見解の相違

 

先般、国税庁から平成14事務年度(14/7〜15/6)の法人税の申告状況についての発表がありました。実地調査による申告漏れの状況は、1件当りの申告漏れ金額は、全法人では12,793千円で前年比4.3%増に対し、大企業のそれは171,927千円で29.6%増と大幅に増加しています。そういえば最近、大企業や芸能関係者による「申告漏れ」が頻繁に新聞などで報道されています。これは単に「みせしめ」と思いきや、実際に申告漏れ額がより大口化しているのでしょう。法人税の税収はピーク時の平成2事務年度には18兆円ありましたが、その後バブル崩壊により、直近の平成14事務年度は10兆円を下回るぐらいにまで落ち込んでいます。税収の減少を食い止めるために、税務調査をより強化していることも考えられます。

 

申告漏れ額として突出していたのは、10月に報道されたT社です。50億円の申告漏れで、重加算税を含めて20億円の追徴課税。このうちの10億円は海外の子会社に対して支払った業務の委託料を水増ししていたとのことで、国税局はその水増し分を所得隠しと認定し、重加算税の対象としたようです。同グループでは今年の3月にはT.S社が7億円の申告漏れで2.4億円の追徴課税、8月にD社が30億円の申告漏れで10億円の追徴課税、同時期にT.T社が6億円の申告漏れで2.2億円の追徴課税と、同グループ4社だけでも今年で合計93億円の申告漏れで、34.6億円もの追徴課税となります。ちなみに、これらの追徴課税は国税だけですので、別途地方税が上乗せされます。

 

芸能関係では、演歌歌手のK氏が2002年までの7年間で3.5億円の申告漏れで、重加算税を含めて2億円の追徴課税がありました。悪質な場合は7年間さかのぼり課税されます。主として衣装代など個人的な費用を計上して所得を圧縮し、公演のチケットの売上代金の一部除外もあったようです。日本人大リーガーのI選手も渡米する前に国内での所得8000万円の申告漏れと、2000万円の追徴課税を受けています。I選手のCM出演料などをI選手の父親が経営する法人の所得としたものを個人所得の申告漏れと認定されたようです。

 

私が会計事務所に勤務していた頃、顧問先であった有名タレントの某氏が、I選手と同様に別法人を作り、ロイヤルティ収入などをその法人で計上していました。これは節税対策というよりも、その某氏が浪費家のために、法人でお金を管理して使うのを制限しようという側近の考えだったのですが、その収入は個人に帰属するのではないかと、後に税務署より指摘されました。

 

申告漏れの報道記事の最後にはおきまりの、「税務当局と見解の相違があったが、指摘に従い全額納付した」とのコメントがあります。特に異議申し立てをすることもなく、あっさりと従うのは最初から承知の上だったのかと勘ぐりたくもなりますが、いずれにしろ、納税者と税務当局とはとかく利害は対立するものです。

 

「見解」とは辞書によると「物事に対する価値判断や考え方」とあります。どちらとも取れるようなグレーゾーンは見解の相違といえなくもありませんが、明らかに「クロ」といえる売上除外や架空経費などの仮装・隠蔽行為は悪質であり、重加算税や延滞税なども加えると本来の税額の倍以上の負担になることもあります。有名企業などの申告漏れ報道を、「もっと、やれやれ」と思うのか、「こんなことのないよう気をつけよう」と気を引き締めるのか、見解が分かれるところですが・・・。

 

所得を隠してプールしたお金は裏金であり、表に出たときにバレてしまうものです。自由に使えないお金は死に金であり、お金としての値打ちはありません。自由に使えてこそお金としての価値があり、更なる発展のための設備投資や生活向上のために活用できるものと私は考えますが・・・。

 

雨の御堂筋パレードは40万人の人手だったとか。土砂降りの中、選手会長の桧山選手は「これは全国の阪神ファンの嬉し涙です」と表現しました。惜しくも日本一を逃した「悲し涙」、星野監督の「お別れ涙」とは表現せず、実にうまく表現したことがさすが選手会長です。どうせなら、ものごと、プラス思考で行きたいですよね。

2003年11月 西野 津