見るからに怪しげな品が、次々と登場する。
 
これで女性の見る目が変わる、夢の守護聖のデザインブックや、
闇夜も怖くない闇の守護聖ブロマイド5枚組セットやら。
 
眉唾物な気もするが、オスカーが見る限り出された物はみんな見覚えがある。
本人達の身の回りにあった物だ。
 
いったい誰だ?こんな物を手に入れられる人物とは。
皆それぞれに、気になる品が紹介されるたびに抽選箱にプラケースを入れ、
幸運な人物の名が読み上げられるたびに、大きなどよめきが起こる。
 
しかし、まあ、獣の本能とか、争うとまではいっていない程度のはしゃぎぶりだ。
少々拍子抜けした感じでオスカーは黙って成り行きを見ている。
そして最後の品。
 
「最後の品、いっきます。これぞ究極のレアアイテム!
お宝映像、水の守護聖、うなじ写真パネル〜〜〜!」
 
『なに〜〜????』
 
男達の歓声が大きくなった。皆、文字通り争うように、われ先に箱にプラケースを入れている。
人の動きに押されそうになり、オスカーは本気で回りの人間をかき分け、押しのけて
前に出ると、自分も持っていた5個のケースを箱に入れた。
 
 
『うなじ写真パネル!誰だ、どうやってそんな物撮影したんだ!
いや、何より、他の奴になんて渡せるか。俺に当たれ!俺に!』
主催者は、そのうなじパネルを頭の上に掲げ、挑発するように四方に向かって
見せびらかしている。
文字通りうなじ写真だ。
 
綺麗で繊細な横顔から、どういう訳か髪を片側にすっかり下ろし、
ほっそりしたうなじをあらわにしたリュミエールの写真。
清楚でありながら、身もだえするほどの色香に満ちている。
 
『もし、この写真が他の男に手に渡ったら、俺はそいつを闇討ちしてしまうかもしれん!
頼む、俺に当たれ!俺に当たれ〜〜〜!』
オスカーの強力な念が通じたのだろうか?
主催が取り上げたプラケースをわって、中の紙に書かれていた名前を読み上げる。
 
「東地区担当!ウンヘリ!」
 
はずれた連中から、呪うような失意の声がわき上がる。
その中をオスカーは足早に台上に近づいた。
うらやましげな視線がその背中に突き刺さるが、そんな物は関係ない。
オスカーが前に出ると、主催者は機嫌よさげにパネルを渡し、
「はい、大事にして。それから、くれぐれの炎の守護聖には見つからないように。
殺されちゃうかも」
とこっそり耳打ちする。
野太い声でおカマのような話し方をする小柄な主催者。
オスカーはパネルを受け取ると、離れようとするその手首を素早くつかんだ。
ぱっと黒マントを後ろに跳ね上げる。
「すまないな。俺がその炎の守護聖だ!」
 
篝火に照らされた精悍な美貌。間違えようのない赤い髪。
集まっていた男達は一斉に悲鳴を上げると、わらわらと森に向かって
蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく。
今更あんな連中はどうでもいい!
オスカーはパネルを左の小脇に抱え、右手でしっかりと主催者の手首をつかむと、
にがさん!とばかりに床にねじ伏せた。
ドタン!
 
「痛い〜〜〜!痛い、痛い!」
腕をねじ上げられ、床に押し倒された格好で主催者は甲高い悲鳴を上げた。甲高い、少女の声
仰天してオスカーはぱっとつかんでた腕を放した。
倒れた表紙に、マントの内側につけられていたらしい小型のマイクがころころと落ちる。
思いっきりおそってきたイヤな予感に、おそるおそるオスカーは主催者から離れると、
そのマイクを拾い、それに向かって声を出してみた。
「あ、あ、ただいまマイクのテスト中」(け●ゆう口調)
自分の声とは思えない、思いっきりしゃがれた低い声。
ボイスチェンジャー
イヤ〜な予感が殆ど確信になって、オスカーの背筋を走る。
 
そのとき、逃げる男達に巻き込まれ、かなり流されてしまってたらしいアシスタントが
よれよれになった黒マントを脱ぎ捨てながらこっちに向かって走ってきた。
美しい紫がかった長い髪。
よく通る声
「お控えになって、オスカー!そのお方は女王陛下であらせられます!
無礼を働いてはなりません!」
ロザリアの必死の叫びに、確信が確定になる。
極限まで血の気の引いたオスカーは倒れていた主催者の方に顔を向ける。
 
そこでは金色の巻き毛を乱した女王アンジェリークが、ばつが悪そうにえへへ、といった感じで笑っていた
 
オスカーは一瞬気が遠くなりかけた。(暗転)
 
 
30分後。
宮殿の女王補佐官の居間で、オスカーは居心地悪げに座っていた。
むろん、そこには着替えを済ませてのんきに微笑んでる女王と、
同じように着替えを済ませ、むっつりと渋い顔をしたロザリアが居る。
 
この場合のロザリアの不機嫌さの原因はどっちにあるのだろう。
女王にあるまじき、不謹慎な企画の首謀者、女王アンジェか。
それともその女王をねじ伏せてしまった炎の守護聖か。
いずれにしても、オスカーは怒りのやり場を無くしたあげくに、自己嫌悪にへこんでいる。
なんといっても女性に乱暴してしまった。
それも、自分が仕えるべき女王を。
 
