ゆでがえる現象  

 かえるをいきなり熱湯のなかにいれるとあまりの熱さに飛び出してしまうが、水の中にかえるを入れ、

徐々に水温を上げていくと、そのかえるは熱湯でゆであがってしまい、やがて死んでしまうそうです。

「異常」も徐々にエスカレートするとそれが日常になり、それに慣らされて異常を異常と思わぬように

なり、やがては悲劇的な結末を迎えるという例え話です。

 

 連日のように報道され、次々と明るみになる雪印食品の偽装牛肉事件。輸入牛肉を国産牛と偽り、狂牛

病に関する助成金の不正取得、あるいは輸入牛肉を国産牛と偽り販売していた。関西ミートセンターに限

らず、全社的に拡がる捜索は単に担当者レベルの問題ではなく、組織的な犯罪といわざるをえません。

狂牛病騒ぎから牛肉の売上が低迷したあせりなのか、目先のわずかな利益の為に同社の売上の3分の1

も失うはめになった代償は大きい。冷静に後で考えれば「なんてバカなことを」と誰もが思うもの。

 

「企業の常識は世間の非常識」外部から見れば非常識なことも、企業内では当然のように行われていたの

でしょうか。消費者は大企業がゆえに信頼し、スーパーで「雪印ブランド」の商品を買っていたのに、果

たして他社は信頼できるのか、自分で牛肉を見分ける目を養わなければいけないのか、私もスーパーには

よく行くので身につまされます。

 

記憶に新しい親会社「雪印乳業」の集団食中毒事件からわずかのうちに明るみになった不祥事は、「また雪

印か」と消費者の信頼回復に水を差し、グループにとってはもはや致命的、再建は困難だと思います。しか

し、まじめに働いていた社員やそれでなくとも売上低迷している取引酪農家のことを考えると気の毒でなり

ません。

 

「失業率最悪」「リストラ」「デフレ」「業績悪化」「地価の下落」「不良債権」・・・とにかくこの数年は

これらのことばが連日のように報道され、「厳しいですな」「いつになったら景気回復するんやろか」「やり

方変えなあきまへんわ」「どうなることやら」・・・が日常の挨拶とさえなっています。ところが、一方では

ブランド物などの高級品がよく売れたり、新車の販売台数は伸びたり、一部の外食店には長蛇の列、ディズニ

ーランドやUSJは大盛況。とにかく、厳しい経済状況がこれだけ長く続くと、なにを聞いても慣らされてし

まって、異常を異常と思わぬようになるのではないかとさえ思います。

 

先日、小泉首相は外務省のNGO問題の事態収拾のため、田中外相を更迭しました。今回に限っては前外相に

は気の毒な思いもありますが、これまでの失態続きのなかで更迭のタイミングを計っていたのかも知れません。

ところが、主婦層を中心に国民的人気が高い前外相の更迭騒動によって内閣支持率も急落しました。支持率の

バブルが正常に戻ったといえばそうなのかもしれませんが、国民の高い支持率が小泉改革の支えだけに懸念が

高まります。

 

首相のいう国民の痛みがじわりじわりとではなく、国民が「プロジョエクトX」の主人公のように本気で立ち

上がるためにも、一種のショック療法的なインパクトのある政策がひょっとして必要なのではないかとさえ思

います。「ゆでがえる」にならないためにも。しかし、予測のつかない痛みというのは怖いものですが・・・。

 

                                                                2002年2月 西野 津