天空、あまねく星々の輝き。
長き戦いが終わり、女王アンジェリークは静かな夜空を眺め、暫しの平穏を
慈しむ
 
「あー良かった良かった。これで続きが始められるわ 」
 能天気に笑って、金髪の愛らしい女王は自室の大型TVに接続しっぱなしの
P●の電源を入れ、途中で放りっぱなしになっていたF○[の続きを楽しみだした。
「だってね、あの戦いの間、私が何をしていたかっていったら、
塔の中を走り回って、像越しに力を与えて、や〜っと自由になれたかと思ったら、
とっとと辺境の星に湯治にやられちゃって!これって、絶対陰謀だと思うのよね!」
 誰にともなく言い訳をしてしまうアンジェリーク。
 
「絶対、アレは陰謀よ!栗毛アンジェちゃんには、もちろん感謝してるわ!
でも守護聖のみんなといろんな星にいけて、遠くから来たハンサム(この際敵でも関係なし!)といいムードになった挙げ句に、宇宙を捨ててもなんてセリフを平気で言っちゃってさ!
私なんて、うっかり試験に勝ったおかげで否応なしよ!
補佐官の方がよっぽど楽しそうだわ!」
 日頃、アンジェのお守りに玉のお肌のくすみの心配をしているロザリアが聞いたら
角を出しそうなセリフを平気で言って、アンジェは中ボス相手に欝憤を晴らす。
「メルトン、オーラの連続剣〜!ほ〜っほほほ!この女王に勝とうなんて、
百万年は早いわね」
 アンジェリークの手慣れたトリガー捌きに、モニターの中のごついボスは
あっけなく消えてゆく。
「これこれ!やっぱり、敵は自分の手で殲滅しなくちゃ」
 可愛いあどけない笑顔で物騒なことをころころと喋るアンジェの耳に突然、
聞き慣れた声がした。             
「だろ?やっぱり自分で戦ってこそのRPGだよな」
ぎょぎょっとしてあわてて振り向くと、そこにいたのは。
 
「ゼフェル!」
「だっせ〜な、まだこの辺うろちょろしてんのかよ。げげっ!80時間もプレイして、
なんでまだD1なんだ?俺なんて25時間でエンディングだぜ?」
 そう、このゲームソフトの出所は(ハード本体も)ゼフェルなのだ。
「い〜じゃないの、ゆっくり楽しんでるのよ」
「ま、いいけどな。それよりおめー、ちょっと俺の話し聞けよ」
 マイペースでディスク交換をしていた女王の手を取り、ゼフェルは自分の方を向かせた。
「な、おめーもさっき言ってたろ?あの天空RPGは陰謀だって」
「それがどうしたのよ」
 楽しみを止められ、アンジェリークが唇を尖らせる。
「おめーはまだ重要な役割だったじゃねーか。俺達の扱いなんてひでーもんだぜ?
このプレイヤーなんて、『クラヴィスとリュミエールとオスカーはかならず入れるの 』
なんてかまして、残りがアリオスなら他の奴らなんて後半の穴埋め以外、出番なしだぜ?」
「何?そのプレイヤーって
 胡乱な目付きの女王を無視し、ゼフェルはなおも熱弁を振るう。
 
「俺はまだいいぜ!取り敢えず、『年少組では一押し』扱いだからな。
ラストダンジョンにも取り敢えず行けたが。ランディもマルセルも救いだされた後は
誰?それ状態だ」
「フンフン」
 熱心なゼフェルの言葉に何を感じたのか、アンジェは真面目な顔でうなずいた。
「序盤に仲間になったヤローどもだって、定番決定野郎が救い出されるたびに補欠に回って、戦闘の仕方を教えてやったヴィクトールだって、最後の親密度は30ちょいだ」
「うんうんそれで?」
 頬杖ついて、可愛らしくアンジェリークが先を促す。
「それでって、つまり
「なあに?」
 少し言いよどんだ後、ゼフェルはきっぱりと言った。
「物足りない!」
「うん」
「アレじゃ、俺達は結局、新人の引き立て役だ!今まで何度も何度も出演して
アンジェ世界を盛り上げてきた俺達が、ただの引き立て役で終わった挙げ句に、
ラブラブになっても結局彼女ナシなんてオチで終わるのは、納得いかねー!
つーわけで、俺は提案する!」
「何を?」
「俺達の納得いくRPGだ!」
 握りこぶしをつくって、ゼフェルは言い切った。
 この場合通常ならば、「どういう意味?」とか「何を考えているの?」
といった突っ込みが入る。
 しかしやっぱり今回のRPGでの役回りに不満を感じていた女王アンジェ−ークは。
「やる!」
 思いっきり頷いていた
 
 
「どういう意味ですか?」
 頭痛をこらえながら定番の質問を入れたのは、やはり首座の守護聖ジュリアスだった。
「だからみんなでもう一度RPGをします 」
ここは女王の謁見室。威厳にみちみちた室内に麗しき守護性を勢揃いさせ
女王はにっこりとそんな言葉を発してくれた。
一人をのぞいて、今ひとつ言っている内容を飲み込めず顔を見合わせる
守護聖様方を尻目に、 ロザリアは意外と平然としている。
前もって話があったせいもあるが、実は彼女も結構不満を持っていたのだ。
私だって、みんなと旅をしたかったわ。それを有無を言わさず辺境に
やられてしまって。そもそも、守護聖達は女性に対する扱い方を、
根本的にどこか間違えているのよね。自分たちが一緒にいってお守りします!
っていうのが女はツボなのよ。それなのに、誰一人として護衛役についてきて
くれないんですもの
 ここは一発、重要な役回りになって、意味のよく分からない回りくどいヒントで
勇者達を振り回す役でもやってみたいと、ロザリアは企んでいた。
 そしてそれは女王の意志ともぴったりあっていたのだ。
 ジュリアスの常識的な疑問は、審議の前に却下されてしまった。
 