原因はともあれ、かつては全宇宙の女性の恋人を自認していたフェミニストのオスカーは、
とりあえずこっちから先に土下座でもしようかと考えていた矢先である。
 
お茶を並べ終えたロザリアが、女王に向かっていきなりお説教モードに入った。
 
「ですから!さんざんわたくしが申し上げましたでしょ?
こんなお馬鹿な企画はおやめなさい!いくら何でも守護聖達が知ったら怒りますって!
自業自得ですわ!」
さすがにロザリアのお説教は堪えるのか、女王は所在なげにもじもじと弁解する。
「だってえ〜〜、ロザリアだって、手伝ったじゃないの!」
「あれは、放っておけば、どこまでもあんたが暴走するからでしょ!」
候補時代に戻ったような遠慮のないロザリアの言葉に、
アンジェリークは何故かオスカーに助けを求めてきた。
「そんなに悪いこと?だってオスカーだって、そのパネル、しっかり抱きしめてるじゃないの!
聖地に働く人々の心の潤いのために、何かしてあげたいなって考えるのも女王の仕事じゃない?」
「ございません」
きっぱりとロザリアが言い切った。
女王の言葉がもろ図星だったオスカーは、言葉がない。
事実、リュミエールのうなじパネルは、誰にも渡さないとばかりに、しっかりと抱え込んでる自分である。
 
「陛下、つかぬ事をお伺いしますが、このような写真は
どうやって撮影されたのですか?」
オスカーの遠慮がちな質問に、女王は自慢げに語ってくれた。
 
「それはね〜、ここでハープを弾いてもらった後に、ロザリアにね、
『襟元に何かついてます。ちょっと髪をよけていただけます?』って言ってもらって
その隙に小型カメラでぱちっと!ロザリアだって結構協力的だったのに、今更ずるいわ〜〜」
「それは
今度はロザリアの方がうろたえ、こほんと咳払いをする。
「やはり、私どもにも、目の保養は必要ですもの」
「でしょう〜?そう考えるのは私たちだけじゃないわ!眼福はみんなで楽しんでこそ功徳よ!」
これで納得した。
女王と補佐官がくんでいて、手に入れられないものなど、ある筈がない。
このまま放っておいたら、適当な名目で、リュミエールの私物やら
得体の知らない盗み撮り写真やらが、どれだけ見ず知らずの人間に流れるか。
 
オスカーはとっさにがばっと床に膝をつくと、必死に訴えた。
「女王陛下の深いお心遣いは感服しました。しかし。お願いですからリュミエールをネタにする事だけは
おやめください!
リュミエールはあの通り、人の言葉を疑ったり、勘ぐったりしない者です。
自分の奏でるハープの音が、少しでも女王陛下のお慰めになれば!とそう願い、
お役に立てることを心底喜びと考える者です。
それが、陛下が自分を招かれる真の理由が、そのような別の目的のためだったと知れば、
どれほど傷つくでしょう!お願いですから、リュミエールの心を弄ぶようなまねは、お止めください!」
 
「オスカー
その恋人を思うけなげな言葉に、女王は感じ入ったようだ。
 
「分かったわ、オスカー、安心して
優しい女王の言葉にオスカーは顔を上げる。
女王はにっこりとした。
「大丈夫よぉ、人の噂も75日!っていうでしょ?そのくらい経てば
もう恒例になっちゃってるから誰も口に出したりしないし、
もともとリュミエールは俗な噂に疎いから、気がつかないわ!」
 
オスカーは目の前が真っ暗になった。
駄目だ、駄目だ〜絶対に駄目だ〜〜〜!!!(泣)
「重ねてお願いします、女王陛下!私に出来ることであれば何でも
協力しますから!リュミエールだけは!」
オスカーの必死な叫びに、女王は何を思ったのか、ロザリアと少しの間顔を見合わせると、
新しい悪戯を思いついた子供のような顔で、にっこりと笑った
 
 
数日して、聖地に新しい噂が流れる。
 
『月のない夜に女達が集まる。
5つの心臓を手に、日頃の淑女の仮面を脱ぎ捨て
獣の本能をあらわにした女達が、宝を求めて争いあう』
 
「はい!次は超お宝映像!寝起き乱れ髪炎の守護聖の写真パネル!直筆サイン入り!
当たったのは、、光館女官、マリリン!!」
「きゃ〜、やったわ!」「イヤン、うらやましい!」「ねえ、ねえ、変わってよ〜〜〜」
キャア、キャア、キャアア。
 
 ………
 
「オスカー…、顔色が悪いようですが」
「(ギク!)いや、そんな事はない、俺は変わりがない」
「そうですか?何かふさぎ込んでいるようにも思えるのですが…」
「(ギクギク!)気のせいだろう。お前の前でふさぎ込む訳無いだろう?」
「ですが…」(心配そうなリュミエールの顔)
「ははは、俺は元気だ。見ろ、リュミエール、美しい青空だ」
「ええ、本当に美しく澄んだ空ですね(?????????)」
 
人の噂も75日。水の守護聖が噂に疎いのを、喜んでいるのは女王だけではないらしい
 
1999.11.15