台湾高速鉄道…通称台湾新幹線。
未だ開通せず!!

2007年台湾旅行は挫折により始まったのであった。
いつもの肉弾頭、ブルースに親分、すの字を加えて始まった2007台北行。
「できたての新幹線に乗りたい!!」親分の夢が周囲の熱気を巻き込み、大きな潮流が時代の風を生み出していた、その、ダイナミズム。
当時掲示板を見ていた皆さんはリアルタイムで楽しんで頂いていたと思う。
何度もの計画延長。不備発見。国際情勢まで巻き込んだ巨大な陰謀に翻弄された、度重なる新幹線開通の遅れに、我々の旅行計画も何度も順延の憂き目を見た。
それが!ついに!…ついに新幹線開通の報に勇んで渡台した我々を待っていたものは、無情にも、閉じられたままの新幹線改札…直前の開通順延であった。

それはそれとして、しかし我々の台北といえばもちろん食べまくりがメインである。そして、初回から欠かさないモノと言えば、それは、魂の故郷、聖地巡礼、雲南人和園である。
「満席です。予約ありますか?」
「………ありま…せん…」

無情!そして無常!
失ったものは夢?それともやすらぎ?
いいや、何も失ったわけではない。ただ、得られなかったというだけだ。
過去と未来を取り落としたくらいで現在を見失ってはいけない。それでも、俺たちはこの台北に立っている、この事実を忘れてはいけない。
まだまだ知らぬご馳走わんさかの食都に今いるという幸福を忘れてはならない。

…と、いうわけで、大きなテーマが無いなりに楽しかった2007台北食べバカのうち、特に記憶に残ったエピソードをいくつか紹介しておこう。


まず、北京ダックと云えば台北である。
いや、待て、突っ込むな。まだここは突っ込みどころではない。北京ダックの本場が北京だってことくらい、いくら俺でも知っている。
ただ、俺たちにとっては台北なのだ。台北の北京料理屋でなんども北京ダックを食べ損ねていたからこそ心に残るものなのだ。
閉店時間に締め切られ、食べられなかった記憶が、その悔しさが駆り立てる。
食べなければ、先に進めない。
だから、今食べる。
開店直後の人のいない店に入店。一度は早すぎて入れなかったぐらいの勢いで店に殺到。同じミスは繰り返さない!

さて、メニューによると、
1品…800元
2品…1000元
3品…1200元
如何なる意味か?いや、判らなければ頼んでみるべし。
当然、オーダーは「3品もので!!」
しかし、北京ダックには注文から3〜40分時間をかけるとのこと。そりゃそうだ。じっくり炙ったダックを、俺たちだって食べまくりたい。
待つ間にと、他のメニューに目を移す俺たち。
まさかあんなことになるとは思っていなかったから…



おおっ!これだ、パリパリの皮を餅皮でくるんで甜麺醤で食べるアヒルのこってりした脂身最高!
ブリブリした黄色いほどに濃厚な脂の旨みが、ザクッとした皮の芳ばしさとあいまって、いくら噛んでも飽きが来ねえ。
「ところでさあ、皮取った後のダックってどうするか知ってる?棒々鶏にするんだぜ」
とか、まかないにして店のみんなで喰っちまうんだぜ。とか、
皮で有名な北京ダックの皮以外の用法については、いつもいつも適当なことを言っていた俺ですが…
今、正体がわかりました。



2品目です。さっきの「3品」のうちの2品目が、コレ。
なるほど、身も同じようにして食べるんだ。そりゃそうだ。
まぁ、皮であれだけ楽しませてもらったんだ。身は多少ぱさついてるだろうが、今度は赤身のコクを楽しませてもらうことにして、よしとするか。
ところがぎっちょん。
「こ、濃いよ〜。脂濃いよ〜」
もう全く、皮にも遜色しないほどの脂のコク。さくさくぱりぱり感は無い代わりに、肉質の旨みは当然あるしね。これはこれで、やっぱり旨い。日本の中華屋でも身を出せばいいのに。
(とはいえ、俺は日本でもそれほど北京ダックなぞ喰っていないので、「出してる店、あるよ」とか知ってる人は教えてください)
しかしあれだね。なんで葱とか付け合せて甜麺醤つけて餅でくるむか判った気がするよ。
濃すぎるんだ!そんまま喰うと。
肉のほうは最初まんま食べてたけど、やっぱりみんなくるみ始めた。
困ったことは、それでは足りないということ。たちまち使い果たした餅に巻き込めない肉をそのままつつくと、これはそろそろ脂がきつい。
そこへ、3品目の登場です。



