費用対効果  

暦の上では、もう春ですがまだまだ厳しい寒さが続きます。月日の経つのは早いもので、あっという間に1月が過ぎ去りました。昔から、1月は行く、2月は逃げる、3月は去る、と言って年初の過ぎ行く早さをうまく表しています。歳を重ねるごとにどんどん加速して行くようにも思いますが。

 

先日、私の事務所の照明器具を全面取り替えました。以前から「ちょっと暗いなあ」と思っていたのですが、特に支障がなかったのでそのまま使っていました。ところが、器具の一つが突然つかなくなり、大家さんに電気屋さんを呼んでもらって修理していただいたのですが、なかなか感じのいい電気屋さんだったので、この際思い切って器具の取り替えも依頼しました。なんと、明るくなったこと!そんなに費用もかからず「こんなんやったらもっと早くやっとけばよかった!」と何回つぶやいたことか。照明が明るくなると気分も明るくなったようで、仕事もはかどる思いです。

 

「こんなんやったらもっと早くやっとけばよかった!」という経験はよくあるのではないでしょうか?人間誰しも(例外の方もいらっしゃいますが)、新たに費用をかける時や、ものを買い替える時は、「まだもうちょっと使える」、「まだそこまで必要ないか」、はたまた、「もったいない」という心理が働き、行動にブレーキをかけるものです。私も実はそうでした。ところが、いざ実行してみると掛けた費用の割りに大変効果があった。これを費用対効果(cost performance)が高いというのですが、経営とは正にその追求に尽きると思います。

 

私が税理士の受験勉強中に「財務諸表論」という会計学の科目がありました。その学問の権威の先生が、「企業会計とは投下資金回収計算だ!」という理論展開で、一貫して企業のすべての取引を「回収」に結び付けていたのを思い出しました。経営とは、投下した資金(費用)を、その支出額より多くの収入(売上)を獲得することによって利益を計上すること。子供でも分かる理論ですが、今や法人の約70%が赤字で、中小法人に至っては80%を超えているのではないでしょうか。

 

企業には固定費というものがあります。人件費、家賃、設備費など売上に関係なく毎月掛かってくる経費です。固定費が高いと、利益がでる売上高の水準(損益分岐点)が高くなるので、売上不振などで売上が下がるとたちまち赤字になってしまいます。企業は構造的に損益分岐点が高いと、固定費で一番ウエートの大きい人件費を削減しようとします。リストラ(事業の再構築)=人件費削減と言われる所以です。ところが最近は、「人件費の変動費化」の動きが多く見受けられるようになりました。つまり、売上や利益に連動して人件費を上下させる。賃金の成果主義導入、パート労働者(労働者全体の約30%)や派遣労働者の活用の増加などからそのことが感じ取れます。

 

最近、大阪市内の各駅や電化製品の量販店で「ADSL無料キャンペーン」と称して、高価なモデムを惜しげもなく無料で配布しているのを見かけます。今や、ADSLでは伸び悩む東西NTTを追い抜く勢いの「ヤフーBB」です。ADSLとは、インターネットを高速で送受信できる回線のことですが、今では12MGの速度が主流になってきています。通常のアナログの電話回線の約200倍もの速さになります。キャンペーンの内容は「とにかく最大2ヶ月間は無料で体験してください。必要なければモデムを送り返してもらえば結構です。その間費用(電気代はかかるが)は一切必要ありません。利用を継続する場合にはNTTの当初の工事代と月々の利用料はいただきます。」

 

これは、「新たな費用がかかる」という人間の心理的な垣根を取り除くという戦略で、これが見事に当りました。スーパーの試食コーナーや無料体験教室などと同じ発想ですね。今まで高速回線を使ったことのない人が、続々と契約しているようです。損益分岐点は加入者200万人だったそうですが、先日ついにそれを突破しました。

 

「損して得とれ」ということわざがありますが、これだけ大規模な広告活動は大手だからできるので、中小企業ではなかなかむずかしい。中小企業にとって、いかにコストを掛けずに効率よく宣伝し、売上に結びつけるかが非常に重要だと重います。とりあえず出来る費用対効果?、事務所や店舗の暗い照明器具を取り替えれば新しい発想が生まれるかも・・・。

2003年2月 西野 津