まずはご飯だ。ご飯でおかずをいただく。
中国大陸は、およそ長江を境に、北は小麦文化、南は米文化に分類される。
これは、もちろんその植生に左右されているわけだが、さて、問題の客家料理はどちらの文化に分類されるのか?
もともとは中原に覇を唱える漢民族の末裔、客家は小麦文化を持っていた。が、様々な理由から華南の地に逃れた彼らは、コメが主産地のその地で、民族の故郷の小麦食に憧れながら2000年を過ごしたという。
それがまた、独特の客家料理の風味を一因にもなったのだ。

俺たちは単に飯をたのんだんだけど、これなんだか判る?
芋です、芋。
ちょっとモサモサしているけど、ほんのりスイート、しっかりボリュウム。質実剛健な客家の料理には、やっぱりこういうのがマッチするのな〜。

そして、飯が出たら、汁でしょう。汁。

雪菜のタップリ入った汁。雪菜の分、ちょっと塩味が強めだけど、これがいくらでも入る素朴な旨さ。
とにかく、台北では総ての湯(タン)が旨かった、というのが素直な感想。そして、スープが旨ければ料理は旨くなって当り前。

とにかく、時間は限られている。能書きはいいから、喰ってかつ呑むしかない。
「呑め飲め」とばかりに、ケースごと足元に次々運ばれるビールに囲まれ、俺たちの闘いは始まった。



豚肉の角煮。もちろん判っているとは思うけど、皮付きだ。
そして、そして、付け合わせとしてなんとシナチクなのだ。シナチクで悪ければメンマだ。別の皿でつけてあるぞ。
合う。合うぞ。サッパリした筍が、また、食感でも豚肉をひき立てる。中華料理界の助演俳優賞はいつだってコイツに決っている。



エビ。素朴な塩味。特に語るところなし。
それにしても、誰だ?時間がないってのに、こんなに食べ難いもの頼んだヤツは。


さーて、スープを飲み終わったぞ。

って、またかよ〜〜〜
なみなみと注がれた湯のお代りが椀こそばのように間髪入れずにやってくる。
「サービス、サービス」って顔してるよ、店のおいちゃん。
そりゃ、台北でスープのお代りがタダなことが多いのは段々判ってきたよ。でも、炎天下からやってきてビールがぶのみしてる水ッ腹にはスープはキツイよ。
そりゃね、自分の器によそわなきゃ済むことですよ。でもね、しょうがねえじゃねえか、うまいんだから。

そんならそれで、飯もお代りだ。
それにしても、不思議だぜ。飯が進む。『ゴハンがススム君』なんか目じゃないんだぜ。
何故だ!?
そうか、この塩味のせいか。
飯をガンガン喰うためのオカズ。これが客家料理の本質なのか?
だとしたらそれは、基本ワザがすなわち極意である武術の本質と同様に、料理の極意では無いのか?
毛沢東はこれを喰って革命を成し遂げたというのなら、これは最強の飯のオカズだ!
これが、客家か!



そして、骨付き豚肉の煮込み。
中華醤油の甘味と香菜の香りがなんといっても豚の脂にはサイコーに合うんだ!


そして、アヒルの肉。そしてソース。
ほんのり甘いこのソース。これは?これは・・・・・・
オレンジソース!!
客家にも、こんな、ちょっと洒落た料理もあるんだね。
う〜ん、なんか、身も心も満たされたカンジで・・・

またかいッ!
まあ、飲むけどね。うまいから。



飲んだ、食った、呑んだ、喰らった。
45分という限られた時間内で、俺たちは成し遂げた。
勝った。俺たちは勝ったのだ・・・・・・
「あれッ!?」
「なに?」
「隣りのテーブルの料理、あんなの、メニューに載ってたかな」
「いや・・・ない。あったら絶対頼んでる。だって、俺たちが喰ったのよりもうまそうだもん」
うまそうな料理。本当にうまそうな料理。まさか、日本人には出せない、とでも?
というか、締める時間なのに、なぜ悠然と喰ッている?隣りのテーブルの人たちよ!?
「・・・まかないだ!」
まかないとは、飲食店の従業員が自分等のために作った食事のこと。良く見れば、食べてるのはさっきからビールとかスープとか、次々運び込んでくれた人たち。

なんてこと・・・こいつら、もっとうまそうなモン喰ってうやがる。それじゃあ俺たちは・・・・
「勝負に負けて、試合に負けたということか。ことなのか」


    



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