一体ナニが起きたのか?


「さあ、今日はナニを喰おうか」
「昨日の大衆食堂、旨かったなあ」
「ああ、旨かっただけじゃなく、幸せだったなあ」
「ホント、言っちまえばただ単に旨いだけだったのになあ」
「あんな店、ウチの近所にあったら毎日でも通うね」
「ほう、常連になるな、のブルースらしからぬ台詞だな」
「それとこれとはハナシが別さぁ」
「ま、それはそうと今日はどこの店に行こうか」
「正直ね、俺はもう一回大衆食堂でもいいと思ってるんだよ」
「…はぁ?バカ言え!2泊のうちのもう一食だ。別のもんも喰おうぜ」
「お前、大衆食堂で喰うのいやか?」
「いや…そう言われると、いやではない…というか、どちらかというと喰いたいけど…」
「まぁまぁ、あの辺り、店多いじゃん。とりあえず別の店探して、なかったら大衆食堂ってことで…」

いや、ココまで来ればもう決まったようなもの。なんだかんだ言って最後は大衆食堂に入ってしまうに違いない。

つまり、昨日の俺の失敗とは、「また来ることが判っていれば、食後に全力疾走などしなかったのに!!」のことだ。

なんだかんだ言っても、店に着いたらウキウキ3人衆だ。
飲み物を頼むが早いが、いそいそと店先の食材の前に集合。
「今日は肉とか多めに行きたいね〜」
あ、烏骨鶏!これちょうだい。…モツもいいねえ。コレ、炒めて。合わせる野菜はもちろんおまかせで。あ…その魚、なんか食べたことなさそうな、じゃあこれも…って、3尾も皿に載せられた。喰い切れるのか?まあ、いいや、任せたんだもんな。
「とまとおいしいよ、とまと。たべるか、とまと」
「もちろん!」
「わかた。たまごといためるよ」
などと昨日より慣れた調子で注文を終えて席に戻ると、




烏骨鶏だ!すでにテーブルに乗っかっている。
いくらなんでも、早い、こりゃ早過ぎるよ。なんだこりゃ?
それにしても、やはり烏骨鶏は味が濃厚だ。
そのうち、親分もブルースも手をつけなくなり、俺様の独壇場に。
「こんな濃いの頼みやがって。罰として全部喰えよ」
罰?こんな嬉しい罰があるなんて、ドストエフスキーも驚きだぜ!
もちろん、そればっかは喰っていられない。脂が…脂が回る。
タイミングよく、さっぱり系の雄焼き魚が登場。



ぶりっぽい魚の切り身が、大胆にも輪切りで置いてあったものを、お任せ中理で注文したのだが、
はい、普通の切り身の塩焼き。今度こそ、特筆すべき点なし。旨いが日本でも喰える。



カキ豆腐。これも、見たままの味だ。しかし旨い。やけくそ気味に入ったカキの圧倒的パワーだろう。しかし、俺は何回「やけくそ気味」という表現を使っているのだろう。この店はそれくらい思い切りがいい。しかし、最終的にはそれが無茶にならず、確実に完成したおいしさにまとめてくれるのがいい。
しかし、なんにせよ炒め物はみな旨い。さすが中華。さすが台北。
材料を選んだ端から、待機している中華鍋に目の前で放り込まれるのを見ているから、たいした手を掛けていないのがよくわかる。
何故旨い?炒め物。



と、ここで炒めてないのが来てしまった。
煮魚だ。魚料理の中では煮魚があまり好きでない俺。煮魚の本場日本でも、サバ味噌以外の煮魚には難色を示すことの多い俺に、ここで煮魚とは。
おまけに一人1尾ずつ。気を使って指定した魚を人数分煮てくれたおっちゃん。
…ところがこれがうまいのですよ。
参ったなあ。
醤油で煮てるんだろうけど、薬味に生姜使うあたりも日本の煮魚に近いんだが、一緒に煮てある豆が違う。味噌のようであり、味噌のようでない。
豆鼓っぽいような納豆っぽいような…味も煮詰めすぎない濃すぎない俺好み。
更に言うなら、魚の火加減が全体に軽め、生が残らないぎりぎりの時間で止めてる感じなのも魚が旨い理由の一つか。
いずれにせよ、台北で煮魚に目覚めようとは思っていなかったよ、俺。



そして、おっちゃんがうまいよ、と進めてくれたトマト卵。
中華料理では割と見かける料理だが、少なくとも、俺が今までに喰ったトマト卵の中で一番旨い。
いや、今までに喰ったオムレツ−スクランブル系の卵料理の中で一番かも知れぬ。
旨い。ただ単に旨い。
正直、モツ炒めの旨さが霞むくらい旨い。…モツには悪いが、炒め物が旨いのは当たり前だと思っているからな。
ただこれ、肉は火を通した色んな部位を切っておいたのを、注文に合わせてざっと炒めるだけ。つまり、下ごしらえが完全に終わっているが故の早さと旨さなのだよな。
つまり、早さと旨さが完全に合致している…ついでに言えば、早さゆえの客の回転が薄利多売を可能にする、早い、旨い、安いの三位一体だ。これはニカイア宗教会議でも認められた周知の事実なのだ。

さて、それではその最後の要素、安い、を確認する儀式。「お勘定」だ。
あんな大量の烏骨鶏とか、バカスカビールのんだりで、昨日より高いのは覚悟しているが、しかし、俺たちが三位一体と認めた大衆食堂。
たいした価格ではあるまい。

「1500元くらいだった…」

昨日より安い!!
一体どういう基準だよ?
しまいには親分、怒り出した。
「安すぎるよ!怒らないからもっと取れよ!潰れたら困るだろうが」
すっかり常連客の意見だ。
確かにこの店なら常連になってもいい。
というかむしろ常連になるべき店だろ、こういう大衆店は。

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