西池袋辺りで、気になるが食べていない店がいくつかある。
今回はそのうちの一つ「マレーチャン」にお邪魔した。
名前の通り、そのまんまマレーシア料理。五卓くらいでいっぱいの小規模な店だが、落ち着いていて、くつろげるムードの良い店だ。
そして、注文を決めている間に“はた!”と気づいたことがある。
俺、マレーシア料理って食べバカに書いたことないじゃん!!
そういえば、今までマレー料理喰って旨いと思わなかったことが、ない。まずいマレー料理喰ったことないよ。
じゃあ、ウマイはウマイが平凡で殊更に紹介しようと思わないタイプの料理だったかと言うと、とんでもない。
迫力のある濃いい旨味が特徴の、実に俺達好みの料理だったはずだ。
大久保のエスニック料理屋台村とかで喰って、その後も大久保でマレー料理店はいくつか入った。
どこも旨かった。そして……
そして、そう、俺達はそれが当たり前だと思うようになったんだ!!
最初のきっかけを失うと、ずるずると流れてしまうものだなァ、人間。
と、言うわけで紹介するのは西池袋のマレー料理「マレーチャン」
しかし、今まで俺達を楽しませてくれた数々のマレー料理店の代表として紹介するのだということを忘れないでくれ。
さて、3月下旬。毎年恒例の花見であった。が、参加者は4人。人数の割りには、気持ちよく盛り上がれた。解散後も、心にさわやかな風の残滓を感じ、俺とブルースで花見会場である池袋近辺で軽く食べまくって行こうということになった。
じゃあ、いつも気負っているときは入らないが気になってはいた店「マレーチャン」が丁度良いのではないか?
異論はなかった。
いつもは散々迷い、失い、彷徨い、見つけ、また失っては彷徨ったりもするが、しかし、そればかりではないのだ。
往々にして、決まるときはあっさり決まるのだ。
そして、そういうところの飯は旨いのだ。
と、いうより、旨いことが判っているから迷わずに入れるのだ。
いつも言っている「妥協を赦さず、探し続けた末に見つけたから旨い」と矛盾しているって?
矛盾などない。逆だからこそ真なのだ。
さて、まずはマレー料理を代表する盛り合わせを用意してくれたこの店のおもてなしに応え、一皿でマレーっぽさを感じてもらおう。
これだ。
まず、憶えてもらおう。この、下側の串に刺さったヤツ。これ、焼き鳥のカレーソースがけ。
サテーだ。
サテー。憶えた?
何故これだけ特に贔屓するかというと、俺の大好物だからだ。これ喰わないとマレー料理喰った気がしない。それくらいの大好物だ。
マイルドなスパイスで下味つけた焼き鳥に、ピーナッツの歯応えと甘みたっぷりのカレーソースをたっぷり施した、これが実に旨い。マレー料理喰ったら、注文必須。自信を持ってお勧めする。
あと、スパイスに漬けたピクルスとか、普通に上げ餃子だと思ったら中はマッシュした芋だったりとか、とにかく忙しい。中華、インド、マレー人がミックスしている多民族国家マレーシアでは、すでに料理の出自を求めることすら難しいのだ。
で、パリパリのエビ煎餅とかモチモチの生ハルマキとかはいいが、この、奥の葉っぱに包まれたのは、なんだ?俺、これは初見。
「ど、どーしよう、ブルース〜〜。俺、こんなの喰ったことないYO〜!!」
「うるせえ、それぐらいのことでオタオタするんじゃねえ!!」
はい、そうです。「オタオタ」この料理の名前です。
魚のすり身にスパイスを練りこんで、バナナの葉(かな?)で包んで蒸し焼きかなんかにしたっぽい料理。
まぁ、早い話が練り物なんだが、ほくほくしている。
全体に油が多いマレー料理にあってはさっぱりしている方だが、それでも、スパイスで引き出された魚の味はしっかりしていて印象の強い料理だ。
ここで、青菜炒めでも喰って箸休めと行きたいところだが、やっぱり小エビの脂で炒めてあって、しつこいほどに旨味が強い。
というか、これ、中華料理じぇねーの?
うん、やっぱり、いつも中華料理屋で喰うあの味だ。
前述の通り、マレーシアは他民族。実はさっきから“マレー料理”“マレーシア料理”と適当に混在させているが、この名前には違いがあるとのこと。
マレーシアにあるマレー料理、インド料理、中華料理を総称してマレーシア料理と呼ぶ。
おまけに、マレー文化はインドネシアと同系のため、インドネシア料理とマレー料理は共通部分が多い。実に判りにくい。
ミーゴレン、ナシゴレンはインドネシアを代表する焼そば、焼き飯なわけだが、マレーシア料理店でも同じ料理が出る。俺は、それがマレー料理だと思っていた。というか、あんまりマレーとインドネシアを区別していなかった。
つーわけで、コレ。
焼そば。脂の旨味を吸わせた炒りたまごで絡めてあるところまでインドネシア料理と一緒だ。
まあ、どうでもいい。ただ、旨い。文句なく旨い。
そして、濃い。
それだけだ。この料理はそれだけでいい。
で、今日のメイン。
判るかね。
金目鯛だ。
魚の頭のカレーを頼んだら金目鯛のカレーが出てきたのだ。
びっくり!
金目鯛の頭ってのは、俺にとっては冬の鍋の大定番なわけなんだが、まさか、こんなところでお目にかかろうとは。
金“目”鯛だけに。
脂トロリの金目鯛。ココナッツカレーに入れたら実に合う。
本当に合う。
よく知ってる食材をよく知っている料理で出されたら、未知のおいしさ。
これが食べバカ本懐の一つ!
と言っても、俺が知らなかっただけで、結構ポピュラーな料理らしい。フィッシュヘッドカレーはシンガポール名物。
調べると、鯛の頭で作ることが多いと言う。金目鯛はこの店のオリジナルなのか、それともマレーシアのどこかにそういう地方があるのか?
油揚げという、どー考えても日本オリジナルな食材まで使っているところを見ると、どうも金目もマレーチャン独自の匂いがプンプンする。
それ以上に、スパイスとココナッツの甘く刺激的な匂いがプンプンしているわけだが。
匂いと言えば香菜。もしくはパクチー、コリアンダー。なんと呼んでもこの独特の香りは変わらないわけだが、これが山盛りでどっさり入っている。
焼そばもそーだ。
この命の草が、実に東南アジア料理のテイストを主張して止まない。
くどい料理には、やっぱり、コレ!…だが、日本では本当に苦手な人が多い。残念なことではある。
あとはデザートで締めておしまい。
味の解説よりも、このカラフルな見てくれを楽しんでくれ。
カキ氷のはカシューナッツ。この派手さがなんとも言えない。
最後まで楽しませてくれるマレーシア料理。気軽に喰える料理だから、みんなも見かけたら是非チャレンジしてみていただきたい。
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