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「報告は以上の通りです」
 グランブルーからの通信のビデオが終わり、ロザリアが一同を見回す。全員が顔を見合わせた。
 式典がとどこおりなく終わり、予定どおりの日程を終え、明日には聖地へと帰還の予定という日に起こったアクシデントだった。
 前夜、新王との会見の後自室へ戻ったのまでは世話係が見届けている。しかし翌朝、いつもは時間に正確なリュミエールが朝食の席にあらわれない。
 部屋にいくと、何者かが侵入した気配が残っており、リュミエールはどこにも見当らないのだ。半日の捜索の結果、城内に姿はなく、出ていったのを見たものもいない。こうなっては誘拐としか考えられず、グランブルーの王は叱責覚悟で報告してきたのだ。
 今年26歳になるという新王は、戴冠早々の大事件に憔悴しきりながらも、しっかりとした態度で、事件の解決に努める旨を誓った。
「リュミエールが誘拐される心当たりは?」
 ジュリアスに聞かれ、急遽グランブルーの情勢についての情報を集めたエルンストが答えた。
「今回王位を継がれたサイノス様は文武両道のなかなかの人物であるとの評判です。ただ、前王の庶子であり、母君の身分が低いということで、王族、および大臣の中には、この戴冠を快く思っていないものもありましたようで、或いはそういった反対派のデモンストレーションである可能性もあるかと思われます」
「あー、でも、守護聖を誘拐なんて、真似、少々無謀過ぎやしませんかねぇ」
「目的が王の不祥事の責任追求という事であれば、ありえるかも知れないね。使い捨ての鉄砲玉ってのは、どこにでもいるだろうし」
と、オリヴィエ。
「リュミエール本人が目的ということは?」
 切羽詰まった顔つきでオスカーがいった。
「その可能性は薄いかと存じます。出席の決定が連絡されたのは、現地時間で戴冠式の3日前ですし」
 報告するエルンストはあくまで冷静だ。
「そう……そうだよな」
「声明文とかは、出てないんですか?」
「連絡があった時点では、出ていないようです。何か進展があれば、至急連絡するよう、伝えてあります」
 ランディの質問にロザリアが答える。ロザリア自身だいぶ動揺しているようだが、表に出さないのは流石といえる。
「ジュリアス様、俺にグランブルーへ行く許可をください」
 きっと顔を上げて、オスカーが言った。許可が出るまで、一歩も引かぬ、といった顔つきだ。ジュリアスは一つ息をつき、不意にクラヴィスの方を見た。
「そなた、この度も遅れてきたようだが、何か気が付いたことはないのか?リュミエールの身に何か起こったのか、」
……何がどうなっているのか、詳しいことは何もわからん。ただ……
「ただなんだ」
「深く眠っているのが見えた。普通ではなく、……薬か何か使われているのやもしれん」
「薬?」
「リュミエール、冬眠でもしてるってか?」
ゼフェルの遠慮のない言葉に、マルセルが半べそかきながら噛み付いた。
「こんな時に、ふざけないでよ!」
「あー、冬眠ですか、ありえるかも知れませんよ」
「ルヴァ様まで!」
「あ、冗談じゃあなくて、眠らせておけば見張りの手も少なくてすみますし、監禁の場所もとりませんしねぇ。案外近くに隠されているかも知れませんよ」
「そんな品物みたいに」
 オリヴィエが突っ込みを入れる。ルヴァの話し方はこんな時にものどかだ。 とにかくここで言い合っても埒が明かないという事で、オスカーとランディが向かうことになった。
 
