広く浅く  

いよいよ9月というのにまだまだ残暑厳しい日々が続きますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。2回連続でサッカー・野球とお話をしたので、そろそろ私の本業のお話をしたいと思います。

 

8月上旬に平成14年分の路線価が国税庁より発表されました。全国的に下落し、これで10年連続の下落です。地価の下落というのがマンネリ化し、真新しさがなくなっているのか、発表当日の日経新聞の一面トップ記事は「路線価10年連続下落」を脇に置いて「新紙幣2004年度一新」でした。それはともかく、本年の路線価の下落率は全国平均で6.5%と3年ぶりに拡大していました。都心部では局地的に下げ止まりの傾向がある一方、地方では下げ幅が拡大し、平均下落率の足を引っ張っているようです。地価の二極化がより一層鮮明になってきたようです。

 

路線価は相続税や贈与税の計算の基礎となる土地の価額なので、これが下がれば当然相続税の負担額も下がります。統計によると、全国の死亡者数は高齢化に比例して毎年増加しているものの、相続税の課税件数は、ほぼ横ばい状態です。地価のピークだった平成3年は全国の死亡者約83万人に対して、課税件数(相続税のかかった被相続人の人数)は約57千件、課税割合(全死亡者に対する相続税がかかる被相続人の割合)は6.8%でした。平成12年ではそれぞれ、死亡者数約96万人と13万人増加したものの課税件数は約48千件と減少し、課税割合は5.0%となっています。

 

大阪の高級住宅地として名高い大阪市住吉区の帝塚山地区で土地500uと他の財産6,579万円を所有していた方が亡くなり、妻と子供3人が法定相続通り相続した場合の試算では、平成3年の相続では相続税額6,216万円に対して、今年相続した場合の相続税額は、なんと548万円と実に11分の1です。地価の高い時にお亡くなりになった方は、負担だけ増加し、経済的にも本当にお気の毒としかいいようがありません。「長生きするのが最大の相続税対策」といわれるのも納得します。

 

先日、ある税務相談会を訪れた奥さんからこんな相談を受けました。「親戚が遺産相続でもめたので、自分はもめないように遺言をしようと弁護士さんに相談に行ったら、「その前に相続税の節税対策をした方がいいですよ」と言われてここに来ました」と、そのご主人と奥さんは自宅を2分の1ずつ所有しており、他に財産はないとのこと。自宅は 大阪市 の周辺都市で、約60坪。仮に坪100万円(住宅地としてはそれなりの金額だが)としても6,000万円で、ご主人の持分はその半分、さらに住宅の減額特例を適用すれば課税価額は600万円になります。最低5000万円までは相続税がかからないので、現状の法律が続く限りはまず大丈夫でしょう。それより、「もめないように対策しといた方がいいですよ」と言ってお引取りいただきました・・・。

 

相続税がかかるのは、国民の約100人に5人、つまり5%というのが現状です。ところが、政府は今議論されている税制改革の基本方針として「広く浅く」を打ち出しています。現在税金を納めていない方の割合は、相続税は約95%、法人税は約70%、サラリーマンの所得税は約25%あります。できるだけ多くの方に税金を納めてもらう為に、課税最低限の引下げと最高税率の引下げをセットでおこなう、つまり、今まで税金のかかっていなかった方も一定以上の金額でかかるようになり、多額の税負担をしていた方は逆に負担が減少するというもの。

 

一方、親から子への生前贈与を促すための贈与税の大型非課税枠の設定を来年から導入に向けて検討しているそうです。報道によると現在年110万円の非課税枠とは別に1,000万円を超える枠を1回に限り設定し、贈与する側は年齢65歳以上に限定するとのこと。従来は住宅取得資金に限定した550万円の非課税枠がありましたが、改正後には使途は自由になるようです。1400兆円もあるといわれている国民の金融資産の大半は高齢者が所有しています。この大型非課税枠を活用し、経済活性化につながるものと期待できますが、今年に導入していれば「上場株式等の購入額1,000万円の非課税」とのセットで株価対策としての相乗効果もあったのに・・・と悔やまれます。

2002年9月 西野 津