そして、今こそ語ろうブタとワインの伝説を。

「旨かったなあ、ルーマニア料理」
「ああ、本当に旨かった。こんなに旨いとまた、夢だったかと思うよ」
実際、雲南人和園や昆明飯店など、後付の印象で味の記憶を美化しているのじゃないかと自分を疑いたくなるような店は今までにも実在したのだ。
「じゃあ、行ってみるか。またあれを確認しにあの、『ブタとワイン』の伝説を味わいに、な」
「へ、『ブタとワイン』?そりゃ『ヒゲとボイン』のもじりか?アッハッハ!!うまいなあ、お前。確かにあそこの豚肉料理はワインに超絶合う絶品だったからなァ!」

なんたること。このどうしょもない駄洒落はブルース作であったはず。酔いに任せて帰りの電車で連呼していた自作お気に入りフレーズをすっかり記憶から落としているとは。
やはりヤバイくらいのヨッパライ具合だったのだな。


さて、そんなこんなでルーマニア2回戦。この珠玉の店発見の遠いきっかけとなったナツカも誘い3人で挑むこととなった。



スープはこないだと同じ、ダシがよく効いていることは写真の肉を見てもらえれば実感していただけるだろう。
そして、前回説明した新食感、水中花の如く泳ぐヌードル。コシがなくとろけるような淡い舌触り。
普通の小麦粉で作った麺だという。メインキャストでなく、具としての立場に徹した麺が、優しくスープの味わいを引き立てるのだ。



そして、パン。今回は客が多く、残念ながら自家製モチモチパンだけでは全卓に行き渡らないとのことで、半分は普通のパンとなってしまった。
しまし、この焼きたてパンの焼き立てっぷりを見よ!
サービスで全テーブルを廻って見せるシェフ。ついつい写真を撮らせてもらったが、しかし、他の卓でもフラッシュバシャバシャ鳴らして撮ってる。
やはり、ココのお客さんはこのパンの価値を解っていらっしゃるんだ。


ココで話は遡る。今回のメインディッシュを紹介する前に、前回のブタとワインの衝撃を知ってもらいたいのだ。



これは、最初に来たときの、ブルースが頼んだコースのメインディッシュ。
前頁と見比べてもらえればよくわかるだろう。
オードブルとしても出されたテリーヌを、これは白ワイン煮にしてあるのだ。
さらに手を加えることによって、技巧の前菜がメインのパワーを手にすると、そういった仕組みなのだ。


そして、ブタ。
豚肉の岩塩焼き。単純にして明快、素朴にして定番のブタの塩焼きですよ。
これが、俺の頼んだメニューだ。
ココまで来ると単純すぎて技巧の凝らしようがないが、ココまで一軒素朴に見えながらも技巧の粋を凝らしたオードブルやパンを喰ってきたので、最後にこういうドーンと肉、なものを食べるのは丁度いいと思ったので。
いや!
なんとこれがブタか!なぜにこんなにジューシィなのだッッ!!


ちょっと見にくいが、見てくれこの断面。ほんのりほのほの桜色。
なんたる奇跡。ブタ料理が料理として成り立つギリギリのところまでしか通っていない火加減。
そして、ふんわりジューシィとなるぎりぎりのところまで通っている火加減。
おそらく、この一点しかありえないのだろう。これが、ブタか?

あんまり旨いのでブルースにも分け与える。この肉汁の塊たるブタの一切れを。
口中に染み出すブタのエキスが赤ワインを加速する。豚肉とワインのベストマッチング。
こうしてブルースの名セリフ『ブタとワイン』は誕生したのだった。


さて、時間は現代に戻る。
あの夢の饗宴、ブタとワインの現実を確かめるためにも、俺たちはココに来たんだった。そうだ。
パンの旨さは夢ではなかった。確かめた。さても、お次はメインディッシュの到着だ。


ナツカの頼んだクレープ包み。内側の具はパテ状になってもっさりした食感であまり自己主張しないが、とにかく外にかかったクリームソースが旨いとのこと。
普通のクレープよりも肉厚でしっかりした生地に、味わいこってり香りすっきりのソースが絡んで実に良い感じ、とのこと。


ブルースは見果てぬ夢を追う。
夢とは、ブタとワインの夢だ。しかし、よりによってカツレットとは。
火の通りが早い揚げ物は、前回のような絶妙火加減の鬼門だぞ。解っているのかブルース!!
「う〜〜旨い!ブタとワイン!」
なんと、奇跡の火加減はここでも実在した。外はカリカリ中はジューシィ。
ブタとワインの伝説は夢ではない。このブタ料理は実在する。


そして、俺が頼んだのは鶏のグリルであった。ブタよりは固めに焼き上がり、これは本当に素朴な田舎料理といった風情だ。
鶏の淡白な味を殺さぬよう、極力他の味を抑えている。
実は一番気になっていたのはこの付け合せのコーンミール。

ルーマニア料理を調べると、このとうもろこしの粉を練って作ったママリガというのが主食なのだと、必ず紹介されている。
主食?米でもパンでもなく、このコーンミールが?
ブルースは言う。これまでの付けあわせを見ても、ルーマニアの主食はパンでもとうもろこしでもねえ。ジャガイモだろ!見ろよ、このイモ、イモ、イモを、と。
なるほど確かにそうかもしれない。
しかして、このコーンミールはどうなのよ。
ほんのり甘いのはとうもろこしの元来の甘みだろう。
歯応えはふんわりした感じだが、ざっくりと歯が入る。メレンゲか練り物のような食感だ。
これは、確かに毎日食べても飽きない。
おれは気に入ったが、ブルースはイマイチな感じ。ジャガイモのほうが良いな、と。
わりと好みが別れるところだろう。これは、凄い爆発力の旨さというわけじゃない、これこそ素朴なご当地の“常食”といったところだろう。



最後に食ったデザート。コレが甘い。
ドーナツに果物乗せてクリーム垂らしてるんだぜ。
でも旨いからしょうがない。最後までわかりやすい料理が続いたルーマニア料理。
旨くて素朴でリーズナブルなくせにサービス精神豊富で素敵な店ルーマニア。
商売っ気のないオーナーが店を潰さないよう、みんなで盛り上げてゆこう。
今すぐ行きたい人は「中野坂上 ルーマニア」で検索だ!

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