馬車にのったモッツァレッラは混んでいた。
我々は一人で優雅にワインを楽しんでいたおっちゃんの相席に通された。おっちゃんは不愉快そうな顔で我々に席を譲り、テーブルのはじっこに追いやられた。
できるだけ前回と注文がかぶらないように慎重にオーダーした我々はドッカリと腰を下ろす。タキオンと肉弾頭にとっては初めての店だが、我々は二度目である。落ち着いたものだった。
次々と料理が運ばれてくる。モッツァレラのパスタや牛ほほ肉の煮込、子羊肉のステーキ、どれも逸品だが、この日の目玉はワインだった。
上等だが、どこか退屈なワインを空けた我々が三本目に頼んだワインこそ、バローロと呼ばれるものだった。
BAROLO(バローロ)。
CORDERO DI MONTEZEMOLO(コルデーロ・ディ・モンテツェモロ)酒造が生産した赤ワインである。
Alba(アルバ)の南にある小さな区域でイタリアで最高の赤のひとつを産するといわれている。芳醇でタンニンに富み、アルコール分がいたって強い(最低13%)。辛口だが口に含めばかぐわしく、すばらしい深みを感じさせる(しかもすっきりしてはつらつとしている)。ネッビオーロ種からつくる。15年までもの熟成に耐える(5年以上寝かせたものがリゼルヴァ)。
我々はこの1995年ものを飲んだ。5年以上寝かせたので、リゼルヴァと呼ばれる熟成されたワインである。たしか1995年はワインの当たり年ではなかったか。
肉料理に適した渋めの赤ワインなのに、口当たりが柔らかく、白ワインのように単体でもスルスルと飲めてしまうのだ。そのくせ、どんなクセの強い料理にでも合ってしまう。まさに魔法のようなワインだった。
その感動を言葉で表現することは難しい。ただ、誰が飲んでも愉快な気分になれる酒だった、そう記すことで、なにかが伝わるのではないかと思う。
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