 
 失踪守護聖探索で大わらわのグランブルー宮殿は、又も大騒ぎになった。
 聖地に報告を入れて現地時間でわずかに3時間後、2人の守護聖が到着したのだ。聖地からは通常、高速船でも数日はかかる距離だ。驚くのも無理はない。
実は彼らは、守護聖ならではの裏業で移動してきたのである。
 まずグランブルーにもっとも近い王立派遣軍の基地を捜し、そこに禁断の扉を使って直接降り立った。そしてそこからは高速艇を使い、近急用最優先の信号をだしながら、最短コースを最高速度で飛ばしてきたのである。
通常であれば、滅多なことでは許可のおりない暴走行為だ。当然予想外の速さの貴人の到着に、グランブルーの宙港はてんやわんやとなった。
「これは炎の守護聖様、風の守護聖様、ご足労をおかけいたします」
 ただ一人落ちついた顔で、国王サイノスが挨拶をする。初めて対面したわけだが、オスカーは好感を持ちようがない。
(この男の所為で、リュミエールが危険な目に遭わされた)そんな思いがわいてくるのだ。
 先入観無しで見れば、これはたぶん相当好い男の部類に入るのだろう。僅かにオスカーより低いくらいの長身、逞しく鍛えられた筋肉はかなりの厚みをもっている。短めの茶色の髪は自然に流れ、切れ長の目にがっしりした顎、ハンサムと十分云える良い顔つきだ。
 しかしオスカーは気に入らなかった。
(こんな時なのに落ち着きすぎている)
 慌てていればいたで、多分評価も悪いだろうが、それにしてもこの落ち着きは気になった。
(非常事態に強いという事か、それなら警備態勢の不手際については、どう考えているのか)
 考える前にサイノスが車を示した。
「どうぞ、一先ず宮殿へ。情況を説明させていただきます」
 サイノス自身は気に入らなかったが、それ以上に考える事が多すぎる。一先ずオスカーはサイノスへの人物評価については、忘れる事にした。
 
 
   
 サイノスたちの見解も、エルンストの予想とほぼ同じだった。おそらく失脚を狙う者達のデモンストレーション。彼が責任を取って退位する旨を発表すれば、解放されるのではないかという。
「それですむのであれば、今すぐ退位いたします。しかし私はこのような無謀な手段を許すことはできません。今しばらく、陣頭において指揮する事をお許しいただきたい」
「内政について、聖地が干渉することはない。当然お家騒動についてもだ」
 オスカーは冷ややかに言い放った。ここは警備の中枢とも云えるコンピュータールームだった。
広い部屋全体で、いくつもの端末が忙しなく情報をチェックし、つぎつぎとディスプレィ上の表示が切り替わる。集められた情報は専門の解析班へと回され、めまぐるしく人が出入りして行く。ランディは熱気にあてられたように、辺りを見回していた。
 スタッフは皆若く、きびきびと支持にしたがって働いている。上の思惑はともかく、この連中は若く進歩的な新王の誕生を歓迎しているのは確かだ。
 つぎつぎとデータがサイノスが扱う端末に集まってくる。
「深夜外出されたのは、アレックス侯爵様と警察庁長官殿です。それから、早朝になって、宇宙港管理センター所長がモルデン男爵に面会を申し込み、その後ご一緒にでられております」
「彼らが市郊外の山荘でしばしば休暇をとっておられたのは確認済みです」
……本命でしょう」
 いくつかの報告書に目を通した後、サイノスが渋い顔でつぶやいた。
「心当たりが?」
「アレックス侯爵は父が王位に即くとき、第2の継承者でした。モルデン男爵は姉の婚約者だった男、……自分が王位に即くと信じていた男です」
 苦い口調にオスカーは目線で説明を求める。
「私が庶子であるという事はお聞きですか?」
「ああ」
「父は王位に即く前に、正妻との間に娘を一人もうけただけで、子種を失いました。王子がつくれないことが障害となり、王位継承権を剥脱されるのを恐れ、侍女に手を付けて産ませた私を急遽跡継ぎとして呼び寄せたのです。しかし、本当に跡を継がせるつもりなどなく、姉に養子をとるはずだったのですが、不幸な事故で姉は亡くなり、婿養子の話はたち消え。……私はずいぶん罵倒されました。本来資格のない者が宮殿に居ると」
 淡々と語るサイノスにはまるで表情がない。
……誰もがいずれ追い出される名前だけの王子だと、冷たい態度をとる中、リュミエール様だけが私を人間らしく扱ってくださいました。あの方がいなければ、私は字も読めず、学ぶ楽しさも知らぬまま、今頃どうしていた事でしょう。あの方は恩人です。必ずお救いいたします」
 きっぱりとサイノスはいいきった。切れ長の褐色の眼が異様なほど輝いている。
「一つ聞いていいか?」
 瞳の輝きに引き込まれそうになり、オスカーはようやく話題を変えた。
「父君はどうして子種を無くしたんだ?」
「性病のせいです。父は漁色家でしてね。誰かれかまわず女に手を着け、興味本位で最下層の娼婦に手を出したところでうつされたとか。これは侍医に聞いた話ですが」
 ランディが思わず吹き出してオスカーに頭をこづかれるのを、サイノスは不思議そうに見つめる。そして小さく彼も吹き出した。
……守護聖様方は皆仲がよろしくていらっしゃる……。リュミエール様も市内を回り、どなたかのお土産を選んでおいででした」そして独り言のように呟く。「渡されるのを、とても楽しそうに…」
 その言葉にオスカーは伝言を思い出し、顔を曇らせた。
(お土産を買って帰ります。待っていてくださいね)
 そのために気が付かなかった。それを告げたときのサイノスもまた、顔を曇らせていた事に。その表情がまるで、嫉妬のようにも見えたことも。
 