「舞台設定と、技術協力は、王立研究院、派遣軍がしてくれます。
脚本はゼフェルと、私、女王の担当です」
 にっこりと女王は言った。
 つまり、与えられた役回りに文句を言うことはゆるさん!という事だ。
 わくわくしている年少組と対照的に、年長組、年中組(こう書くと、幼稚園のようだ)は、ほうっとため息を吐いた。
「安心しな、ジュリアス、クラヴィス。てめー達に演技なんて期待してねーからよ」
 そう言ってゼフェルは、あらかじめ作成していた名札を渡した。
『ジュリアス−王さま』
『クラヴィス−魔王』
 眉を寄せて受け取るジュリアスに、興味なさそうなクラヴィス。
「えらそーに座ってりゃいいんだ。楽だろ?」
(何か誤解があるようだ。私にだって、演技の一つや二つ
 完璧主義のジュリアスは、この瞬間にRPG内で与えられた役割に
精根こめて取り組む事を決めた。
 ゼフェルはつぎつぎと役回りを書いた名札を渡していく。
 
『ランディ−勇者』
「あ、俺が主役?良いのかな?」
 そう言いながら、ランディはすでに頬を紅潮させている。
(一番あぶねー役だかんな)
 ゼフェルの心の声は当然ランディには聞こえない。
『マルセル−女の子、魔法使い』
「えー、なんでぼくが女の子?」
「パーティーの花ってヤツだよ、お約束!ルヴァもお約束!」
 ルヴァの受け取った札には、
『ルヴァ−賢者』
と書かれてある。
「賢者って、何をするんですかー?」
「謎を前に蘊蓄たれるんだよ!」
「はー、そうですか。謎?」
 よく分からない顔で、ルヴァが頷く。
 
「私は何よ『旅芸人』?」
「イノシシ勇者のサポート役!旅慣れてて、情報にも通じているマルチに役立つお助けマンだ」
「それって、誉めてんの?」
 文句言いながらも、オリヴィエは旅芸人の「衣裳」をどうするか、考えはじめた。
「おい!ゼフェル!これはなんだ!」
 いきなりオスカーが文句を言いだした。
 彼の持っている役名は「魔将軍」。
 分かりやすすぎる、魔王の参謀の名前だ。
「なぜ俺が悪党役なんだ!」
 悪党の親玉をふられたクラヴィスは、別に何の不満も感じていないようで、
質問する気配もない。
「これを見なって」
 ゼフェルは軽く言って、最後の札をひらひらさせた。
『リュミエール−囚われの身の姫』
「幽閉された姫君が、最初憎んでいた敵の騎士なんかと恋に落ちるってのは、
結構定番だよな。『バハ○ートラ○ーン』とか、『剣○商売』とか」
 出されたタイトルは知らなかったが、その言葉を聞いた瞬間、オスカーの脳裏には、
涙に暮れる可憐な姫君(リュミエール)が、慰める凛々しい騎士に心を奪われ、
『たとえ神に背いても、あなたと共にまいります!』と涙ながらにうったえるシーンが、
ありありと浮かんでいた。
騎士の前に魔王と、っていうのがもっと定番よね
 呟くオリヴィエの声も耳に入らない。
「リュミエール!」
 オスカーは黙って成り行きを見ていたリュミエールの手をガシッと握ると、
甘く甘く誓いを立てた。
リュミエール、大丈夫だ。たとえ神の軍勢が押し寄せてこようと、
お前を勇者なんぞに渡しはしない
「はあ
 すでに芝居に入ってしまっている恋人に、リュミエールは呆気にとられて呟いた。
本当に、そういう成り行きなんですか?」
「んな訳ねーじゃん
 背後で舌を出しながら、ボソッと呟くゼフェルの声は、オスカーの耳には届かなかった。
「さ、役も決まった所で、大体のストーリーのシナリオは出来しだいお渡しします。
でも最終的なお話を決めるのは、皆さんの演技次第です。それまで各自、
自分の役により深く入り込めるように、解釈してください。
あ、それと小道具や衣裳は取り敢えず用意はしますが、みなさん各自で用意しても結構です。それでは、みなさん、頑張ってくださいね」
 アンジェリークがにっこりと笑った。
 彼女は、勇者に道を示す女神役、ロザリアはひそかに彼らと同行して、
さりげにヒントを出す精霊役である。
 そしてゼフェルは・・・。
「決まってんじゃん!ダンジョン設計だぜ!」
 自分で戦いたかったんじゃないのか?
 勇者の邪魔をしたいのか?
 真の勝者はいったい誰だ?きまってるのか?
 それで、この話に本編はあるのか?
 という数々の突っ込みを無視し、女王と補佐官と言いだしっぺの鋼の守護聖は、共犯者同志の不気味な笑みを浮かべるのだった。