いろいろな時間の都合が重なり、我々が伊那についたのは日曜日の早朝であった。
大概において、店が開くのは10時。ローメンズクラブの幟などをチェックしながら、人通りのない朝の町を散策する。
最初に台北に行ったときもそうだったが、俺とブルースの二人で旅にでると、目的もなくそこらをうろつきまわる羽目になるのだ。
もちろん、だからこそ観光地ではない、その土地の素の顔を感じられる機会も増えるのだということも判っているのだが・・・・・・今回は腹を減らしてローメン解禁の時間を待っているのだ。
サタニストのクルスを握り締めて、余所者が町をぶらつく・・・・・・悪の十字架。


ごく普通の居酒屋と思われるが・・・いなかもの。
こういうセンスはとても好きだ。最初に「伊那に来たーッ!」と思わせてくれた。


壊れかけた看板もそのままの矢島写真館。いい味出してる。
昨今のデジカメ普及でココも苦しいのだろうか?深読みすると悲しくなってしまう風情だ。


ホント、これなんかどーでも言いのだが、思わず写真とってしまったので取り合えず載せる。
しなとら。いや、面白いよ、コレ。


アホなことをやっているうちについに10時。続々と店がシャッターを上げる。
と、思いきや。
結構あります。“日曜定休日”
コレだけとっても、町の名物を意識しているとはいえ、ローメンは旅行者ではなく、地元民のための食べ物ということが良くわかるのです。
しかし、ネットで評判を調べて当たりをつけていた店が日曜定休には参った。
すきっ腹を抱える俺たちの前に派手な横断幕が・・・


ラーメン 新潟屋
「ラーメン屋じゃん」
「でも、ローメンって、こんなにでっかく」
まあいい。とにかく入るぞ。
なんというか、油で薄汚れた、いかにも場末のラーメン屋といったそのままの店構えなんだが・・・おかしい。俺、この店構えを知っている。
椅子席の一角に小さな座敷。厨房との仕切り方など、妙なデジャヴ。
よくある店づくりだといえばそれまでなのだが・・・
店の本棚から抜いた文庫本を読んでいたブルースが、無言で指し示したページに、正にその答えが書かれていたのだった。

この店は、前述の「駅前の歩き方」ローメンの話のモデルでした。

長野の麺料理を取材したグルメ紀行本に、ご丁寧に取材を受けた印をつけて店においていたようです。
え!?俺たちにローメン旅行を決意させたあのマンガと同じ店!?偶然にも。
そして、出てきたのはコレ。


え!?ええ!?コレ、やきソバ?
マンガで出てきたローメンは、一見焼きソバ風で、しかし、羊肉、独特の麺、自分で味付け、脂っこくないなどの特徴が書いてあったけれど、ここのはすでに濃厚なソースで炒めてあって、かなり脂っこい。
どうやらローメンにはスープ系、炒め系の2つの潮流があるということはネット上の情報で得ていたため、ぎりぎりパニックは起こさずに済んだが・・・・・・
かなり、普通のソースやきそば。しかし、やはり麺は独特。歯応えがあり食べなれているやきそばよりも麺の存在感がでかい。
全体にしつこい分、コクもあって空腹には良いボリューム感だった。

「しかしね、ソースが強すぎるのかな。全然羊肉の風味がしなくて物足りなかったね」と、店を出てから言ったところ。
「ナニ言ってんだ。あの本、ちゃんと読んでないのか?あの店は外来者向きに豚肉で作ってるんだぞ」
ガ、ガーーーン!!

ああ、人よ。余所者などに合わせる必要はない。俺が求めるのは本当の、飾らないローメンだというのに・・・

しかし、人よ安心するがいい。すぐに我々は原始のローメンに出会うことになる。


元祖ローメン