 
 その後の調査で疑惑の4人は今も首都に居ることが判った。しかし高官達に自宅待機の命令が出されているというのに、宙港の管理センターに、チケット予約が入っているという。行き先は観光惑星として名高い星だ。
「派遣軍の方々は?」
「一応、惑星脱出がないかどうか、宇宙空間で一艦隊が待機中だ。命令がありしだい、発進するすべての船を停船調査する事になっている」
 オスカーの返事を聞いて、サイノスは薄く笑った。
「善良な市民に迷惑をかける事になってはいけませんね。彼らが船に乗り込む前に、拘束命令を出しましょう」
 命令はすみやかに実行され、四人は宙港のロビーで逮捕された。
 
 
「それで何か判ったのか?」
 オスカーに問われ、係官は渋い顔をした。
 なにぶんにも身分のある人なので、あまり強引な聞き取りができないのだ。
「彼らは陰謀だといっておりますが」
「詳しく説明しろ」
 話によると、戴冠式直前に彼らに密告が入ったのだという。『新王は、彼らが王太子時代に行なった不敬な態度を非常に怒っている。即位したら最初に厳罰を与えるつもりだ』と。身に覚えがありすぎる彼らは震え上がった。
 有能で行動力のあるサイノスに狙われたら対処しようが無いと戦々恐々としていたとき、再び接触があった。隙を見て逃げるのだと。そしてほとぼりが冷めるまで、どこか他の星に隠れるようにと忠告された。
 彼らは言われるまま、手配された船に乗り込むために宙港にいったのだと。
「何だ、それは」
 オスカーが聞きかえすのも無理はない。一国の重鎮にしては間抜けすぎる言い訳だ。
「彼らは、ずいぶんとサイノス様に辛く当たっていました。何かしようとすると、かならず横槍を入れて、復讐されても仕方ない人たちですよ」
 係官の言葉はけっこう辛辣だ。
「サイノスは?」
「今休憩を取っています。ずっと眠っていなかったので」
「悠長なことだ」
 オスカーの評価も結構きつい。係官は言い訳をした。
「式典が続き、ただでもお疲れだったのです」
 ふんとオスカーは鼻で笑った。
「それで裏は取れたのか?」
「嘘に決まってます。記録では船の手配は宙港センターの所長室からされた事になっているんですよ」
「ちゃんと調べろ。嘘にしては幼稚だ」
 コントロールルームに戻ると山荘の調査に行っていたランディが戻ってきていた。コンピュータの前で技師と話をしている。
「分かるのか?お前」
「いえ、全然」
 さわやかな笑顔の一拍後、ランディの頭に見事なたんこぶができる。
「何をするんですか!いきなり」
「単なる八つ当りだ。それで?何か見つかったのか?」
「えーと、特別何も。使用人の話だと、確かによく集まっていたけど、ここ一ヵ月くらいは酒を飲んで愚痴の言い合いばっかりだったそうです」
「話と違うな」
「でも、これも使用人が言ってましたが、口と態度ばかりでかいけど、わりと小心者で、警察長官とか、宙港の所長さんとか、いい加減手を切りたがってたそうです。一緒になにか企むなんて、昔ならともかく今は考えられないって言ってました」
「ずいぶん、あけすけだな」
「みんなサイノスさんに期待してるんです。きっと公平な政治をしてくれるって」
「ずいぶん肩を持つじゃないか」
 ぽかりとまた頭を殴られて、ランディは膨れっ面で応えた。
「俺が言ったんじゃ無いです。ここの民の声ですって」
……そうかい、悪かったな。サイノスはどこだ?」
「リトナ街の屋敷です」
 技師が答える。
「いい身分だな。外に屋敷を持っているのか」
「そうでもしないと、気が休まる時が無かったのです。屋敷といっても小さいもので、召使一人置いていないのですよ」
 憤然と説明するのに、オスカーは閉口した顔で手を振った。
「何でもいい。話があるから呼び出してくれ」
しかしいくら呼び出してもつながらない。
「別の場所にいるんじゃないのか?」
「そんな筈はありません。確かに何かあったらここへ連絡をと・・・」
 オスカーの胸に疑念が広がった。
 
