この、緑色の憎いやつをオクラだと思ってがぶっと行ったブルースの運命やいかに?

みなさん、ある程度予想されていると思う…

かつてブルース自身が作った迷言「赤は進め、黒は注意、そして青は…危険!危険!危険!」
つまり、赤唐辛子はまだまし、カリカリに火を通した赤黒いのはかなりヤバイ。しかして、生の青唐辛子に比べたらそれらはまだまだましだと言う、我々の体を張った実験の結果だ。

「うん、まあこれも言うほど辛くはないよ…」
あれ、無事ですよブルースさん。本当にオクラだったのかな…
「ギャー!」
天を仰ぎ、顔を伏し、目をつぶってブルース、意味不明の儀式を執り行う。
「し、し、死ぬゥ…ビール、ビール、ビー…」
口にビールを含んだまま、飲み込むことも出来ずに微動だにしないヤツに、俺は本当に、このままヤツが死ぬのではないかという危惧を抱かせられた。
それほどに、ヤバイ。今まで何度も辛さに悶えるこの男を目撃して来たが、これほどに理性を失ったブルースを見たのは、後にも先にもこれっきり、だ。
「アンタじゃ無理だ。俺が替わる」
ダラダラと顔中の汗に耐えながら震えるブルースには、最早一口も入るまい。
すの字やフニャモラーほどではないにしても、比較的辛さに強い俺が、後始末をかってでた。
スープ、うまい。風味のあるチーズのコク。そして、ほのかに染み出すトウガラシの刺激。こんなにうまいものを、なんと反応過剰なヤツだ、ブルース。
トウガラシ本体だって、ここまで食べ慣れてくれば具としても楽しめるようになる。
うまい、うまい…なるほど、これがブータンの常食…
???

クラッと来た。おかしい。まだそれほど飲んではいないはず。
違う!コレは眩暈だ。鼻腔の奥に突き刺さる刺激が脳天に突き抜けているのだ!
気づいたら、急に喉の奥がむせた。
目が開けられない。しばらく、暗黒の中で混乱する思考をまとめた。何故、俺もブルースも自分が辛さにやられていることに気づくのが遅れたのか?

なぜならそれは、辛すぎたからだ。今だって、辛くない。
口の中が痛いだけだ。刺激はもう、辛味どころじゃない。痛みとなって口中を襲う。痛みで一瞬、感覚が麻痺していただけなのだ。

いろいろと不気味な行動を取っていただろう俺たちを、店主も常連らしい一家も、一顧だにしない。
判ってるよ、もう。…お前ら、見慣れてるんだろう?

しかし、チーズの濃厚な味が辛味を包み込んでくれる。辛いは辛いが、このチーズスープを飲んでいる間は辛味がまだ緩和されている。
辛いスープを飲んで辛味を緩和。逆説的だが、これは敵に向かって逃げるのと同じだ。なんとかなる。
と、思ったのもつかの間。そのスープがまたどんどんと辛くなる。
まだ残っている青唐辛子から辛味、染み出し中…

あと、ほんと余計なことだが、「命ある限り、食べ残しは避ける」という信念がある。
まずいものなら残すよ。
でもこれ、酷いし痛いしツライけど、まずくはないんだよ。むしろうまいんだよ。
ブルースにしてみればもう、うまいかまずいかすら判らないらしいけど。
ああ、判った。最後のコレは、俺の仕事だ。肉弾頭の仕事はやせ我慢だ!


この後の1分間のことは、…もう、繰り返さなくても判るよね?

このあと、とってもうまい自家製プリンをいただく。コレがうまい。硬めでコシがあるタイプの濃厚プリンだ。
しかし何より、舌にへばりついた刺激物を取り去るのに活躍してくれたこれは救いの神だと思う。

最後はミルクティーで締め。


プリンの写真がないのは、もちろん、そんなもの撮ってる余裕がなかったから。つまり、最後の写真撮る余裕はプリンが作ってくれたもの、だとも言える。

しかしね、本当に辛かった。聞かなきゃいいのについ聞いちゃった。ブータン人は本当にこんな辛いものを毎日食べているのか、と。
「えー、そうですよ。このエマダツィは現地の味を忠実に再現しました。実はほかの料理もホゲ以外はだいたいこのエマダツィと同じくらいの辛さですよ。店では日本向けに抑えてますけどね」

ガガーン!!現地では、最初っから最後まであの辛さ…

世界最強はマンモスでもはじめ人間でもねえ!ブータン人だ!!

戻る