「フムフム、お話はよーっくわかりました」
頷きながら、女王はぱくんと大福をほうばった。
「うん、このコシアン、美味しい!玉露によくあう!」
「そうでしょう、うちのコックの自慢作なんですよ〜〜こっちのおはぎもいかがですか?粒あんもまた絶品で〜」
「…誰がアンコの試食会やってんだよ…」
甘い物嫌いのゼフェルがうんざりと言った。
 
「そうね、美味しいおやつはひとまずおいといて〜〜〜ねえ、ルヴァ。この桜餅、少し貰っていっても良いかしら?ロザリアにも味見させてあげたいわ」
「いいですね〜〜もちろん、お好きなだけお包みしますよ。そうですね、桜の花の塩づけも届けさせますので、
桜湯も一緒に召し上がってみてくださいね」
「うわ、綺麗ね。楽しみだわ」
コロコロと微笑むアンジェリーク。
どうしても話が脱線しっぱなしで、オリヴィエは引きつった笑顔を作った。
いっそこのままお菓子の話だけで満足してくれれば、かえってラッキーかも、なんて儚い望みを抱いてみたりもしたのだが、紅白大福を一個ずつとおはぎを2つたいらげ、お土産に桜餅を包んでもらって大満足の女王は、
天使の笑顔でオリヴィエを振り返った。
 
「それでね、オリヴィエ。提案なんだけど」
「はいはい、女王陛下。どう言った提案なんでしょう」
なんとなく投げやりに言うオリヴィエに、女王は朗らかにのたまった。
「月曜日まで待てばいいじゃないの。そうしたら、出仕しなきゃないから、リュミエールの引きこもりも自然解消よ」
「この週末中に機嫌を取らないと、私のお肌の危機だっていったじゃないか、聞いてなかったの?」
思わず泣きが入りかけでオリヴィエがわめく。
女王は可愛らしく唇を尖らせた。
「聞いた覚えはあるけど〜〜〜忘れてたわ」
 
がっかりと肩をおろすオリヴィエに、女王はニコニコしながら鷹揚に言う。
「そうがっかりしないで。とりあえず、今私にたいしての不敬罪ものの台詞は聞かなかったことにしてあげるから」
悪いことばっかりじゃないでしょ?と小首を傾げる女王に、オリヴィエは
「それは、ありがたき幸せ…」
と涙ながらに答えるのだった。
 
 
★★
 
 
「それじゃあ、やっぱり宴会が一番いいんじゃない?楽しいし」
仕切りだした女王が、そう提案する。
答える気が完璧失せたオリヴィエにかわり、ゼフェルが突っ込んだ。
「リュミエールの部屋の前で?廊下に食いもんと飲みもん用意して楽団よんで、ドンチャカ、カラオケ大会でも
開こうってのか?」
「別に窓の外でも良いじゃない。お庭でガーデンパーティーやって、フォークダンスとかってのも、
けっこう楽しそうよ」
 
一瞬、輪になって踊るジュリアスとクラヴィスが脳裏に浮かび、ルヴァはお茶を吹き出しかける。
「リュ…リュミエールの部屋から見通せる庭は、見事な花壇ですから、フォークダンス踊るスペースを見つけるのは、ちょっと厳しいと思いますよー」
「じゃあ、やっぱりカラオケ大会かな〜ロザリアにバイオリンで伴奏してもらうとかさー」
優雅なバイオリンの音色に合わせ、アニメソングを熱唱するマルセルとランディをつい想像してしまうゼフェル。
こちらは遠慮なく飲みかけのミネラルウォーターを吹きだした。
 
「ちょっと、何やってんのよ!」
オリヴィエが文句を言う。
「やかましい、誰のせいで、こんな間抜けな会議が…ごほごほ」
「もう、落ち着いてよ。ゼフェルったら、本当に落ち着きがないのね」
むせているゼフェルの背中をとんとん叩きながら、元凶の女王が大人ぶった。
 
