条件は同じ  

月日の経つのは早いもので、本書はおかげさまで2周年を迎えました。懐かしく思いながら記念すべき

第一号(1999.5.24付)をふり返って読んでみたら次のようなくだりがありました。

 

<・・・「IT」「ネット」 一時程加熱感はないものの、最近の新聞や雑誌、テレビなどでこの文字が

氾濫している。株式市場においても「IT」「ネット」を少しでもかじっている企業はIT・ネット関連

として持てはやされ、又、現在の業績を無視して期待だけで株価が急騰したものもある。・・・「IT」

「ネット」産業は確かに成長産業であることは間違いなく、実際に短期間で急成長したものもある。しか

し、成長産業がゆえに新規参入組も増え続けるなか、IT界のトップスターとして「勝ち組」に残るこ

とができる企業はほんの一握りで、さらに「勝ち続ける組」がはたしてどれだけいるだろうか。・・・>

 

先日、日経新聞にITベンチャーの9割が株式公開時の投資家の期待を裏切って業績が悪化し、株価が暴

落しているという記事をみましたが、2年前に私の書いた文章がそれを予測するかのような内容で、新鮮

味を感じたとともに、世の変化の早さというものを改めて感じました。

 

私が高校球児だったころ、試合前に雨が降ってグランドコンデションが悪いと、「やりにくいなあ」「手が

スベルなあ」などとチームメイトと一緒にブチブチ言っていたら決まって監督さんに「アホかおまえら何

言うとんねん、相手も同じ条件やないか」とどやされたものです。「同じ条件」確かにそうです。どのよ

うな条件であろうと同じグランドの上で相手チームと戦い、勝たなければなりません。逆に、悪条件を見

方につける、例えば強風などであれば、風を計算して打ったり投球するというようなことも必要です。

 

今、消費が冷え込んで経済環境が非常に厳しいと言われますが、そういう悪条件の中でも企業は競争に打

ち勝ち、生き残っていかなければならなりません。嘆いていてもしょうがない、「条件は同じ」で、この

ような条件でも伸びている企業は伸びています。中には、ユニクロのように失速する企業もありますが、

日産のように急回復する企業もあります。

 

ジャイアンツの川相選手は現在37歳。私らとは同世代で、最近は出場機会がめっきり減りましたが、いま

だ現役です。彼は昨年までの現役17年間で、通産打率2割6部7厘、41本塁打、これだけでは平凡な記録

ですが、実はすごい記録を持っています。世界記録まであとわずかという492個(4月末現在)ものバント

(犠打)数です。

 

 彼は、もともと守備には定評があったが、細身でパンチ力に欠けた。プロ野球界の熾烈な争いの中で、

しかもジャイアンツという名門チームでレギュラーを続けるために、「バントに生きよう」と5年目に決心

したらしい。バントを成功させるには、投手の調子、野手の守備力、走者の足を考え、投手が投球動作に入

る瞬間に野手の動きをみてどこに転がすか瞬時に判断し、確実にバットにボールを当てる、という非常に

高度な技術が必要という。

 

 「これが私の生きる道」というパフィーのヒット曲ではないが、地味だが自分の特性を最大限活用し、

努力でつかんだ結果の大記録だと思います。

 

4月をダントツの首位で乗り切ったタイガース。ところで、本文第一号(1999.5.24付)をみていると、

最後にこういうくだりの文章もありました。

 

<・・・私は30年来のタイガースファンであるが、待望の首位になったと思ったら一日天下で現在最

下位である。勝ち続けることの難しさを痛感しながら、シーズン終了時には「勝ち続ける組」に残って

いてほしいと願っているが・・・。>

2002年5月 西野 津