『軽快な口笛のリズムに乗って、ヤツが帰って来る。必殺の早撃ちが閃くとき、また荒野に悪党どもの断末魔がこだまする!!』

とは、続夕日のガンマンの惹句だったかな?(うろおぼえ)
さて、そんな、マカロニウェスターンな今回の物語の舞台は、ココ、飯能。
埼玉県飯能市。西武池袋線飯能駅と東飯能駅の間、1キロに満たない間隙と、それを取り巻く狭小な地域の中だけで、この壮大なドラマは人知れず幕を開き、そして、人知れず幕を下ろしたのだった。

「ペルー料理って喰ったことあるか?」
なぬ?ペルー?知らんなぁ・・・・知らんことならなお興味がある。
無責任なすぎなみの一言に、俺たちは食いついてしまった。
すぎなみは尚も言うのだ。
俺は見た!あれは、あの店は、幻なんかじゃなかった、と。

8月の灼熱の太陽の下、集合したバカは3人。
すぎなみ、ブルース、肉弾頭。
バカはバカだ、それはしょうがない。
すぎなみがその店を見たというのはほんの一瞬。自動車で繁華街を徐行している時に、フト見上げたビルの2階に看板を見ただけなのだから。
それでも、俺たちは行く。
黄金の都エル・ドラードを求め、何の確証もないままアンデスの山中に踏み入って命を落とした数多の冒険野郎たち。
その熱い血が、俺たちの血管を焦がし尽くすからだッ!

ところで、すぎなみは正確な店の場所を記憶してはいなかった!!
だいたい、この駅の近辺・・・・そして、雑居ビルの2階あたりに看板が出ているという情報のみ。
アホみたいに、上を見上げて歩くのみ、ただ、ひたすらに。
嗚呼、おかし過ぎるぜ。

飯能と東飯能。2つの駅間を無為に何往復もしただろうか。
しかし、手応えは確実に、あった。
「南米人だよ!」
南米人なれしているブルースが断言する。
「しかもありゃ、ペルー人だよ」
2人の女の子といちゃいちゃして歩くラテン系のオトコを、ブルースが断定した。
「あんな洋服のセンスはペルー人に決まってるだろうよ」、と。
確かにこの街はラテン人種と思しき住民が多い。
ならばすぎなみの言葉にも信憑性が出てくる。
中国人の多い町には中華料理屋が多い。韓国人の多い町は韓国料理屋だ、の理論により。
しかし、時は残酷だ。
長いはずの夏の日が、それでも暗く翳り出す。
何時間歩いたのか。だめだ、こんな漫然とした方法じゃあ!
よし!聞くぞ!
次に会った地元民に、店の場所、聞くぞ!!
「すんません、ここらへんに『ペルー料理店』って、ありますか?」
漫然とならざるを得ない質問が、しかし、わずか2人目でヒットした。
せんべい屋の店先にいた、ご隠居が、だ。

「ああ、アノ店かな・・・・・」

と、店までの道順を説明し出したのです!!
ヤッター!!
件の店までは、歩いて10分もかからないとのこと。
なんだ、もっと早く聞いてりゃ良かったじゃん。
いやいや、ここまでの徒労がまた、ついに辿りついた店の、美味しさを盛り上げるんだぜ。
などと、バカが馬鹿なりに楽しく話ながら、最初の交差点を右に曲がり、次の角を左へ・・・・・
アレッ!?どこここ?
目の前には、線路際の閑散とした小路が広がる・・・・
「右じゃないよ!最初の交差点を左だろうが!」
では、左に・・・・
「違うよ!道、一本間違えたんだよ!」
それでは・・・・
「違うよ!!」
「違うよ!!!」

日は、とっぷりと、暮れた。
もう、どこがどこやら・・・・・
「あの親父・・・・嘘教えやがったな」

最初の、交差点に戻ってみた時点で、すでに煎餅やは閉まっていた。
逃げやがった・・・・
しかし、他にペルー料理と言う言葉に反応するものはいない。
駄目だ・・・・・もう、ペルー料理は、断念するしかない。
その時!!
「スペイン語だ〜〜〜!!」
スペイン語は聞き慣れているブルースの耳が、隣の表情も判り難い薄暗がりの街並みから、その2人を浮かび上がらせた。
2人の・・・・ペルー人。

カタコトの日本語とスペイン語でコミュニケーション。
「ココらへんで、ペルー料理屋知りませんか?」
「知らないよ〜。オレタチ他の街で働いてるからね」
ガーン
「でも、家族近く住んでるから、聞いてあげるよ」
ホントすか!?
首の皮一枚で繋がった!!
やおら取り出した携帯で、早口のスペイン語をまくし立てるぺルー人。もはや、ブルースにも聞き分けられない。
「説明し難いところにあるんだって。オレの家族が案内してくれるって言うから、ちょっとついて来て」
え?
「すぐ近くだからさ・・・・・」

10分ほど歩いたか?
段々寂しい通りになる。
・・・・・・大丈夫なのか?
募る不安。そして、
「ココだよー」
真っ暗な路地に誘い込まれる!
ええい!ままよ!こっちは3人!そっちは2人!
なんのつもりかしらねーが!日本武道をなめるんじゃねーぞッッ!!

ピュイ、ピュイ、ピューーイ
2人のペルー人の口笛がこだまする。
路地を囲む2階建てのアパートのそこここから、何人ものペルー人が現われた!!
3人の食べバカは、砂利道の上に身構えた。
絶体絶命・・・・・・逃げ場、なし!!


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