経済的合理性

 

昨年の4月に日経平均株価がバブル後最安値の7,607.88円をつけ、1989年の最高値38,915.87円からの下落率はなんと80%で1/5の水準になり、この時は日本経済は崩壊するのではと騒がれました。しかし、この一年間で日経平均株価の水準は58%程もの急上昇となり、現在は12,000円前後にまで回復しました。これは、りそな銀行の2兆円もの公的資金注入をきっかけに金融危機が後退し、安心感から株価が急回復したのがきっかけとなりました。と同時に、大企業の製造業を中心としたリストラの効果などによる、業績面での回復ということも大きな要因となっています。

 

株価は景気のバロメーターといわれ、過去にも半年から1年先の景気の動向に見事に連動しています。中小企業には建設や小売・飲食業など依然厳しい状況が続いているところもありますが、マクロ面ではこれから本格的に景気回復に向かうことになるのでしょうか。今回の不況で消費者は学習効果としてより厳しい目で品定めをするようになったと思います。過去のように、景気が回復すれば企業全体が浮上するということにはならないでしょう。経営者は価格面やサービス面で顧客満足度を高めるよう、より努力をする必要があります。そろそろ、不景気だのと環境のせいにするのをやめて、この景気回復に乗り遅れないよう、意識を大きく変えなければいけない時期だと思います。私の周りでも、売上・利益とも急回復している中小企業がポツポツと出てきています。

 

一方、地価の方は昨年に商業地が株価と共に20年前の水準に戻ったと本記事において書きましたが、株価とは裏腹に今だ下げ止まる気配はありません。3月に発表された2004年公示地価では、3大都市圏では一部の一等地では下げ止まり傾向はあるものの、全体では前年比5.9%下落とありました。これで、13年連続の下落、株価はバブル後何回かの上昇はありましたが、地価は一本調子で下げ続けています。

 

最近、分譲マンションの広告がよく事務所に入ってきます。先日このようなコピーがありました。「月々10万円を35年間払い続けると総額4,200万円払い捨て、資産は残りません!それでも家賃を払い続けますか!?分譲なら資産としてのマンションが残ります」。うーん、説得力がありますね。

 

先日、友人の税理士と、「なぜ、今マンションがよく売れているのか」と議論しました。確かに、業者さんの言う、@家賃よりローンのほうが安い、Aいざとなれば貸せばよい、B今金利が安い、C税制の優遇措置・・・ということもわからなくはないのですが、果たして、「経済的合理性」(損得勘定で得かどうか)があるのかどうか。例えば、イ)都心におけるマンションの建設ラッシュ(将来の中古マンションの潜在的な供給要因)、ロ)底が見えない地価の下落、ハ)人口の減少、ニ)将来の金利の上昇、などの不透明要因を考慮し、10年後、20年後に、もしマンションを売るとした場合にどれだけの価値が残っているかということも考慮する必要があるのでは・・・等々。しかし、最終的に二人の一致した結論は、「そや!持ちたいんや」ということに落ち着きました。ちなみに、私は「住むマンションは買うものではなく、借りるもの」という持論がありますが・・・。

 

結局、なんだかんだ言ったところで理屈抜きに、「ほしい!」、「持ちたい!」という願望にはかなわない。そういえば、骨董品や絵画、ブランド物、高級外車など、中には実用性はほとんどなくても、下は数万円から絵画においては百億円以上もするようなものが売れるということは、その人の価値観において「持ちたい」んであれば、他人がいう「経済的合理性」は関係ないということでしょうか。人はとかく、「経済的合理性」とは裏腹の行動をとるものです。よく税務調査で税務署の人が、「これは経済的合理性がないから、単なる租税回避と認められます」ということを言われる場合がありますが、人は必ずしも「経済的合理性」だけで動いてるものでもないのかもしれません。

 

  ところで、株式については、いつもながら「あの時に買っておけばなー」と思うのですが、皆が売っている時に買うというのは勇気のいることです。「人の行く裏に道あり花の山」という格言があります。人気の裏を行くのが成功の道という意味です。これは経営も同じだと思います。「赤信号みんなで渡れば怖くない」では成功できないんでしょうね・・・。

 

2004年5月 西野 津