北欧料理とは、北海の豊かな魚介類を背景に育まれた、それでもやっぱりヨーロッパだけあってパン食を基礎においた食文化である。肉類は燻製、野菜類は漬物が多いのは、長い冬に支配される北国の故か…
と、いうのがメーラレンで一食だけした我々の印象である。
そしてこれから向かうガムラスタン、こちらが師の店である。さあて、見せてくれ日本北欧料理黎明期を生き抜いたその年季の差を!

今度はまっしぐらに店まで連れて来てくれたカーナビ君。政府の陰謀も、老舗の店までは通じなかったわけだ。
敗れたり、平成の大統合。




なんとこじんまりした店だろう。弟子の店の何分の一の大きさか?
確かにココだよな?青地に金のスカンジナビアクロス。これはスウェーデンの旗だ。
…倉庫だった。おかしいと思ったんだよな、やっぱり。店はその横の小道を入ったところにちゃんとありましたよ。
しかしこれで、今まで北欧北欧言っとりましたが、スウェーデンがメインであったことが確認できたわけで、そうなるとますます、男としては喰わずにすますわけにはいかなくなったわけで……
言うだろ?スウェーデン食わぬは男の恥と…
ええい!しゃらくせぇ!!

ちなみに店は夕飯時まで暫し休憩でクローズ。不安のあまり、ランチタイム終わってすぐにとんできたんだもんな。当たり前といえば当たり前。しばらく近くで暇を潰す。
しかし、これが誤算。山の中で風景写真を撮っているうちに、むやみやたらとテンションがあがり始める田舎好きのブルース。開店直後の店に飛び込んで最初に言った言葉が、
「ディナーに飲み物なしは、寂しすぎだろ」
おい待て、このご時世飲酒運転はご法度だぜ。帰りは夜の山道。警察に捕まらなくとも、閻魔に掴まるぜ。
「くくく、ここはそれ、ドライヴァーの強え味方よ」
『レーベンブロイ(ノンアルコール)』
メニューに明記されています。なら大丈夫。





おわッ!いきなりデジャビュ。イワシのマリネ。マスタードソース。
これは定番なのかしら?最初にイワシを出すのが?
しかし、師弟対決という意味ではたまたま同じ料理が出たのは好都合。食べ較べて、やるぜィ。
軍配はあがらず。少なくとも、俺には同じ味にしか感じられない。つまり、今回もすごくおいしいと思った訳だが…さっき気に入ったメニューをもう一度食べられる喜び?それとも、同じものを繰り返し食べてしまった哀しみ?
混じりあった複雑な感情はさておいて、ここは素直にメーラレンのシェフに心からの賛辞を述べたい。
よくぞここまで師の味においついた。イワシのマリネについては、もはやお前に教えることは無い、と。
しかしね、盛り付けからマスタードの添え方まで、いちいち一緒のようで混乱する。視覚的には唯一、フォーク置きが違う。あちらではダックスフントのバーだったものが、このガムラスタンではなんと小枝。なんの変哲も無い小枝。質実剛健な感じで、これはこれでかっこいいぞ!





わーい!大のお気に入りだったサバの燻製がまた喰えるぞ!
おお、トナカイの燻製もまた…これ、脂っこいけどそれ以上に肉質が締まっていて噛むほどに味が出るんだよねえ………
繰り返されている!時の環が閉じた!!今日の次はまた昨日か!?いつまで俺たちはこの繰り返しの時の中を生きなければならない?
思わず取り乱すほどに、これは同じ味であった。同じ盛り付けで、同じ組み立てだ。ただ…ここにはダックスフントはいない。代わりに皿の横に無造作に転がった小枝だけが、俺の正気を繋ぎとめてくれていた。
困惑する俺を置き去りに、しかしブルースは妙にご機嫌だ。
「うんまぁ〜い。燻製が、実にビールに合うねえ。引き立てるyo、引き立て合うne、ビールと燻製!」
まるで酔っ払いだ。目がトロンと潤み、頬がほんのり桜色である。
「わ!お前ホントのビール飲んだ?」
「うんにゃ。レーベンブロイ、ノンアルコールだけさ」
そんなバカな。見た目も言動も、今のコイツは酔っ払いそのものだ。
「確かに、ふわふわして気持ちいーなー。すげーぜ俺。ノンアルコールで酔っちゃってるよ。うひゃひゃひゃひゃひゃ」
マジか?マジにノンアルコールだというのか?この壊れ具合。




あ、初めてメーラレンと違うものが出てきました。
サーモンだ。ノルウェー産に違いない。
それにしても、脂ののってトローリととろける感じ。マスタードソースとレモンの酸味がくどさを抑えて非常においしい。が、まあこれはシャケ自身の実力か?
さあ、ここから2店の違いというものが見えてくるのかな?




ドンガラガッシャン

同じものだ。
味も一緒だ。ひょっとして…
同じものなんじゃないのか?こっちの店で大量に煮込んで、向こうの店に…向こうの店は、代わりに大量にスモークしておいた燻製を…
あながち、突拍子も無い想像とも思えないほど、同じ味なのだ。
てな、不穏なハナシをノンアルコール酔っ払いとひそひそやっているうちに、次のお皿が。



おお、今度も違うぞ。海老か!いいね、海老。
さっきのホタテと海老が変わっただけで、基本的には同じ料理だが、これには海老のほうがあっている気がするよ。






メインの肉と魚は、俺とブルースでさっきとは逆の選択にしてみた。
メイン料理は似ちゃうのしょうがないよね…とは思っていたが、なんかね、ソースの味が一緒なんだよね。
肉の方はワインと果物とか使ってそうなほんのり酸味。魚のほうはもっとバター多めでクリーミー。
だいたい、ソースの掛け回し方まで一緒だろ!一緒だろ!!一緒だろ!!!
と、思っていたが、写真処理してて気づきました。大きな違いに。
ガムラスタンのソースが時計回りなら、メーラレンのソースは反時計回りに掛け回されている…?
ひょっとして利き手が逆だとか?
……味には関係ないか。





やっぱり出た。お新香。




あああ、一緒だよ。アイス、チョコケーキ、メロン。
やっぱり一緒だよ。


この後我々は、本当に素面かどうか本人にも判らないドライバーの運転で、カーナビの逆襲のせいで馬も行き交わぬ夜闇の山道を疾走することになるのだが、車中の話題は当然似すぎる師弟のことであった。
よくぞここまで師の味を受け継いだと褒めるべきか
同じならスウェーデンまで行かなくていいなんじゃねーの?
本場に行って、やっぱり師は本物であったと再確認したんだろーよ
それにしたってうまいのは確かだ。どっちの店も、近所にあればごひいきにしたいね。ここでやってても、近くに来たら帰りに寄りたいと思うよ。だけど…
ああ、だけど…、ね
同じ日に両方は行かねー!絶ッ対ェー行かねー!!

ああ、北欧は我らを裏切らなかった。だが、哀しいかな。ビッケは未だハルバルの手の内に……

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