「あー、ご心配をおかけしましたが、女王陛下…?あとは我々で解決しますから…」
なんとか穏便に済まそうと思ったルヴァが、そう言い出す。
女王は気にしないで、と手を振った。
 
「何を言ってるのよ、守護聖達の問題は私の問題よ。一緒に解決の道を探しましょう!」
瞳をきらきらさせる女王は、どう見ても面白がっている。
大げさになりそうな雰囲気に、ゼフェルが面倒くさそうにオリヴィエを見た。
 
「そもそもは、てめえの嘘っぱちの夢占いのせいなんだろ?だったら、テキトーにまたでっち上げの解釈でも
あいつに教示してやったらいいじゃねえか。まったく反対の、むちゃくちゃ良い解釈をよ!」
一瞬きょとんとしたオリヴィエの顔が、見る見るうちに喜色に染まった。
 
「あー、あ、そうか、その手があったんだ!冗談だってうち消すんじゃなくて、逆の解釈があるって
別の道を示してやれば良かったんだ!」
「…あんた、本当に気が付いてなかったのか…?」
本気で喜んでるらしいオリヴィエに、ゼフェルが目を丸くして呟く。
 
「ああ、もう、落書きショックで、私のこの優秀な頭脳もちょっぴりストライキ起こしてたんだね。
こんな単純なことに気が付かないなんて、やっぱり、単純な解決法は、単純なおつむの子に任せるに
限るねぇ」
「だーれが、単純なおつむだ…」
あきれかえったゼフェルに気が付かず、オリヴィエは生き返ったような顔つきで立ち上がった。
 
「そうだねぇ、それじゃ、その夢の解釈は、もう愛し愛され、ちょっと離れてることも耐えられないくらいに幸せすぎて不安になってるんだ、って教えてやろうかね。もーっとべったりしてれば、そんな夢は見なくなるよ〜って教えてあげれば、リュミエールだって出てくるしオスカーは喜ぶし、八方丸く収まるってもんだわ」
両手を腰に当てて高笑いをするオリヴィエに、ゼフェルは頭を抑えてげっそりとした。
 
「さて、今からすぐにリュミちゃんの所へ行って安心させてやろうっと。やっぱ、からかうのはオスカーにしとくべきよね。リュミちゃん、いい子何だけど、真面目すぎて融通きかないからねぇ」
その前にテメエが妙なこと考えなきゃいいんだろうが、と内心で突っ込みを入れておいてから、
ゼフェルはオリヴィエの服の裾を引っ張った。
 
「ちょっと、何。やらしいね」
「だーれがやらしいんだ。テメエ1人で納得してねぇで、行くならアレもなんとかしていけ」
ゼフェルがふてくされたように背後を示す。
そこでは。
 
「騎士達の剣術試合とかー、王宮の聖歌隊の発表会とかー」
「魚拓の品評会とか、野立とかもいいですねぇ」
発展しすぎて、もはや何がなんだか判らないイベント計画を立てている、ルヴァと女王。
「…いつのまに、あんな話になってたの…?」
オリヴィエの顔が引きつる。
「知るか」
ゼフェルが吐き捨てる。
 
「…悪いけど、私、先に失礼するわ…早いとこリュミちゃん安心させてやらないと…」
そろーっと食堂を抜け出すオリヴィエ。
「おい、テメエ、責任取れ!」
慌ててそう言いながら、ゼフェルはもう一度ルヴァたちの方を伺った。
 
「それから、キャンプファイアーはやっぱり必要よね」
「ああ、それなら、サツマイモも用意して焼き芋など…」
ますます脱線してゆくイベント計画に、ゼフェルも頭を抑えながら、こっそりとその場を抜け出した。
 
(俺はこの週末はずーっと作業部屋で過ごすんだ。誰がなんといっても、1人で過ごすんだからな!)
リュミエールの美しく清楚な庭に恐るべき冒涜が行われないよう、祈りつつ、万が一の自分の身の安全を
考えてしまうゼフェルだった。