夕立





なあ、

どうでもいい事にバカになれたって事ってあるか?

オレはあったよ。ホント、バカだった。


ファミコンってやつが発売されてオレたちクソガキが一頻りその熱に
酔い慣れた頃だったろうか。ほら、アレ、なんだっけ?アンタ覚えてるか?
ファミコンの十字キーに、500円玉くらいの大きさの丸いプラスチックの
板を張り付けるの。そうそう!ファミコインだよ!

そのファミコインが確かマンガか何かで紹介されて、オレの通っていた
小学校でもバカみてーに流行ったんだ。何かね、アレ着けるとすっげー
コントローラー動かしやすくなるとか噂になって。実際には大した変化は
なかったんだけどさ。でも小学生ってバカだろ?何でもかんでも真に受けちゃって
「すげー!すげー!ほしーっ!!」ってみんなが叫ぶんだよな。持ってる奴は
ヒーロー。超ヒーローだったわけさ。

1週間もすると持つ者、持たざる者とはっきりと分かれてきてさぁ、持ってない
奴はそりゃもうゴミムシ扱いなんだなこれが。たかが500円玉大のプラスチック
ごときで、だ。ガキの世界の狭さってのはスゲェよな。

でさ、オレは持たざる者だったんだよ。近所のオモチャ屋行っても売り切れちまって
るしさ、親にねだっても「500円玉貼れよ」とか言われてマジで泣きそうになった
りして、なかなか手に入れることができなかったんだよ。

そんなある日、持ってない奴らが集まったんだよ。何でも隣町の駄菓子屋の
ガチャガチャにファミコインが入ってるらしい!ってんで、次の日曜日にみんなで
買いに行こうって話になったんだよな。

時は日曜すっごく良く晴れた日。なけなしの金を手にオレ達はオンボロのチャリに乗って
出かけたんだよ。ちょっとした冒険気分。みんなでギャーギャー騒ぎながら横一列に
広がって車の迷惑考えずに走っていったんだ。

ところが言い出しっぺの奴が道に迷った。「あれ?こっちだったっけ、あれ?あれ?」って。
みんなイライラし始めて「んだよテメー道覚えとけよバカ死ね」とか今考えると酷い罵り
方をしたりして、あっちこっちフラフラするハメになったんだよ。気が付くとだだっ広い
田んぼの中に着いてさ、その先に家が建ち並んでいるから「きっとあっちだ!!」って
叫んで、みんなで全力ダッシュ始めたんだよ。で、その時、妙な空気を感じ取ったオレは
空を仰いだんだ。すると、空があっと言う間に黒い雲で覆われ始めた。

ザァーッ!!夕立だ!!傘も雨ガッパも持ってなかったオレ達はたちまちずぶ濡れに
なった。それだけならまだ良かったんだけど、さらに雷のオマケつきときたもんだ。
雨で視界はゼロ。耳は雷の爆音でバカになるで、オレ達は心底怯えていたなぁ。
そんなとき追い打ちをかけるかのように

パッ、ドシャァァァァァン!!

雷が近くの鉄塔に落ちたんだよ。ホンの少し紫のかかった白いジグザグの光を、オレは
不運にも見てしまった。あの時始めて「ああ、オレはココで雷に打たれて黒こげになって死ぬ
んだ」なんて考えたよ。

メチャクチャビビってたけど、何とか家が密集するあたりまで入れて、近くの民家に飛び込んで
雨宿りできたんだ。みんな顔面蒼白で。それで、お互いの顔見て「バケモノだー!!」って
大爆笑。騒ぎを聞いて家から出てきたオバチャンから熱いお茶をもらって、やっと生き返ったんだ。

30分もするとあっさりと雨は止んで、雷もウソのように収まった。オレ達は最後の気力を振り絞って
駄菓子屋に向かったワケよ。やっと辿り着いたその場所は、さっきの雷が当たったら一瞬で吹き飛んで
しまうようなボロっちい店だったよ。そしてオレ達はガチャガチャの機械をのぞき込んだ。…ある、確かに
あった!!ファミコインだ!!我先にと100円を突っ込み、ダイヤルをグリグリと回してカプセルを
取り出す。プラスチックの円盤に、心底ダサイイラストが書いてあったファミコイン。でも、その時の
オレ達には値千金のお宝に見えた。

ここまでだと何だかちょっといい話みたいだけと、ちゃんとオチがある。オレ達が苦労してそれを
手に入れた数日後、ファミコイン騒ぎはあっと言う間に収束しちまった。オレもあれだけ怖い思いを
して手に入れたコインを、校庭でヒュンヒュン投げて遊んでいるうちに、茂みの中に吹っ飛ばして
それっきり。小学生の情はとことん薄いね。

あー、何かスッゲーつまんねー事話しちまったな。無駄な時間過ごさせて悪かった。とっとと帰りな。


だけどさ、


あの時の情熱ってどこに行っちまったんだろう?大人ってこんなもんか?

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