 
 その数時間前・・・市内にある彼の小さな館に休息の為訪れたサイノスは、真っすぐに地下室へ向かった。
 どこかの研究室並みに器材の整った地下室の奥に、一つのカプセルが設置してある。
 彼は器材を操作して、すべてが順調であることを確かめ、カプセルの機能を解除した。
 低い音がして、カプセルが開き、冷たい霧が立ち上る。
 その中から現れた眠れる美貌。
 長い水色の睫毛が震え、ゆっくりと開くのを彼は見守った。海の碧を封じたような美しい瞳がぼんやりと彼に向けられる。
「気が付かれましたか?これをお飲みください」
 情況が理解できないまま半身を起こしたリュミエールは、差し出されたグラスの中身を疑いもせず飲み干した。
 再び瞳が揺れ、彼の身体が倒れる。それを支えたサイノスは、彼がぐっすりと眠っているのを確かめると、さも愛しげに乱れた髪を撫で付けた。整った顔の輪郭を指でなぞる。
(本当なら、連中を追跡している間に逆方向に脱出するつもりだったのに、妙に手際のいい守護聖のおかげで予定が狂ってしまった。でもまだ手はある。連中がもたついているうちに、今度こそ) 
 サイノスは大切そうにリュミエールを両腕で抱き上げると、地下室を後にした。
 
