今度は金沢だ!

と、言えば、作為を感じられてしまうだろうか?
そうだよね。秋田でバカみたいに食べまくったあと、新潟で、次に石川県だ、なんて言ったら、日本海側を順繰りに南下するのが目的なんか?とか言われそうですよ。
ちなみに、今、南下となんかを掛けてますけどね。
おまけに今回、富山県氷見市でもちょっと喰ってますからね。
山形だけとばして、やっぱり日本海岸南下なんか?とか言われそうですね。

まあ、今回はね、久しぶりに杉並のリクエストなんですわ。
秋田から帰ってきた辺りで、杉並から北陸行きたいねえ、との掲示板への書き込み。杉並は今年の花見まで2年ほど食べまくり不参加。つーことで、折角だから杉並の希望に合わせるか、と金沢行きを検討するが、杉並の予定がなかなか合わないうちに、先に恒例の新潟旅行に行ってしまえ、というのが前回のイタリアンの巻である。
さて、そんなこんなで杉並を擁した4人の金沢旅行。最初の目的地は氷見市であった。
氷見ィ?
富山じゃねえか…
いやね、寸前で杉並が氷見うどんっての喰ってみたいって言い出すのよ。石川県じゃないけど、かろうじて能登半島だけどさ。関東からなら通り道だけどさ。
けどさ、氷見うどんって手延べうどんらしいじゃない?手延べ。手延べといえば、日本最高の手延べと云われる稲庭喰っちまったよ。つい最近な。
だから、そんなもの単独で北陸まで喰いに行くと言われたら面倒臭がっただろう。
だけど、通り道だし、朝早くからやっている店も見つけたし、じゃあ、いいか。たまには付き合ってやるか…的な気持ちで俺たちはまず氷見に向かった。


ここんとこ、恒例になっている前日零時集合。深夜高速割引。明けて、ここは氷見。


目的地は道の駅と併設されているお魚センター内の食堂である。
朝八時開店。
せっかく深夜に出ても、朝飯でご当地食を食う店が見つからずに、一食無駄にする旅を続けてしまった俺たちには、この氷見うどんは確かにおまけ的要素が高い。普通の飯だとしても元々。旨けりゃ儲けモンだといまの俺たちには思えるのだ。思えて仕方がないのだ。
…それでも、早くついちゃったけどね。



早速、旅の醍醐味!
こういう看板たまらない。
それから、ひみぼうず。



「へ〜なんか、味があるね。コイツ。じつに藤子的。それも、このチープさはAだな、A」

足元の碑文見てびっくり。
ホントに藤子A作だよォォォ!!!

「そういえば…」とまんが道fanのブルース氏が講釈をたれる。
「この街は満賀道雄の生まれ故郷!」
えええ〜?
思わぬところで思わぬ遭遇。どちらかといえば、俺はもちろんF派なのだが、それでも猿とか魔太郎とか、もちろんAとて無視して通れる世代ではない。
道の駅内部にも、藤子のイベントのポスターとか貼ってある。

親分が海っぺりのベンチで惰眠をむさぼっている間に、俺たち三人はこうして有意義に旅を楽しんだりしたものだ。



開店。
さて、俺はザル。ブルースはぶっかけ。杉並はかけ。そして親分は?
「じゃあ、これでいいよ。このきときと定食」
てて、定食?親分、一応俺たちここにはうどん喰いに来たんだけど…
「ああ?…いいんだよ、別に。旨けりゃなんでもいいんだよ」
それは、正論中の正論。そして、俺たちにとってはまごうかたなき正義。そりゃね、ここは漁港だよ。お魚喰ったら旨いって、子供でも知ってるよ。でもね…

あ、来ちゃった。











ギャー!!親分の勝ち。旨そうだ、くそッ旨そうだ。

ちなみに、きときととは「新鮮」って意味らしいよ。
うどんはつるっとした食感。のど越し柔らかいこの感じは、確かに稲庭うどんと同系の手延べうどんの味わいだ。
つゆも、芳醇でコクがある。稲庭うどんの時もつゆに独特のコクを感じ、秋田なので、ハタハタを原料とした魚醤「しょっつる」を使っているからだろうなと予想したのだが、ここ富山であればそれはいしるのせいだろうか?
「いしる」はイカから作った魚醤。このセンターないでも売っているし、つゆにいしるを使っているのは間違いないだろう。
思ったよりもしょっぱくない。もっととげとげしい味を予想していたのだが、なかなかどうしてしょっつるにも負けないコクと味わいである。むしろ、いしるのほうが塩味が柔らかいよ。
手延べを魚醤で食べさせる、この氷見うどん。確かに旨い。旨いが、同系でもっと鮮烈な旨さの稲庭うどんをもう食べちゃったからなあ。較べちゃうとどうしてもこれは分が悪い。


ぶっかけのブルース氏も同じような感想。
しかしその横で、
「うわ…旨ッ!」
温かいうどんを頼んだ杉並は驚きの声を上げている。
だよなあ。稲庭うどん食べてなけりゃあ、これでも十分びっくりだよねえ…
いや、まて。待て、待て。この汁の匂いはなんだ。この、馥郁と匂い立つ、この汁は?

「ちょ、ちょちょっと汁、味見させて」
ふんわあ、これは旨い。この温かいうどん、出汁といしるの無理なき融合。暖かいが故の芳醇な香り。…これは旨い!
もうね、うどんは食感が第一と冷たいうどんにこだわり続けてきたけれど、この氷見うどんはまず、このかけの出汁がいいね。攻撃的な刺激が何もない、本当に“豊か”って感じのするスープ。

みたいな小難しいことを考えている俺たちの目の前で、親分大喜びできときと定食を平らげてゆく。
ああ、くそッ!理屈ぬきで絶対にそっちのが旨えんだろ、解ってるよ!!

