税効果会計  

暑い暑い夏が終わったかと思えばあっという間に秋が過ぎ去り、いっきに寒い冬が到来したような最近の気候です。体調を崩し易いのでお身体にはくれぐれもご留意願います。

 

さて、これほどまでに会計制度が注目されるようなことがかつてあったでしょうか?新聞やニュース番組で連日でてくる「税効果会計」という言葉。「税効果会計」とはなんぞや、決して税金が安くなる会計ではないので念のため・・・。

 

 会計制度には大きく分けて「企業会計」と「税務会計」があります。企業会計の目的は、企業の債権者や投資家などの利害関係者に対して、企業の財政状態や経営成績を正しく報告するために制度化されたもの。通常、財政状態は「貸借対照表」、経営成績は「損益計算書」という財務諸表で表わされます。一方、税務会計の目的は、企業が国や地方に対して納める税金の計算の基礎となる課税所得を計算するために制度化されたものです。これらはそれぞれ目的が異なるので、計算の結果も異なる数字となります。すなわち、利益=所得とは通常なりません。

 

 よく、有税償却、無税償却ということを言いますが、例えば銀行がある企業に対する貸付金が回収不能とみて企業会計上、損失処理をしたとします。ところが、税務上は損失処理するには厳格な要件が必要で、これがなかなか損失としては認めてくれないものです。企業がたとえ損失処理したとしてもその損失に対しても税金がかかってしまうのが有税償却といわれるものです。昨今は金融機関が不良債権の処理を加速させようと、この有税償却による損失処理が盛んに行われています。無税償却とは、税務上も損失として認められる貸付金などの企業会計上の損失処理をいいます。

 

 有税償却が多額になると、企業会計上の利益の割には納付税額が多額になってしまい、税額をそのまま財務諸表に計上すると税引前と税引後の当期利益が大きくズレてしまいます。そこで、納付税額のうち、次期以降の利益に対応するものについては税引前の当期利益から控除せず(「法人税等調整額」という)に、計算上の前払の税金として資産に計上(「繰延税金資産」という)し、企業会計と税務会計の乖離を調整するための会計制度を「税効果会計」といいます。

 

ところが、その計算上の繰延税金資産が銀行の自己資本(資産−負債)に占める割合が平均で40%にもなり、「自己資本のかさ上げ」として問題視されていました。しかし、税効果会計の厳格化が早期に行われると繰延税金資産が大幅カットされ、銀行の自己資本比率が国際業務を行うことの出来る基準の8%を割ってしまうことから、銀行としては死活問題となります。従って、与党・銀行界からこの会計制度変更には猛烈に反発され、結局、先日政府がまとめた総合デフレ対策の中では「税効果会計の厳格化を速やかに検討する」というややトーンダウンした形で決着しました。

 

 株式投資をされる方は、どの銘柄の株を買うかを判断する際に、収益性つまりどれだけ利益を出しているかということを重視されると思います。ところが、ここ数年は企業会計制度がめまぐるしく変わっています。主なものだけでも 2000.3「税効果会計」「連結決算重視」 2001.3「退職給付会計」「金融商品の時価会計」「販売用不動産の減損会計」 2002.3「持合株式の時価会計」 2006.3予定「固定資産の減損会計」 など。ところが、制度改正には必ず経過措置や前倒し適用というものが存在し、すべての企業が必ずしも横一線で適用するわけではないのです。

 

退職給付会計(将来の退職金支出への債務引当計上)は引当不足額の償却には15年という猶予期間があります。体力のある企業は1年で一括償却し、結果赤字になってしまうこともあります。しかし、弱体企業は15年かけて少しずつ償却するので、わずかながらも黒字となります。これらの企業を比較すると 黒字企業=優良企業 赤字企業=不良企業 とは必ずしもいえなくなります。 

 

ここ数年は会計制度に限らず、商法、税法がめまぐるしく改正されています。もともと改正が少ない商法でさえ、一年に二回も改正されるという、非常に変化の激しい経済情勢といえます。企業を評価する際、単に表面上の数字だけではなく、数字の本質を読み取る能力が必要となりますね。  

2002年11月 西野 津