スープだあ!
ここでさっぱり締めさせる、流石のコンビネーションだぜ。

…もう分かるよね?
このスープが一番脂っこかった。なんという破壊力。アヒルって奴ァよ…要するに、骨の髄までアヒルだってこったなあ。
だけどね、この、スープに入っている野菜が実はおつけもの。
かなり酸っぱくて、歯ごたえがゴリゴリしてて、これがかなり脂っこさの中和になっている。
旨い。これならいくらでも入るぞ。
「入らねえよ」「さすがにもう濃いよ、コレ」
むう、そう言えばそうか?ダックの前にも炒飯とかいろいろ喰ったものな。
器の下のほうに多少の心残りを残しつつも、まぁこれで離脱。
今まで北京にも行かず、行く気も無いのに、ここ台北を指して「いつかはダック。ダック、ダダックだ北京ダック!!」と呼ばわっていたブルースはさて、満足できたのかな?
「もう北京ダックはコリゴリだよ〜〜〜」
         ニン、ニン、


いや、ここで勘違いしないでいただきたいのは、北京ダックが悪いというわけではなく、むしろ食べ方に問題があったということ。
(むしろうまいよ、ダック。俺はスープの濃さにむしろ感動したもの)
午前中だから酒は飲まず、そして腹を満たす飯は先に喰ってしまったから、この濃いい料理を単独で食べ進んでしまったがゆえの脂あたり。
やっぱね、さっくりの皮だけをお上品に食べるだけの印象だもんね、北京ダックって。
では、濃いものをおいしくいただくには?
この日の夜に入った店で俺たちは模範解答を手にしている。それを紹介しよう。




牡蠣の鍋。味が濃厚で旨いよね、牡蠣って。さらに火を通すとコクが増すんだ。
そして、その下に敷き詰められているのは、なんとあげパン。
歯ごたえが売りのあげパンを濡らしてどうするのですか。って?
ところが、それがいいんだよ!
味噌汁に入っているお麩と一緒だよ。吸った汁と揚げ油が交じり合ってコクを増し、さらには小麦の持つ、穀物だけに許された「主食力」がこの濃すぎる旨みを包み込んで、飽きさせずに最後まで食べさせてくれるんだ!!
これ、ホント旨かった。地味だがセメントの実力はぴか一のいぶし銀レスラーを思わせるおいしさだよ。あまりに当たり前においしいので、料理名忘れちゃった。次に機会があれば是非また食べたい味だよ。



説明不要。
肉だよ!肉!!
豚ロースをとろとろに醤油で煮込んだ、脂だかゼラチンだかとにかく滴る、トロっトロの、肉だよ、肉!!
「うわーうめえ!」「うへーでも濃い!」「うひゃーアレと喰いたい、アレと」「あ、アレだよな、当然アレ!」
すいません、アレ、追加!!







肉と米! もはや完全に説明不要!!






結局、俺もブルースも旧食べバカのころから何も変わっていないのかもしれないなあ。結論は、米!だもの。

まぁ、そんなこんなで、もう一つ、意外な出会いの思いでを紹介しようか。

舞台はココだ。



ココってどこだ?だと?
決まっておろう。魯肉飯と言えばココ、丸林魯肉飯。詳しくは『常食の旅外伝 俺の魯肉飯』を参照願いたい。
親分やすの字にも魯肉飯の魅力を知ってもらおうと、ここまで来たのだ。
というか、いろんなオカズが選べて、昼食を楽しむには最適な店なのよ、ここ。
ま、こんな風にいろいろ選んで取ってもらう。


で、いろいろカウンター内のオカズ、現物指差しながら選んでいたら、壁に張り紙が。
『仏跳牆 200元』
へ〜、フォーティオチャンかあ…
えっ!?
仏跳牆?

かつて、「美味しんぼ」の山岡士郎は言った。「究極のメニューの一つ、仏跳牆!」
仏跳牆とは、 高級海産乾物類、鶏や中国ハムなどの肉類、漢方食材や野菜を壷に詰めて壷ごとむす超高級中華料理である、と。
見間違いだよな…200元つーたら800円弱。千円しないだと?
指は意志を離れ、自動的に指していた。
「これ」
店のおばちゃんは目の前で手を振る。そうか、やっぱりそんなもの無いか。俺は今幻を相手にしている。

しかし、やはり魯肉飯はうまい。他のオカズも、当たり前のように旨い。そんな幸せを、俺は見たこともない壷スープのために否定したりはしない。

だが、




来たッッッ!!
この濃厚な匂い!きっと、きッッッとこれが!!

どうやらおばちゃんのゼスチャーは「時間掛かるから席で待て」だったようだ。
緋骨肉と干しナマコのトロミがすごい。クコや龍眼のエキスも染み出ていて体にも良さそうだ。
とにかくドロッドロで濃厚で、少ししつこくて…
「今一キレがねえな」ブルースの辛辣な一言を合図に、
「だよな、あまりにも安すぎる」
「本物とは入っている材料違うんじゃねーの?」
いや、まあ、解っちゃいたけどおたくら言い過ぎじゃねーの?
確かに安そうでごった煮っぽいけど、でも旨みが濃厚で滋味あふれることはホントなんだから。
どうやら、俺が比較的“濃すぎる”料理の耐性が強いことが判った。
いつも言っているだろう。
映画も料理も、やりすぎくらいで丁度いい、と。

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