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草原の上に転がり落ち、咄嗟にかごめを庇った弥勒はしたたかに肩をぶつけて蹲った。
「つ…」
その傍らではかごめのうめき声。弥勒は痛みをこらえて立ち上がると、かごめに声を掛けた。
「かごめ様、お怪我はありませんか?」
「アイタタタ…でも大丈夫。弥勒様が下敷きになってくれたから、ケガはしてない…」
ぶつけたらしい腰をさすりながらも気丈に笑い、かごめも身体を起こした。
そこはなんの変わりもない夜の森。
見上げた空に浮かぶ月は遠く霞み、完全に真上に上るにはまだ間がありそうな角度で二人を見下ろしている。
フクロウの鳴き声に混ざって珊瑚と犬夜叉の声。
かごめは力が抜けたのかぺたんと座り込んだ。
「さっきまでいた場所って、何だったんだろ…弥勒様?」
目を向けると、弥勒はぼんやりと森の上を見つめている。
「申し訳ありませんが、かごめ様…。今はまだ上手く説明出来ません。もう少しだけ時間を下さい」
それだけ言って、弥勒は胸を押さえた。
胸が痛い――押さえつけられているように。
大妖に示された、拒絶の言葉が胸に堪えている。
身の程を知れと、そう突き放されたのだ。
勝手な思い上がりだったのだろうか――あの方と自然に話せると思っていたのは――自分だけの勝手な勘違いだったのだろうか。
もっと近付きたいという願いがあっけなく砕かれた思いで、弥勒は全身の力が引いていくのを感じる。
そして何より、あの妖が心に抱えている関を破る事が出来ない自分の無力さがもどかしい。
どうすればよいのだろう。
その思いだけがぐるぐると脳裏を巡る。
そして思い出すのは、表情を無くした面(おもて)の中、僅かに揺らいだ妖の瞳の色だけ。
永の時を生きる妖の、積み重ねられた孤独が見えたような気がした。