 
「まだ連絡がつかないのか?」
 いい加減いらつきながらオスカーが急かした。オペレーターが困惑げに見上げる。
「どうしたんでしょうか」
「いい、案内してくれ。俺が直接行く」
 オペレーターが仰天する。
「とんでもありません。私どもが参りますから、もう少しここでお待ちを」
「急ぎの相談があるんだ。早く案内しろ」
 せっかちに言って、一人の武官を案内にオスカーは城を出た。
 ついた先は、たぶん言われてもこれが王族の別宅とは思えない、といった程度の本当に小さな家だった。入ってみると、誰も居ない。
「おい、本当にここか?」
「はい……どうしたんでしょうか」
 武官も不安げにその辺の部屋を覗いている。本当に質素な館だ、特別なものはなにもない、当たり前のただの民家。
「オスカーさま」
 地下室を見にいった武官に呼ばれ、室内に入ったオスカーは、顔をしかめた。
ここだけは普通の民家とは全く違う、何かの研究所のようになっている。異様な光景の中、部屋の中央におかれた大きなカプセルがひときわ目を引いた。
「何のカプセルだ?」
……コールドスリープ用のようですが……
(眠っている)(案外近くに)
聖地で聞いた言葉が頭に浮かぶ。オスカーは自らカプセルの中を調べた。
 何も手がかりはない
 考えすぎかと、オスカーがため息を吐きながら、カプセルから離れようとしたとき、設置してある床とカプセルの隙間に何か落ちているのが見えた。
 ぼんやりと身を屈め、拾いあげた物を見た瞬間、オスカーの血の気が引いた。
 鎖の切れた白い玉のペンダント。玉の中心は淡い青から濃い碧へのグラデーション。
 見覚えのあるその品は見間違いようもない、かつてオスカーがリュミエールに贈った品だ。
 彼はこれを肌身離さず、常に服の下につけていた。
 そう、おそらく「犯人」は彼を冷凍睡眠させる際、身につけていた金物を外したのだろう。低温下で、万が一にも彼の肌に害にならないように。
「間違いない。リュミエールはここに、カプセルの中に隠されていたんだ!」
 叫んだオスカーに、武官は目を見張った。
「まさか、そんな。ここは・・・」
「サイノスの館だ。調べ直しだ!サイノスはどこにいるんだ!」
 叫んで彼は館を跳びだした。
 
 
「ちょっとお待ちください。もう少し調べてから」
「急いでいるんだ!派遣軍に至急連絡を取る。回線を開け」
城に戻るとオスカーは事情が分からずおろおろしているオペレーターの尻を叩くようにして、衛星回線をつながせた。今すぐに派遣軍に惑星を封鎖させるためだ。
しかし異常が起きたのはその瞬間だった。
「!」「何だ、これは!」
 すべてのディスプレィ上に意味の無い文字の羅列が走り、次に電源が落ちる。宮殿は一瞬にして全ての機能を失い、大混乱になった。
(やられた・・・)
 大騒ぎしている主任技師を捕まえて、オスカーは慌ただしく問いただした。
「落ち着け!システム復興は?できるんだろう!」
「それが・・・」
 説明を聞いてオスカーは絶句する。システム導入の実際の中心はサイノス。 システム異常があったとき、緊急リセットのコードを持っているのもサイノス一人。
「ちょっと待て、それじゃ、システムに細工ができるのも?」
 オスカーの言った意味を察し、技師は悲鳴を上げた。
「オスカーさま」
 ランディが不安げに傍らにきた。オスカーは茫然と呟いた。
「なんてことた……
 
 
 ランディだけでなく、付近にいた者達が皆、オスカーの支持を待つために傍に寄ってきていた。
みな動揺している。何をすればいいのか、自分で判断できなくなっているようだ。
 おすかーは動揺を押し込め、できるだけ平常の声で話せるよう、一つ息をしてからおもむろに指示を出した。
「ランディ。俺達が乗ってきた着陸艇はまだ宙港にあるな。お前は至急、基地に戻って聖地に連絡を取るんだ。それから技術者を何人か、ここのシステム修復の為、遣してくれ」
「はい」
「お前達、他にサイノスの行きそうな場所の心当たりは?人気のない、移動の簡単な・・」
 スタッフのうち、何人かがおろおろと応える。
「王家所有の城や別宅がありますが、詳しい所在地とか規模はすべてデータの中で」
「年季のいった侍従とか、供回りとか、知ってそうなのがいるだろう!それとできるだけ広域の地図、早く探せ!」
 声に押されるように何人かが走り出ていく。
「連絡手段は?電話や無線」
「電話のほうはシステムが復旧しないと・・でも無線機なら、旧型ですが」
「捜索に必要だろう。とりあえずあるだけ用意してくれ」
「はい」
 とりあえずの指示を出して、オスカーは椅子に乱暴に座った。
 もう一度、口の中で呟く。
……なんてことだ)