悪いデフレ
朝夕涼しくなり、あの猛暑がうそのようにすっかり秋らしくなりました。
さらに、背筋を寒くさせるようなここ最近の株式相場の動きです。ついに、
17年ぶりに平均株価が11,000円を割り、10,000円をも割る気配さえあり
ます。株式相場は景気のバロメーターとしての性格もあり、株価の低迷は国
民全体に何らかの悪い影響を与えます。一方、先月発表された路線価も全国的
に下落していました。特に大阪府は10.2%の下落となり、全国でも2番目の下
落率で、しばらくはこの傾向は続くものと思われます。ある民間調査によると、
東京都内に住む人の約8割が地価の更なる下落を望んでいるそうです。理由は
「固定資産税や相続税などの税負担が軽減される」「不動産が購入しやすくなる」
などが多いそうです。地価は平成3年位をピークに10年間ほぼ一貫して下落し
ていますが、まだ高いと思っている人が大半だそうです。
同等のテレビが10年前の1/6の値段で買えるような時代ですから、デフレ(物
価下落)は消費者の立場からはこれほどありがたいことはありませんよね。商品は
品質が同等であれば安ければいいに決まっています。いくら下がっても更に下が
ってほしいと思うのが人情でしょう。今は地価や株価に限らず、あらゆる物価が
下げ続けているデフレ状態です。政府もここに来てようやくデフレを認めたわけ
ですが、「いまさらなにを・・・」と言いたいですよね。
ユニクロ、マクドナルド、回転寿司、100円ショップなど低価格路線でデフレの
仕掛人とも言える企業が業績を伸ばしています。一方、スーパーにおいても卵や
トイレットペーパーなど生活必需品の安売りの際はお客さんが群がっている状態
です。ある意味では消費意欲は旺盛だが価格には非常に敏感になっていて、先安
感から日常生活品以外は買い手控えるなど、消費に大変ムラがある状態だと思い
ます。不況とは言われつつも一般的になかなか実感がないのは、戦後の混乱期の
ように食うものも食えないというほどではなく、物も豊富に行き渡っています。
それに、物価下落による実質的な貨幣価値の増大にも原因があると思います。
確かに大半の人は収入が減っているものの、その割合以上に物価が下落すれば
実質収入増と同じ効果となりますからね。
しかし、デフレにも良いものと悪いものがあるそうで、近年のデフレは悪いデフ
レだそうです。地価の下落や企業の競争激化による倒産などで、不良債権の更なる
増加や失業者の増大を引き起こす。そうなると更なる消費手控えを誘い、企業業
績も一層悪化する、いわゆるデフレスパイラルといわれる現象です。このような
状態が続けばいずれボディーブローのように私たちの生活にもっとダメージを与
えるのは目に見えています。特に借入金を多く抱えているところは、デフレは実
質的な借入金の増大ともなり、ますます重くのし掛かってきます。特に国や地方
公共団体、特殊法人などの公的機関の財政状態は危機的状況です。
今の公的機関の財政状態を個人に例えると、年収500万円(50兆円)の人が1億円
(1000兆円)の借金を抱えていて、年間の生活費が330万円(33兆円)不足するのだ
が、新たな借金は30万円(3兆円)削って300万円(30兆円)にするとご主人が言っ
ている。1億円も借金がある人が30万円新たな借金を減らしたところで焼け石に
水の状態であることがよくお分かりでしょう。今はまだ金利が低いからいいような
ものの、例えば年5%の金利になったとすると金利だけでも年間500万円(50兆円)
必要となります。収入をすべて金利で食いつぶすので、生活費はすべて借金しなけ
ればならない、という状況だそうです。新たな借金をしないようにするには、理論
上消費税を25%にしなければなりません。この膨大な借金を早期解消するための
手っ取り早い方法としてインフレ(物価の上昇)を仕掛けようという動きもでて来て
います。
このようにめまぐるしく変わる経済情勢を認識し、今後個人としてどう手を打つべ
きか。個人で出来ることは限られますが、少なくとも今持っている資産を将来に備
えてどのように守り運用すればよいのかを真剣に考える必要があるのかもしれませ
ん。企業はもちろんですが個人においても何もしないことが大きなリスクになる世
の中です。今年から贈与税の基礎控除が上がっています。来月からは新しい年金制
度401Kが導入されます。特に税制や年金などの動向については常に情報をキャッ
チし、危機的な財政状態の政府に頼るのではなく、自分の身は自分で守る自己責任
の意識が今後益々必要ではないかと改めて感じます。
2001年9月 西野 津