その名はレッサム・フィリリ。
一度入った店にそうとは知らずにまた来てしまった俺たち3人。
しかし、だからと言って…いいや、だからこそ!ここで挫けている必要などないのだ。
土曜の昼下がり。ランチタイムとディナータイムの狭間とあって、客は俺たちのみである。
席は、前回は光差す窓辺。今回は一番奥。なんと、巨大な曼荼羅タペストリーの真ん前であった。
曼荼羅…宇宙の設計図。さて、この店は俺たちにいかなる宇宙を見せてくれるというのか?
ちなみに、前回のブータン料理店で俺とブルースが見たものは「衝突する宇宙」(ヴェリコフスキー著)であった。

「おお、この店すげえな」
メニューを物色しながら、脇のチラシに注目が集まる。
実はオーダーは「チベッタンコース」と入店前から決めているので、メニューチェックもいい加減なものなのだ。
「この店の収益で、ネパールに学校を建てているらしいぞ」
本当だ。2008年現在で6校。すごい成果だ。

支配と貧困からの脱却に一番必要なものはなにか?
金か力か愛か?
どれも違う。
それは教育だ!
飯を喰うだけでその教育の普及に協力できるなんて、なんてリーズナブルなお店なんだろう。



なあんてことを言ってるうちに、滑るように出てくるチベット的なお皿の数々。ここから先はいつものようにガツガツと食べまくるつもりでいるよ。
しかし…まさかあれほどのガツガツになるとは……


いやいや、物語の時系列を元に戻そう。
前菜が出たところからだな?



これはまあ、普通のインド圏でよく出るスパイスであえた浅漬けなんだけど、きっちりイモがついている。
諸君、このイモの存在を覚えておいてほしい。この後、重要なキーになるワードだ。



まあ、これは普通にサラダ。ニンジンが生で入っていて、さらに上におろしニンジンがかかっているところが面白い。ニンジン自体が甘みがあって旨いからこそできる芸当だが、この同じものを積み重ねるクドさ、このクドさについてもご記憶願いたい。



スープだ。
いや待てッ!赤いぞッッ!!…おい、お前喰ってみろ。
ブータン料理ですっかり恐怖症のブルースがシールドの陰から指示を出す。そんなに怯えることは無い。赤はトマトの赤だ。辛味はほんのりだってば。

それでも汗を出すブルース。彼は辛くないスパイスにも反応する男。それでもカレーが好き。

それにしても、汁物は腹に溜まるね。なんというかこのボリュウム感。幸せの証だ。



と、ここで昔馴染みのモモ。これこそがチベット料理一の定番料理じゃないのかな。さきのブータン料理屋でも出たし、うちの近所のインド・ネパール料理屋でも置いている。



ここでなんかクレープみたいのが出て来た。このバターソースを塗って食べるらしい。
なんとこれ、ポテトだ。粉にして焼いたな。しっとりしてもちもちした食感。バターソースも旨みが濃いし、薄い割には食べ応えがある。



と、その直後にスペアリブですよ。肉。肉の塊。
なんかね、こう一気にとどめ刺しに来られた感じ。スープ、餃子、イモそして…肉。
人がね、生きるのに必要な全てをね、なんというかこれ、必要以上に与えられた感じ。
素朴だよ。素朴だけど、このボリュウム感は贅沢感。チベット=ストイックのイメージにひびが入るよ。この、腹を満たしていく感覚。これが“豊かさ”なんだろうね。
もちろん、こういう料理はチベットでは特別な日のご馳走なんだろうけど。



な、なに〜!またスープだと〜〜?
「おい、毒見役。辛さチェック!チェック、チェック!」
解ってるよ。まず写真撮る間くらい待ってろよ。…ええと、これは…
「辛い」
「な、な、なんだとォ〜!?」
「だってこれ、カレーだもん」
そう、これはまさにスープカレー。チキンカレーの味だ。
「おお、確かにカレー。ふふ、カレーなら、イける。…ですよね、親分」
自分すら凌駕する辛味苦手マンである親分を気遣うブルース。
しかし、果たしてそのとき親分はそれ以上の不意打ちに気づいてしまったのだ。
衝撃は汁の底から。
「米だ!」
そう、カレーといえばライス。しかし、ここまで来れば…
「カレーライスというよりも、これではカレー雑炊」
なんという破壊力。しかし、
「…なんと豊かな国、チベット」



来たッ!焼きそばだ。



来たッ!!チャーハンだ。

…並べてみようか。



…………
…………
感無量。


食べた。食べまくった。
旨かった。旨かったが、続け様に出て来た2つが同じような味付けってのはどうなんだろう。
あんまりしつこい味付けではなかったので、最後までおいしく喰えたが。

なんというカーボローディング。ボクらは一食のコースでいったいどれだけの主食を食べたのか?
多分、これがもてなしの原点。ご馳走はガツガツ喰って行って下さい、ってことなんだろうね。



デザート後に出て来た謎の鉄塔?



中は普通にチャイでしたよ。
しかし、器の質感に騙されて、なにやら重厚な味に感じてしまう。最後の最後にそれっぽさを出すあたり、見事に読みきられている感じ。
さすがチベット。懐が広い。それ以上に胃袋が広い…

全てが終わりご会計。レジ横に募金箱…というか、募金塔発見。
しかしね、そう簡単に募金などせんよ。なんに使うか具体的な目的の定まっていない金など死に金だ。
どんな奇麗事を言っても、募金など…
具体的目的はあった。
「ネパールへの学校設立のための募金です」だと?
珍しく、募金してきました。何より必要なものは教育、とさっき言ったばかり。しないわけには行くまいよ。
こころの豊かな国ネパール。今なお少数民族が山中に住み、祈祷で病気を治そうとしているような国、ネパール。
しかし、外国で店やって飯食わせて、その代価で学校つくろうなんて人がいる限り、ネパールは大丈夫だ。

みんなも腹いっぱい喰って、ネパールに金を落とそう。
学校を作ろう。
「レッサム・フィリリ」で検索だ。
でもいいな?解っているな?くれぐれも腹を減らして行くんだぜ!

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