高額納税者

 

先日2000年分の所得税の高額納税者が発表された。今回も前年に引き続き株式の譲渡が主な所得である「株長者」が上位を占めた。一方「土地長者」は地価低迷を反映してほとんど影をひそめた。今回の公示対象者は約8万人でこれは確定申告者の約0.4%になる。前年より約5千人増加しているが、ピークの1991年(平成3年)と比べると半分以下になっている。今回はこの不況時において意外にも高額納税者が前年より増加しているのは、急成長している新興企業の経営者が多かったものと思われる。しかし、上位100人中前年に引き続きランクインした人は23人しかいない。ほとんどが一過性の所得と思われ、ランクインを継続することのむずかしさを感じる。

 

高額納税者の公示は、適正な申告をすることを間接的(密告などによる)に促進する為に1950年(昭和25年)から行われている。当初は公示の対象は「所得金額50万円超」だったそうで、現在は「所得税の額1,000万円超」となっている。毎年5月16日〜31日の間に各税務署の掲示板にその管轄している納税者の「氏名・住所・所得税額」が張り出される。公表される税額から「もうけ」である所得金額を次の算式でおおよそ推定することができる。

(所得税の額+249万円)÷0.37=総合課税の課税所得金額 (株式や土地の譲渡所得が含まれているとこの算式は成り立たないが)

したがって、給与・事業・配当所得などの総合課税の所得のみの人は、所得金額で約3,400万円以上であれば公表されるということが言える。例えば、今回31位の「ユニクロ」の社長は税額が5.6億円であるので、約15億円(総合課税の所得のみと仮定)の所得であったことが推定できる。

 

税務署の掲示版は誰でも見ることができるので、この情報を商売に使う人もいる。公示対象者の名簿が売られていたり、「公示対象者=お金持ち」と推測されることから、金融・証券・不動産・商品先物などからダイレクトメールや勧誘の電話、訪問などが増加し、迷惑がっている人も多い。「どこで調べたのかなぁ」というなぞが解けた人もあるのでは・・・。

 

永田町の「変人(異端児)」小泉首相は、いよいよ頭角を表してきた。道路特定財源の使途拡大など従来の官僚主導的な「過去の常識的内閣」では出来ないような「聖域なき改革」を打ち出している。特にハンセン病の控訴断念の決断には感動した。一方民間においても「異端児」と呼ばれる新社長が企業の生き残りを賭けて「創造的破壊」を次から次へと打ち出している。例えば、松下電器の新社長は松下幸之助氏が導入し聖域と言われた事業部制の解体を宣言するなど「破壊王」とさえ呼ばれている。

 

ある大手電機メーカーは流れ作業(分業)を廃止し、「一人屋台方式」といわれる一人で部品から製品を組立完成させる方式に換え、コストダウンと生産性の向上に成功したという。当初は伝統的な大量生産方式である分業を廃止することに現場から相当抵抗があり、その効果を誰もが疑った。しかし、結果的に仕掛品が大幅に減少し、製品のモデルチェンジにもすぐに対応可能となり、最も従業員にとって従来の機械的な作業より「やりがい」が大幅に向上したようだ。指導者は「能力を留める」方式から「能力を伸ばす」方式への変更ともいっていた。個々人の成績が明確になるので業績連動型の賃金を導入しやすくもなった。

 

20世紀の成功モデルが21世紀に通用しなくなった昨今、「創造的破壊」や「従業員のやりがい向上」に成功した経営者が今後の高額納税者の常連となりうる要素を持つと思われる。Bクラス常連のあのプロ野球チームもこれらを見習ってAクラス常連とはいかないものかなぁ・・・。

 

2001年5月 西野 津