食べバカ辺境シリーズは、ついにアフリカ大陸に上陸。
今回は中野区、中野駅から歩いて5分のチュニジア料理店「カルタゴ」にお邪魔した。
厳密には、アラブ料理、チュニジア料理、トルコ料理の店らしい。
いいや、俺たちは特に北アフリカ料理を求めてこの店に来たのだ。
なるべくチュニジアっぽいものを食べようじゃないか、と誓い合いながらも、しかし、メニューをめくる俺たちの手つきは覚束ない・・・
じゃあ、どうやって判断しろと言うのだ?その、チュニジアっぽさってヤツを!?
「ここは一つ、任せてみねえか、神の思し召しってヤツに、よ」
ブルースがニヤリ、と口の端を上げた。久しぶりだな、コイツのこの不敵な笑み。
「つまり、“シェフの気まぐれメニュー”ってやつか?それならそれで任せちまったほうが安心かも知れんな・・・」
実際、シェフと言う人種ほど気まぐれな連中はいるまい。どこに行こうとメニューには必ずシェフの気まぐれ云々・・・・・・
「違ァあう!正真正銘の神の思し召しだ!」
『インシャッラーコース ご予算ご希望に合わせてシェフがコースを組み立てます。本格的な料理を食べたい方はこちらをどうぞ。お一人3500円〜』
こ、これだッ!!
「まさに・・・思し飯ってヤツだな」
もちろん頼んださ。“特にチュニジアっぽいものを”って付け加えてな。
まずはパンです、パン。
チュニジアではバターのように、オリーブオイルを浸して食べるのが一般的、だとか。
この辺は、対岸の南欧風と似てますが、パンがピタやナンと普通のパンの間くらいのふっくら加減で油と相性がいい。
そして、この、オイルの中にあるのは、唐辛子ペースト。パンで掬うときに好みに合わせて自分で調節します。とのこと。
でも、辛味に旨味がしみこんで、たしかに旨い。辛いのが苦手なブルースも調整しながら美味しくいただいております。
パンの次はサラダ。三色サラダ。
右上は生野菜、左側は焼野菜、右下はなんとタコのピリ辛サラダとのこと。
生野菜は、きゅうり、トマト、タマネギなどをツナっぽい魚の身と合わせてオリーブオイルとレモンで味付けしたもの・・・と、
「しょっぱ!わ、アンチョビがフィレで入ってるぞ」
そんな馬鹿な・・・・・・「わ、しょっぱ」コッチにもあった!
写真だと、ゆで卵の上にかかっているのが、それ。パンが余っててよかった。パンと食べて、丁度いい。
それにしても、イタリアというか、南欧料理っぽい。
焼野菜は、すでにサラダと言うよりペーストに近い。
ナスとか、その辺りの野菜だと思うけど、煮崩れるまで火が入っていて、野菜の甘味がすごくよく出てる。
トルコ料理とかでこういうのよく食べた気がする。
タコは、日本人とギリシャ人しか食べないもんだと思った。
このプレート一つで“地中海”をダイレクトに表されてるとすら思える。
思えば、当たり前の話だがチュニジアは地中海沿岸の国家。
いや、北アフリカは全部地中海の南岸を形作っているのだ。
地中海的で当たり前。むしろ、北アフリカこそが地中海文化の元祖と言えるはずだ。
2500年前のチュニジア、海洋国家カルタゴは地中海に覇を誇っていた。
ローマ帝国すらもが新参の発展途上国であったときに、地中海沿岸の都市国家郡に経済、文化の影響を与え続けていたのがこのカルタゴだ。
つまり、チュニジア料理とは、まさに地中海文化の雛形であるカルタゴの味なのか?
とかなんとか、太古のロマンに胃袋を掻き立てられている間に、でっかい揚げハルマキみたいのが運ばれてきたぞ。
「たまご、半熟にしてありますよ」とのことだが、
これ、オムレツなのか?いや、表面はどう見ても薄焼きの小麦粉だよなあ。
さっくり切ってわかりました。中は半熟たまごです。
しかも、玉子焼きじゃなくて目玉焼き状になっているので、トロッと垂れた半熟たまごの黄色いところは濃厚に黄身のまんまですよ。
さくさく、パリパリ過ぎる皮。トロッとした半熟たまご、他の具はツナとか野菜とか。旨い。
凄い。俺、こういうの初めて食べた。しっかり味わって食べた。
すごく洗練された上品な味。上品だけど、濃厚で面白くて、一分の隙も無い、本当に素敵な料理。
久しぶりに、その技巧に感動した。
ここまで、素朴だけどとても洗練された料理の数々に、歴史の重み、文化の極みを味わったのだが、
来た。
肉の塊だ。
来た来た。
肉だ!骨付きの塊肉が来たよ。
羊肉の足なんだろうけど、トロットロに煮込まれていて、とっても骨離れがいい。煮汁もトマトと羊肉とタマネギの旨味が出ていて、とろけるような旨さだ。
青唐辛子も入っているが、それほど辛くなくなっている。煮汁に絡みも旨味も溶け出しているからだ。
骨で肉でトマトでタマネギだ。おまけに豆だ。ヒヨコマメだ。
どうしたって旨いに決まっているだろう!
それを、気まぐれな技巧派シェフが、神の思し召しを煮出した料理だ。
ええい、問答無用。
しかし、それでもお姉さんは持ってくる時に言ったのだった。
「メインディッシュの1つ目です」と。
これが、メイン。ファイナルディッシュだ。
最後はやっぱりクスクスか。そうですよね、もちろん。北アフリカと言えばクスクスですよね。
セモリナ小麦粉を粒状に固めて蒸したものなんだから、パスタと言えばパスタなんだろうけど、食べてる感覚から言えば米とかの粒食穀物のような感覚。
その上に、豆、イモ、ニンジン、ソーセージがごろんごろんですよ。
赤い、トマトベースのソースをかけて食べるそうです。
いろんな野菜の旨味が溶け出した汁を飯にぶっ掛けて喰え、とそういうことですよ。
最初から味付けはしてあるけれど、クスクスはどんどん汁を吸ってしまうので、お好みによって掛けて下さい、とのことでしたが。
ぶっ掛けまくりました。ガツガツ食べました。
もうこれこそ説明不要ですよ。食べてみてください。
ボリューム感、満足感が最後に締めてくれた。
これ、チュニジアの常食なんだろうと思う。毎日でも飽きなそうなおいしさだもの。
今回、このコースにして大成功。繊細な料理を楽しんだ後に「肉!」そして、炭水化物で腹いっぱいだからな。
こういう食べ方を心にくく演出してくれたシェフ・・・いやさ、アラーに感謝。
「アフリカ」ってところに独特の印象あったけど、北アフリカは要するにアラブ文化圏で尚且つ地中海沿岸。地理的にも文化的にも、前回のギリシャ料理の“裏返し”な感じがした。
でも、それだけじゃなくて来たアフリカの郷土の味クスクスがそれを締めてくれたよ。
チュニジアに感謝。
そして、最後の締めの更に締めは名物、ミントティーで・・・・
うわッッ!
甘ッッ!!!
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