する。面白ぇ、これが、シューティングか。

 そのゲームの名前は「ガンヘッド」ちょっと前に映画にもなったやつだ。しかしPCエンジンに現れたそれは、オイルと火花にまみれた不格好な巨大戦車と違い、宇宙を駆ける決戦戦闘機と化していた。

 めくるめく銃弾と爆発の嵐、それらにオレはひどく魅せられた。休日ともなれば、朝も・昼も・夜も、ずっとボタンを叩いていた。それが生活のすべて。それが人生のすべてだった。

 駄目だ、弾の事しか考えたくねぇ。殺られる前に殺る、引きつけて、切り返す。そして、壊す、壊す、壊す、壊す!!

 気が付けばもう夜だった。そういえば、明日何かあったよな?ああ、中間テストだったっけ。まぁいいや、あんなモン人生でクソの役にも立ちゃしねぇし。今のオレにはコレがすべてだ。何もかもブッ壊してやる!勉強も!学校も!そしてオレ自身もブッ壊してやる!!

 とかやってたら後ろからオヤジのマッハパンチ。ヒリヒリする手をシャープペンに持ち替える。だよなぁ、アタマ良くなきゃ、宇宙の平和は守れないもんなぁ。

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