寝耳に水  

昨年暮れに2004年度の税制改正大綱が発表されました。今回の特徴は、小幅で増税色が強い内容となっております。昨年度の改正により今年(2004年)から施行されることが決まっている、「配偶者特別控除の一部廃止」「消費税の免税点の1,000万円以下への引下げ」と合わせ、今後特に低所得者層の負担が増大していくことになります。

 

税制と年金の一連の改正で最も負担が増えるのは、高齢者の年金生活者夫婦とサラリーマン(専業主婦)夫婦です。ある試算によると、年金収入260万円の高齢者夫婦は来年(2005年)から老年者控除が廃止され、公的年金控除が縮小されることから改正前より年間で78,600円負担増となります。又、年収700万円のサラリーマン夫婦では配偶者特別控除の一部廃止と厚生年金保険料の増加により、今年では年間60,900円、来年には76,400円もの負担増となるそうです。ただでさえ、年金の負担増や将来キチンともらえるかという不安がある中で、ますます将来不安が募り、個人消費が抑制されることになるのではと危惧しております。

 

今回の税制改正大綱の内容で私が特に驚いたというよりも衝撃的な項目がありました。その原文は次のとおりです。「土地、建物等の長期譲渡所得の金額又は短期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額については、土地、建物等の譲渡による所得以外の所得との通算および翌年以降の繰り越しを認めない。−2004年分以後の所得税および2005年分以後の個人住民税より適用する−」

 

つまり、個人が土地や建物を売却して損失が出た場合、その損失は従来給与や事業所得などから控除し、その分税金が安くなり、結果的に損失の一部を税金の安くなった分で補填できました。例えば、事業用の土地の売却による赤字が4,000万円あり、他に給与や事業所得などの黒字が毎年1,000万円あったとしても、赤字の4,000万円が黒字の1,000万円より控除することができ、売却した年の給与や事業所得などに対する税金はかからなかったのです。また、土地や建物を売却した人が個人事業者で青色申告をしていれば、損失を3年間繰り越すこともできました。上記の事例では、残った赤字3,000万円(4,000万円−1,000万円)は翌年以降3年間、給与や事業所得の各年分の黒字1,000万円から順次控除することができるので、4年間税金0ということになっていました。

 

今回の改正では、今年以降個人が所有する賃貸マンションなどの投資用不動産や店舗・工場などの売却による赤字(一定の住宅の売却による赤字は対象外)は、同じ年の他の不動産の売却による黒字からのみ控除することができるが、他の給与所得や事業・不動産所得などからの控除ばかりか、翌年以降への繰り越しも一切できなくなるのです。上記の事例では、不動産売却による4,000万円の赤字がどこからも控除されずに完全に切り捨てされてしまいます。

 

今回の税制改正の議論では住宅ローン減税の延長などがクローズアップされ、発表直前には土地建物の譲渡益に対する税率引き下げが報道されてはいましたが、この譲渡損の改正に関する報道は一切なく、「寝耳に水」の事実上の大増税と言えなくもありません。ご承知のように、地価は1991年(平成3年)をピークに昨年まで12年連続して下げ続け、いまだ治まる気配はありません。平成に入ってから購入した土地は売却しても利益がでることはまずないといっても過言ではないのでしょうか。ましてや、不動産の短期(5年以内所有)譲渡所得の税率引き下げなどはほとんど無意味と思われます。そんな中で、譲渡益の税率を引き下げしても減税の恩恵を受けられるのは20年以上もの前に取得した土地などに限られてくるでしょう。むしろ、不動産の含み損を抱えた個人のリストラなどの救済措置としての損益通算が廃止される悪影響の方が大きいと思われます。

 

税制改正は、正式には3月末に国会を通過し、法律として成立します。増税が遡及する(1月以降施行であれば)法律というのは過去にも事例がないので、経過措置があるのかなどの詳細は現段階ではわかりませんが、個人で値下がり不動産を所有する方は今後注視していく必要があります。  

2004年1月 西野 津