されど会計

先日恒例の高額納税者が国税庁より発表されました。今回は、昨年5人いた20億円以上の納税者はゼロ、10億円以上は昨年の9人から4人とより小粒化しています。バブル当時大半を占めていた土地長者は年々減少し、ネットバブルだった3〜4年前に急増したベンチャー企業のオーナーなどの株長者も大幅減少し、本業の収入である給与所得や配当所得が過半数を占めていたようです。

 

高額納税者の発表があったその頃、りそなグループの実質国有化が水面下で進められていました。私にとっても衝撃的なことでした。今回の焦点は「税効果会計」(本文2002年11月号で詳細説明有)でした。「繰延税金資産」(税金の前払相当分で、税効果資本ともいう)の回収可能性について監査法人との間で攻防があったようで、最終的には監査法人がより厳格化を貫いた結果、「繰延税金資産」が当初より削減され、自己資本比率が4%を下回り、2兆円の公的資金注入に至りました。

 

そもそも、「繰延税金資産」は、ある特定の損失の会計上と税務上の処理基準が異なることから生じる資産です。それ自体なんら財産的価値はなく、売却して換金することも出来ない調整の為の資産で、会計と税務の処理基準が同じであれば生じる余地がないものです。同じ資産でも土地や建物など財産的価値があるものとは根本的に異なります。従って、会計ルールの厳格化=「繰延税金資産」の削減、ということになります。銀行が不良債権処理を加速する目的から、税務上損金算入が認められない貸倒引当金繰入などの損失(有税償却)が膨れあがった結果、大幅な赤字にもかかわらず税金が生じることになり、「繰延税金資産」の自己資本に占める割合が多くなってしまいました。見方を変えると、「繰延税金資産」の割合が多いということは、それだけ「有税償却」を多く計上しているということにもなり、不良債権処理を早期に進めた結果の産物といえなくもありません。

 

しかし、会計上のルールはあるものの、納めすぎた税金の回収可能性についてはどうしても人間の判断が入ってしまう。事実は1つで、それをどう判断するかです。例えるなら、病気の患者に対して、重病人とみて直ちに外科手術を施すのか、はたまた、薬物で回復の可能性を探るのか。しかし、大胆な外科手術はある程度体力のあるうち施さないと手遅れになってしまう。という判断が働いたのかどうかわかりませんが・・・。グループの首脳は退職金なしで退任し、従業員や役員の給料は大幅カット、店舗と人員の大幅削減という大手術と2兆円もの資金の輸血を行い、再生を図ることに。いずれにしろ、会計処理の厳格化がきっかけで改革が加速したのは間違いありません。

 

従業員さんにとっては大きな痛みが生ずることになりましたが、2兆円というと、国民一人あたり約17,000円、りそなグループの社員一人あたりでは約1.7億円にもなります。日産自動車のカルロス・ゴーンさんは2兆円もの借金を4年間でゼロにしました。りそなグループは関西が地盤となって、中小企業の融資先も多いので、ぜひとも、この痛みをバネに再生に向けて頑張っていただきたいと思います。

 

会計処理がこれほど大きな影響を与えたというのは、私の記憶では過去に例がないと思います。これをきっかけに「税効果資本」の厳格化が広がり、その結果債務超過になった大手企業もあります。しかし、会計というのは、継続する企業活動を人為的に期間を区切り、企業の経営成績や財政状態を表わすものですから、一部人間の判断が入ってきます。今後、2006年3月期から導入予定の減損会計など、現行税務上認められない損失要因が加わりますので、会計と税務の乖離がさらに広がり、「税効果会計」の攻防がより激しくなるものと思われます。

 

「外形標準課税」の非課税など資本金が少ない方が税務上優遇されていることが多いので、減資(資本金の減額)を考えている社長さんも多いのでは。ところが、今春の商法改正により、法人が減資する際には「決算公告」が義務付けられました。これは中小企業も例外なくです。さらに、融資の際の金融機関の審査や法人の経営分析をする上では、一定の基準に基づく会計処理が不可欠です。中小企業とて、会計の重要性は今後益々増していくものと思われます。あと、このような不透明な時代、財務諸表(貸借対照表・損益計算書など)は企業の羅針盤ともいえる重要なものです。社長さんは、ご自身の経営の通知簿である財務諸表により注目していただきたいものですね。

2003年6月 西野 津