踊る




上下左右の矢印が天に向かって昇っていく。オレは天国の門を開くためにそれを逃さぬ
ように足で押さえつける。やがて訪れる至福の時間。・・・正直、全くの不意打ちだった。
そのゲームの名は「ダンスダンスレボリューション」

リズムゲームが爆発的にヒットした時、誰もが次の新たなる刺激を求めていた。そしたら
現れたのがやたらとデカイ筐体に矢印のパネル。「???」ひたすらに疑問だった。ホントに
ゲームなのか?とにかくプレイしてみる・・・30秒で終了。何じゃこりゃ、クソゲーか?嫌な
単語が頭をよぎったが、後ろで観ていた野郎が、小馬鹿にしたような目つきで、台を離れる
オレを見る。

こんなのできるわけねえだろ、やれるってのかよ、あんたは・・・。しかし、その嫌な野郎は、
コインを入れると、即座にハードモードを選択。「何?」小さくオレはつぶやく。その数分後、
驚愕はさらなる驚愕を呼び、そしてオレに対する屈辱をもたらした。「あいつ・・・クリアしやがった・・・」
今思うと、至極低レベルだった。その男は単に正確に、譜面を踏んでいただけだった。だけど、
オレの目には、その姿は華麗にステップを踏む、ジャニーズも真っ青なダンサーに見えた。

ただ、悔しかった。レバーとボタン、オレ達はそれに慣れすぎていた。よもや足をメインに使う
ゲームが出るとは思わなかった。椅子にべったりと座り、猫背ぎみに、手先に集中していた
最近のゲーム事情に冷や水をぶっかけやがった。目が覚めた・・・やってやろうじゃねえか、
たかが足だろ?こりゃゲーマーに対する挑戦だ。いや、二足歩行する人類に対する挑戦だ!
オレはこの足ゲームの地獄を突破して、人間の新たなるステージを開拓するんだ!!よし!
燃えてきたぞ!!

とは言っても苦労の連続。パネルを逆に踏む、あらぬ場所を踏む、足を踏み外して転げ落ちる。
うしろで女子高生が笑ってる。恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも、半ばヤケクソに踏み込む。
失意のままにプレイを終えると、今度は別の奴が始めて、あろう事か回りながら踏んでいるでは
ないか。「ニュータイプだとでも言うのか?」バカ全開のショックを受ける。何なんだこいつら?
オレはもうダメなのか?古き良きゲーマーの時代は終わったのか?ジジイはすっこんでろって?
救いようの無いネガティブエネルギーが充満する。帰ろう・・・オレにはこれは無理だ・・・肩を
落とし、ズボンのポケットに手を突っ込んで、その場を離れようとしたその時。

コツン。堅い物が爪先に当たる。「?」ポケットをまさぐり、出てきた物は100円玉だった。両替した
コインは全部財布に入れたはず。何故ここに?その100円玉が、背後の「それ」のスポットライト
を浴びて、キラリと輝いた。ハッとして、オレは振り向き、すべてを理解した。「お前は、あそこに
行きたいんだな?」もう一度光る100円。・・・得体の知れない力が内側からみなぎる。100円玉
を力一杯握りしめる。「ありがとよ」そう心でつぶやいて、オレは両替機にダッシュする。

で、結局、今の今までプレイしてきて、異常に上手くなったかというと、そうでも無かったりする。ただ、
あの時諦めていたら、ホントにゲーマーとして終わりだっただろう。死に至る病、「絶望」こそ、ゲーマー
が最も恐れるべきものであることを久しく忘れていた。あの100円玉が教えてくれた。だからオレは
今日も踊る。たとえそのステップが見苦しい、ただの地団駄であったとしても、銀色に光る、あの憎い
あんちくしょうが望む限り、ずっと。

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