IT・ネット

先日、1999年の高額納税者の公示がされた。今回の特徴は株式の譲渡による、いわゆる「株長者」が上位100人中51人もが占め、そのうち「新規公開株長者」が22人もいた。10年程前は土地の譲渡による「土地長者」が上位を占めたが、本公示は世相を忠実に表している。しかし、株式の譲渡を源泉分離課税制度で行っていれば公示の対象からはずれるため、隠れ「株長者」がいたのも事実である。又、いつも思うがテレビなどで活躍している著名なエコノミスト・評論家・コンサルタント等、投資や経営のプロであるはずの彼らがなぜか上位にランクインされていないのだが・・・。 

「IT」「ネット」 一時程加熱感はないものの、最近の新聞や雑誌、テレビなどでこの文字が氾濫している。株式市場においても「IT」「ネット」を少しでもかじっている企業はIT・ネット関連として持てはやされ、又、現在の業績を無視して期待だけで株価が急騰したものもある。設立まもない従業員が数十人と規模としては「中小企業」ともいえる会社の株式の時価総額が、歴史と伝統のある従業員数万人の重厚長大企業のそれを上回るという正に異常というべき水準にまでなってしまったものもある。 

これらIT・ネット関連のねがさ株は一般の個人ではなかなか手が出せない。実際はディーラーやファンドマネージャーと呼ばれる投資のプロがほとんど買っているという。思えば、昭和の後半から平成にかけての地価の急騰は、ほとんどが不動産のプロどうしの「土地ころがし」が原因であったように思われる。つい最近までの株式においては「株ころがし」というべき現象か。異常な価格形成の後には適正な水準に戻る際には坂道を転げるような反動がある。あるIT関連の株式は、つい3ヶ月ほど前はIT関連の「勝ち組」の代表株のように持てはやされ一株24万円をつけていたが、今では1万円を大きく下回っている。まさに一極集中型の「ネットバブル」の崩壊であり、またもや歴史は繰り返されたように思う。 

「IT」「ネット」産業は確かに成長産業であることは間違いなく、実際に短期間で急成長したものもある。しかし、成長産業がゆえに新規参入組も増え続けるなか、IT界のトップスターとして「勝ち組」に残ることができる企業はほんの一握りで、さらに「勝ち続ける組」がはたしてどれだけいるだろうか。最近路上などで若者が生演奏で歌っているのをよくみるが、なかには未来のトップスターを目指しているものもいるだろうが、競争率は余り変わらないように思うのだが・・・。 

先日、テレビで山形の酒造メーカーが紹介されていた。その社長は今31歳で15代目。25歳の時に父親である14代目から経営を引継ぎ、今「14代」という銘柄の日本酒が生産が追いつかないほど飛ぶように売れているという。その若き社長の言葉が印象的だった。酒にも流行がありますがこの「14代」は辛口ですか甘口ですか、という司会者の問いに、「辛口でもない甘口でもない、いわばうま口です」。流行に左右されない本物の味といったところか。又「この世界は足を止めればのまれてしまうアリ地獄のようなものです」とも言った。 

今のような低成長期は本当の本物(プロ)でなければ生き残っていけないし、かつ、たとえ歴史と伝統があっても変化のスピードが早いなかでは常に前進し続けなければならない。かつてバブルの時がそうであったようにマスコミなどにあおられ浮かれることなく、地に足をつけて真のプロであり続けるよう日夜研鑚することが経営においても大切では。 

ところで、私は30年来のタイガースファン(他チームのファンの皆さんスイマセン)であるが、待望の首位になったと思ったら一日天下で現在最下位である。勝ち続けることの難しさを痛感しながら、シーズン終了時には「勝ち続ける組」に残っていてほしいと願っているが・・・。

2000.5 税理士 西野 津