南国には南国のフルーツがあるッ!

2002年2月8日、暗雲の垂れ込め、南国の風情があまりない台北に辿りついた俺、肉弾頭の心には、ほかの食べまくりメンバーとは別に、一つの目的があった。
それは、ヤツを見つけ出すこと。
言葉も通じぬ異国の地で、一体どれだけのことができるのか?
しかし、俺はやらねばならぬのだよ。

ことの発端は掲示板である。
「黒真珠蓮霧という果実はとてもおいしいらしい」との噂をたんぽぽさんから聞き取る。
その後、喰いしごき調査委員会のCarlosさんからも蓮霧関連の情報。
「喰った人の話に依れば、蓮霧は喰った瞬間拍子抜けするような味。“黒真珠”については情報なし」
とのこと。
この時点で、俺の頭にはひとつの神話が形作られてしまったのだ。
「蓮霧は拍子抜けするほど淡白な果物。そして、その蓮霧の仲間で“黒真珠”と呼ばれるヤツは、黒光りするそのボディの内側に、通常の蓮霧のおよそ3倍の味わいを秘めているのだ!」・・・と
後註*このコーナーをアップ後、Carlosさんから指摘があり、蓮霧を食べたのはCarlosさん本人であり、彼は黒蓮霧であることを判って食べたとの由。
つまり、情報提供を受けている時点ですでに、俺は妄想の世界に旅立っていたということになる。

さて、「時間があったら2日目以降にでも市場とか行こうかね」程度に構えていた俺だが、遭遇の機会は向こうからやってきた。
初日の夜、飯屋を求めてまたもや彷徨っていたのだが、(その顛末については台北タイガーシリーズ1「落日の食都に不死鶏は飛ぶ」参照)9時過ぎ頃、八百屋の前を通りすぎるとき、仲間が俺に囁く。
「おい、アレ、もしかしてアレじゃねーか?」
アレ?
そーだよ!アレは、アレだよ!
店先に積んである一番前の果物の札にはハッキリ「蓮霧」と、
赤い洋梨というか、フォルムだけで言えばパプリカっぽいんだが、とにかく間違いはない。
「これ、3つ下さいッ!」
とにかく、買わねば話にならない。そのものを指差し、指を三本突き立てる俺に、店のおっさんは3つの蓮霧を入れて、ポリ袋を渡してくれた。
だが、金額がわからない。いくら渡せばいいんだ?
そのうち、仲間は遠ざかる。誰かが買物をしているからと言って、店探しの歩調を緩める連中じゃあない。
ポケットの小銭を広げた俺の掌の上から、50元硬貨と10元硬貨を拾う親父。
俺は仲間の跡を追い、逃げ出すように夜の街に走った・・・

そして、晩飯にありついた俺達。しばらくザックに放り込んだ蓮霧のことは忘れていたが・・・ 「あ、蓮霧あったんだ。みんなも喰うだろ?」
ホテルに帰って思い出す。
「喰えるか!腹一杯だ」
「まだ持ってたのかよ。肉のことだから、歩きながら喰っちまったと思ってたぜ」
つーワケで、一人でいただきます。


サックリとした歯応え。
リンゴよりも軽い感触。ナシほどには果汁があふれず、それほど強烈に自己主張しない。
固さだけで言えば、洋梨が一番近いが、もう少し歯切れはいい。
ううぬ。食感は“すが立ったリンゴ”といったところか。
そして、甘味も酸味も微かな味わいで、全く口の中に残らない。
この味を評して“拍子抜け”と言った人の気持ちは良く判る。
しかし、食後だというのに軽く喰えてしまうサッパリ感はいい。芯も残らず食べ尽くせてしまうのも嬉しい。
とりあえず、明日以降の今度は“黒真珠”との出会いを期待して俺は床に就くのであった。

残った2つについては、夜中に喉が乾いて起きた時に(エアコン効きすぎ)喰ってしまった。喉の渇きを抑えるにはこの淡白な味わいは最適である。

2日目から、散策中に目に付いた果物屋は積極的に覗いてみるが、色の黒い蓮霧はない。どこにも、昨日喰ったあの赤い蓮霧はあるのに。
ホテルの裏手の果物屋にも筆談で質問。
“黒真珠蓮霧?”
店の親父は赤い蓮霧の山を指して、両掌を上に開くのみだ。「ココにはこの蓮霧しかねーよ」と言っているようだ。
が、その後気がついたのだが、街中に貼られているアメリカ映画「パール・ハーバー」のポスター、何故か中国語タイトルが「珍珠港」になってるんですが。
え?もしかして、中国語でしんじゅって、「珍珠」なの?
じゃあ、「黒珍珠蓮霧」じゃん!
間違って書いてたよ!恥ずかしいね〜。

そんなこんなで、字を修正しながらも、いくら探しても見つからない「黒珍珠蓮霧」。
しかし、その答は3日目についに明かになったのであった。
台北駅前の新光三越デパート食品売り場で土産やお菓子を買物してたとき、もはや修正のように果物売り場へと向かう・・・

はいはい、蓮霧発見、もう嫌になるほど見飽きた赤い蓮霧ですねェ。
ハァ〜〜。黒珍珠は一体どこに・・・・おや?
アレ〜〜??

コレじゃん!!
黒くないんじゃん!!
赤いじゃん!!
そう、今まで見かけてはため息をついていた赤い蓮霧。
あまつさえ、もう喰っちまってた赤い蓮霧。
こいつが黒珍珠蓮霧だったのね。
味が、というよりもその正体が肩透かしだよ。

しかし、決してまずいわけではない黒珍珠蓮霧の名誉のタメにすの字の言葉を引用する。
「今回の台北は寒かったからね〜〜。こういうさっぱりした果物は、もっとガンガン暑い時に汗だくで歩き回った後に食べると、うまいよ、きっと〜」

なるほど、そういうものかもな。南国のフルーツには南国の食べ方があるということなのだろうな。

黒珍珠探索中に見かけたほかのフルーツ

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