急性サッカー中毒

 

スポーツといえばJリーグよりプロ野球、今回の日本代表メンバーで知っているのは、

中田、小野、中山ぐらいで、あの6月4日のベルギー戦で初めて知った稲本、鈴木の名。

ベッカムとは何もの・・・。こんな人も多かったはずが、6月4日以降、日本戦がある

ときはテレビに釘付けになり、繁華街からは人が消える。ロシア戦では視聴率が歴史的

60%を突破。スポーツニュースではW杯を必ずチェック。街ではブルーのTシャツを

やたら見かける。極めつけは、1985年のあのタイガース優勝のときでさえ数十人しか飛

び込まなかった道頓堀川へは2000人もの人が飛びこんだ。

 

W杯開催前には日本代表はひょっとして一勝もできないのでは、とさえ思える程、攻撃

力不足と護りのもろさがありましたが、あのロシアを破り1次リーグをトップで通過する

とは、これは歴史的快挙といえるのではないでしょうか。さらに決勝トーナメントでは、

組み合わせを見る限りこの勢いであわやベスト4まで、と思った人も多かったのは・・・。

しかし、サッカー後進国の日本にとっては、まだまだ世界の壁は厚かった。

 

トルコ戦では、前半開始早々に見方の不用意なパスミスからコーナーキックをとられ、

しかも、ゴール前では全くフリーだったモヒカン頭のトルコ選手のヘッドでのゴール。

なにか重苦しい雰囲気にスタジアム全体が包まれたような気がしました。後半ではトル

コに護りを固められ、なにかシュートを打たされているような形で決定的なチャンスを

作れないまま、先制点が結局決勝点となって敗れてしまいました。単純なミスと決定力

不足が重なってのほんとに悔しい敗戦です。中田選手が後にこの試合を振り返って次の

ように語っています。「1次リーグ突破でチームに目標達成感というか安堵感があった」

 「後半反撃はしたものの点をとれるような気がしなかった」「不完全燃焼でした」中田

選手自身も精彩を欠いていたことを感じていたようです。

 

トルシエ監督の選手の起用が裏目にでたなどの意見も多くありますが、1次リーグでの

チュニジア戦ではそれがものの見事に的中したものです。スポーツは結果がすべてなので

負けてしまえば何を言われても仕方がありませんが、勝っていれば「トルシエマジック」

「奇襲攻撃見事」などと絶賛されるのでしょうが・・・。1次リーグと違って負ければ

終わり、引き分けなしの一発勝負では、ちょっとした油断やミスが命取りになります。

それがW杯の重圧であり怖さなのでしょう。

 

一方、共同開催国の韓国は審判の有利な判定に助けられたものの、ヨーロッパの強豪を

次々と倒し、見事なベスト4。特に日本が敗れたその日のイタリア戦。日本と同様に前

半早々に先制された後、イタリアが護りに入ってからが違っていた。フォワード(攻撃陣)

を次々に投入し6人態勢で攻め続けた。後半終了間際には起死回生の同点ゴール。延長戦

では、前半戦で決定的なPKを外したアン選手が見事なゴールデンゴールをヘッドで決

めました。気迫と勝利への執念、それとサポーターの応援は日本よりは遥かに勝ってい

たように思います。

 

   韓国がベスト4と大躍進したため影に隠れた日本のベスト16ですが、フェアプレー賞で

  は堂々の3位。前々会のW杯予選で出場を目前にしながら惜敗した「ドーハの悲劇」から、

  前回W杯初出場で3戦全敗、それに今回と確実にステップアップしています。トルコ戦での

  教訓をぜひ4年後には活かしてほしい。日本はまだ2回目の出場で、しかも代表選手はま

  だまだ若く(参加国中4番目)発展途上なので、新制「ジーコ・ジャパン」には大いに期待

  したいと思います。

 

とにかく、日本中がサッカーに沸いたこの1ヶ月間。もともと日本人は熱しやすく冷め

やすい性格で、韓国よりも早く負けたことから、「急性サッカー中毒者」は徐々に減っ

て来ていると思われますが、韓国ではW杯終了後、熱狂の反動で仕事が手につかないなど

経済にも深刻な影響を与えているようです。

 

ところで、「アジアの虎」こと韓国はW杯で大躍進を遂げましたが、「なにわのトラ」

はいずこへ・・・。  

                                        2002年7月 西野 津