氷見うどんは麺より汁。そして、漁港では魚、北陸では米を喰ったら勝ち!という教訓を得て、俺たちは富山を後にした。



これより金沢。
加賀百万石の底力を見せ付けられた。
やたら博物館が多くて博物館好きの俺たちが楽しめたのだが、全然期待してない公民館の中の小さな博物館(「館」というより「フロア」か「コーナー」程度)で本物の鎧を着られたり。…でも、代表して装着した俺のサイズに合わなかったり、めちゃめちゃ期待して行った「一向一揆資料館」がわりと平凡だったり。その資料館に行く日の前日に、その近辺でベンツと鎌で村祭りに乱入した殺人事件があったり…

そして、肝心の飯だが、

すまん。旨すぎた。

とにかく海鮮が旨い何でも旨いとにかく旨い。そして、旨いのが当たり前になったのだ。

初日昼飯が回転鮨だったのだが、関東の回らない鮨の何倍も旨いしな。


てなわけで、喰いものを紹介しても、ただ旨い、旨いで終わってしまう。特に印象に残った数点を説明して、この加賀百万石編としたい。
魚、海鮮、日本食が好きな人はとにかく普通に金沢に行け、と言っておきたい。




まずはコレ。

能登のモズクは一味違う。モズクと言えば沖縄産が有名で、アレは寒天質のような歯ごたえが特徴的である。一般なモズクの印象とはそういうものだと思われるが、能登のモズクは一味違う。
噛み応えがある。繊維質のようなしゃきしゃき感がある。俺はそれが大好きなのだが、これはしかし好みがあるようだな。今、能登の漁村に俺の叔父さんが住んでいるので、俺はこれを喰う機会が多いのだが、好きな人間は、これは病み付きになるぞ。
ちなみに写真は、能登モズクのシャープさを表現するためにあえてスピード感のある写りにしてみた。




これ、判るかな?白えびの掻き揚げである。
白えびは富山湾の特産。大いなる甘えび文化圏の北陸の只中で、白えびをもって富山は自らのアイデンティティを謳い上げるのである。
この日、甘エビは回転鮨とか刺身とかでたっぷり喰らっているので、隣県の飯屋まで遠征してきた白えびはあえて掻き揚げでいただこうという策なのだ。
うん、えびはカラッとしている上にプリッとしている。野菜も旨い。なすとかかぼちゃなどの夏野菜を、さっくりなおかつほっこりと仕上げていて、旨い。
えびのかき揚げなんだから、野菜は引き立て役に回ればいいんだと、普通なら思うところだが、これだけ野菜の旨さがわかる作りにしても、ちっともえびは負けていない。だから野菜も遠慮なく旨くなればいいよ。

それにつけても、まず第一にこの店のてんぷらが旨いのだ。材料もとにかくいいが、この店の料理は本当に上手いなあ。旨い上に上手いのだ。





これ知ってるかい?
治部煮って言うんだぜ。話には聞いてるけど、俺は見るのも食べるのも初めて。
加賀の、所謂名物料理だ。いかにもな、郷土料理だ。うどんとか焼きそばなんていう日常食じゃあねえ、これが…
これがしかし、旨いのだ。

鴨肉だ。衣がついて、鴨の脂とトロッと煮汁に溶け出して、この煮汁が甘辛い醤油で、しかし、鴨の脂がこれに負けていなくて、この甘いタレがお麩に染み込んで、そのお麩が、鴨と煮汁とお麩の旨さががぶりと噛むと口中にじわあっ、と…筍の食感がアクセントで、もちろんこの旨みの総元締めの鴨そのものの噛み応えと溢れ出す肉汁と言ったら、もう…

あー!旨え!

名物に旨いもの有りだ。金沢に行ったら、迷うことなく治部煮喰え。ここだけは、奇を衒う必要なし。



最後に魚ですよ。
超高級魚のど黒。
日本海最高の魚と言う人もいるという、あののど黒さまです。
この日、お店のお勧めだと言うので頼みました。
帰ってきてからネットで調べて、のど黒の値段知ってビックらしました。
え!?俺らそんなに大金使ってないよォ?

やっぱり、現地で喰ったこと、お勧めだったところ見ると、大漁だったのかな?ということでリーズナブルにいただけたわけですかね?

脂が乗って、しかしさっぱりしてて、とにかく旨いわ。
魚が旨くて当たり前になりつつあった俺たちが、「何でこの魚こんなに旨いのよ!?」と驚くほどの旨さ。

その上、焼き加減がサイコー。
ああ、食べかけのところも撮っておけばよかったよ。
芯の、骨の周り。なんと微妙に半生。
魚はちょっと火が通り過ぎると、途端にパサついたりするわけだが、この、絶妙の火加減がこの高級魚の身の旨みを、その肉汁を、一滴たりとて無駄にしない最高のパフォーマンスを実行しているぞ。
サイコーの魚をサイコーの腕で食せた、この幸運に感謝しなければならない。

やはり、百万石の実力はすさまじい。加賀前田家は外様大名としては最高の財力を抱えたまま徳川家康に警戒されたので、軍事に力を入れていないという証明の意味で文化事業に力を入れたのだという。
ならばこの食文化、利家の腰抜けが生み出したと言うのなら、腰抜け上等。腰抜け最高。
俺は加賀百万石の偉大なる食文化と、日本海の魚の融合に深い感謝の念を禁じえない。

ありがとうございました。

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