今、川越が大変なことに!
やきそばが太いと言うのだ。


横浜、ヨルダン、長野など、数多くの故郷を持つ男、ブルース。
そんな彼にとっても、一番はやはり川越であると言う。
小江戸川越。歴史的に見れば徳川幕府の出城である。幕府の要職や将軍家の縁続きが藩主を勤めたことから、また、戊辰戦争で官軍に抵抗して敗れている歴史からも、それが窺える。
その、静に歴史を流す街川越に、今、巨大なムーヴメントが巻き起ころうとしている、とそう言われているのだ。
それが、太麺やきそば。

とか、そこまで大げさな話でもなく、いつもどおりのブルースの「おら、ちょっと俺の地元行くか?なんか面白いもんあるらしいぜ」につられて、今日も2人旅。



一店目。「やきそばのみどりや」
なんと、ブルースなじみの店である。部活帰りなどに小腹を満たす、よくある近所の思い出の店、の類だそうだが、そんな店が、「今、川越の太麺やきそばがアツい」的に紹介された中に入っていることが、ブルースの食的好奇心をそそったのだ。


ちなみに店構えはこう。

同じ様な馴染みの店を心に持つ人なら察しは付くだろうが、ここ、要するに駄菓子屋である。駄菓子屋の奥にやきそばとかお好みとか……解るだろう?

ちなみに、この日俺は致命的なミス。デジカメを忘れた。
なので、写真は携帯電話で撮ってみた。
お見苦しいところはご容赦願いたいが、この日は昼のうちに撮るべき物は撮れてしまったのでまあ、最低限のところはなんとかなったと思う。
次はこうは行くまいから、強い反省を持ってこの事件を記憶することとしたい。



これが件のやきそば。具は無い。
そういえば、「具の無いやきそば」というやつを随分と食ったけど、それでもキャベツの無いやきそばというものはお目にかからない。
やきそばにとって、キャベツとは具以前の存在なのだろうか?今後やきそばを研究するに当たって、キャベツの位置づけなども調べていく必要があるのかもしれないなあ。
いや、もちろん、この皿を生で目にしている俺にそんなことを考える余裕は無かったよ。
頭を占めるワードは唯一つ。
太い…太い…ふふ、太い!!
本当に太かったのだ。



この様に箸でつまんだ処ならば、写真でもその太さが実感してもらえると思う。
なにこれ、焼きうどん?
いいや、違う。確かにかん水で打った中華麺独特の固い麺。それがこんなに太い。
甘みが強く、濃い目の味だが、麺が太いので全然しつこくない。ボリューム感があって、なんというか実に「喰っている」感が強い。
「どうかね、旨いかね」
いつもは人の評価などどうでもいいと思っているブルースだが、今回に限り自分の舌の絶対評価を信用していない。
このやきそばはヤツには思い出の味。ノスタルジー割り増しで旨いのは当たり前だからだ。

心配するな、ブルース。間違いなく、旨い。
それも上品にではない。ガツガツと、旨い!



返す刀で、2店目。小峰商店。
もう解っていると思うが、この店も駄菓子屋。
というか、ちょっと雑貨屋っぽい。
店内の張り紙も、画用紙に手書き。田舎っぽい。たまらん。これだけで味に加点されそうだ。
いかん、いかん。



さっきの店より、麺短め。トロみ強し。
カウンター奥を覗き込んで合点。このやきそばは中華鍋で炒めておる。
やきそば店独特の鉄板常備店ではないのだ。逆にこれはやきそば店としては個性か?
しかし、それにしても……


太い!さっきよりもさらに太い。
さっき焼きうどんか?とか言っちゃったけど、いや、今度こそ言っていいよね?
焼きうどんか、コレ!
……やきそばだった。
やっぱり、食べれば解るわ。どんなに太くても、それでもこれはやきそばです。
やっぱり甘辛いんだけどね。麺が太いから全然困らない。
ただ、やっぱり鉄板じゃないから“炒め”感が強いわ。ソースが麺に染みた感じじゃなく、絡めてる感じ。
「ソースやきそば」としてはみどりやのほうがそれっぽいかな。
こちらの方はもう少し中華料理っぽい。




そして、このあと更に「なんでお前カメラ忘れたの!!」とブルースになじられる事件発生。
ブルース手引きで川越を往くときは必ず腹ごなしに立ち寄るのが「川越歴史博物館」
美術品扱いの未使用刀など置いていない!がキャッチフレーズの、超武闘派博物館なのだが、今回行ってみたらいつの間にやら「写真撮影OK」の博物館になっていた。
ああ!なんたること!
おまけに、なんと俺らは本物を……おっと、これ以上は法に触れるのでオフレコだ。
なんにしても、カメラ持って行けばよかったのにーーー
まあ、次回があるか。



そして、最後は連馨寺境内の屋台である。
寺の中の屋台が、この川越太麺やきそばムーヴメントの中心にあるのだという。
いかにも、小江戸川越らしい。

しかし、この日屋台なし。
テントの下に畳まれた財具が俺たちを迎える。
な、何ー!コレが落ちなのか?


「大丈夫だ。屋台出してる本店が、参道のすぐ外にあるらしいからな」
先にそれを言え!

とはいえ、ここのところやきそば外してる俺たちだ。何とかなるのか?



不安は無用であった。歩いて1分のところに店はあった。

外の鉄板でそば焼いているが、中でも喰えるし、当然お持ち帰りもできる。

じっくり座ってメニューをみると、そこはそれ、駄菓子屋ではなく、一応専門のやきそば屋ですからね。
いくつかのメニューはあるみたい。
しかし、何故かカレーライス。
カレーとやきそばのコンボとか。
つーか、「ナポリタンやきそば」ってナニ?これってイタリアン
謎は謎を呼ぶが、まずはオーソドックスを喰いたいじゃないか。

注文をすると、外の鉄板で兄さんがやきそばを作り始める。
ガラス越しでよく見える手際。
炒めてるところを見ても、やはり太い。
最初に麺を蒸し焼きにする汁を鍋から取るところがミソ。これが、挽肉からとったスープだという。
うーん、肉っぽい。
さて、出来上がってきてみると、


いままでで一番太い。
今日は、喰う度に面が太くなるぞ。太くなる呪いでもかかっているのか?
俺たちのお腹まで太くなってしまうじゃないか。

歯応え、味の濃さ、キレ、麺のコク、満腹感。太麺やきそばはここに完成したよ。
確かに肉の出汁が麺に染み込んでいて、こんなに太いのに食感に飽きが来ない。最初からおいしい。最後までおいしい。
正直、日本三大やきそばにこいつは入っていていい。本当に旨いやきそばだ。

「だが、太すぎる」とブルースは言う。「確かに旨いが、これが本当に正統派のやきそばの範疇に入れてよいものか……結論が出るにはまだ時間がかかるだろう」
ならば正統派でなくていい。邪道なら邪道の誇りがある。
川越やきそばよ、格式でなくその実力でやきそば界に旋風を巻き起こしてやれ!!

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