遺産分割時の留意点

先日父が亡くなり、相続税の試算をしたところ、相当な税金がかかりそうです。父は、遺言を書いてくれていなかったので、私の母親と兄弟で遺産をどう分けるか話し合いで決めることになります。その際、注意しなければならない点などあればご教示願います。

相続財産を相続人でどのように分けるかを相続人で話し合うことを「遺産分割協議」といいます。相続において遺産分割協議は最も重要で神経を使うものです。その際、特に法的に留意すべき事項を以下にまとめてみました。

 

1.分割の方法

@     現物分割:遺産を現物のまま分割する方法で、分割の原則的方法

A     代償分割:相続人の一部が相続により財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の相続人に対し、

      債務を負担する分割の方法

(事 例)相続人は長男と二男二人、相続財産は土地1億円(時価)のみで分けることが困難な場合、長男が土地を全部取得し、その見返りに長男が二男に現金5000万円(長男固有の財産)を渡す。

B     換価分割:相続人の一部が取得した財産を金銭に換価し、その換価代金を分割する方法

 

2.遺産分割の遡及効果

遺産分割の効力は相続開始の時(死亡時)まで遡ります。従って、遺産分割された財産に関わる権利(収益等)及び義務(支払等)は、相続開始の時からその財産を取得した者に帰属します。

 

3.法定相続分と異なる遺産の分割も有効

  民法で定められている法定相続分は代表的な例では法定相続人が配偶者と子の場合は各1/2、子が複数の場合は各人の相続分は均等となっています。

但し、相続人において相続人及び財産の事情を考慮した遺産分割の話し合いの結果、各相続人の取得分が法定相続分と異なっていても公序良俗等に違反しない限りは有効とされます。

 

4.特別受益

相続人の一部について被相続人から生前贈与や遺贈を受けている者(特別受益者)がいれば、原則として、その生前贈与等は相続分の前渡しと考えられることから、その分を考慮して遺産分割の協議をする必要があります。

(事 例)相続人は長男と二男二人、相続財産9000万円。長男は生前に被相続人から1000万円の現金の贈与を受けている。 法定相続分 各1/2

9000万円+1000万円(生前贈与分の持ち戻し)=1億円 1億円×1/2=5000万円

長男:5000万円−1000万円(生前贈与分)=4000万円  二男:5000万円

 

5.寄与分

  相続人の中に被相続人の生前においてその財産の維持や増加について特別の貢献(寄与)をした者がいるときは、その寄与をした相続人は遺産分割の際に法定相続分により取得する額を超える遺産の取得をする権利があります。

(事 例)被相続人の事業に無給で従事した。被相続人の療養介護に仕事をやめて付き添った。

 

6.不動産の共有は値打ちを半減させる

兄弟間での不動産の共有はできるだけ避けたほうがよいでしょう。共有持分は不動産の利用や譲渡については他の共有者の同意が必要となり、また代が変わる(相続人からその子供へ)と利害関係者が増加して関係が複雑になり、ますます不動産の利用や処分が制限され、値打ちが半減することになります。「とりあえず均等に共有」というのは一見公平ですが、問題を先送りするだけで、不動産の維持管理等の責任の所在もあいまいになってしまいます。

やむをえず共有で分割した場合は、遅滞なく、各持分を交換等して、完全な持分にされるようお薦めします。

 

7.遺産分割後の再分割は課税される

遺産分割協議が整い、財産についての名義変更が一旦されるとそこで遺産に関する所有権が確定します。又、不動産の相続による所有権の移転時には不動産取得税の非課税、登録免許税(登記時の税金)の軽減、農地の移転の場合の農業委員会の不許可等優遇されております。

しかし、名義変更後、遺産分割をやり直したり、「共有持分の放棄」等再度名義を変更すると原則として贈与とみなされ、贈与税が課されます。やむをえず財産の名義を変える場合は、財産同士の交換(特例に該当すれば所得税の非課税も可)をするか一般の売買とするしかないでしょう。但し、その場合は前記の相続時の優遇措置はありませんし、譲渡税が課税されます。

不動産の遺産分割は将来の利用を見越して、@絶対に手放せないもの(事業用・居宅用等) A手放してもよいもの(遊休地・不採算地・売却予定地等)に色分けし、@については代々引継がれることが考えられますので、後にもめることのないよう慎重に行う必要があります。

 

8.未分割での相続税の申告

  相続税の申告期限(相続時より10ヶ月以内)までに分割がされない遺産があれば、その遺産は法定相続分で分割したと仮定して各人の税額を計算し一旦申告納税しますが、未分割財産に係る小規模宅地等の減額(事業用や居住用の宅地の一定面積の評価減額措置)や配偶者の税額軽減(配偶者の相続税から一定金額の軽減措置)の特例をその時点では適用することができないのでその分相続税を多く納付しなければならなくなります。但し、申告期限後3年以内に遺産分割が確定すれば、その確定した時点で未分割の遺産に係る上記特例が適用可能となり、多く納付した税金の還付をうけることができます。

又、遺産分割の結果各相続人の税額が当初申告と異なることになれば、各相続人につき修正申告(追加納付)又は更正の請求(還付請求)を行い税額の精算をします。この場合各相続人について税額の増減がありますが、相続税の総額(各相続人の税額の合計)は上記特例部分の減額を除き基本的には当初申告額と同じです。なおその際、相続税額が増額してもその分割の確定した財産に係る相続税の延滞税は原則としてかかりません。

 

9.相続財産を申告期限までに国などへの寄付した場合の非課税

  相続により財産をもらった人が、その相続についての申告期限までにその相続によってもらった財産を国や地方公共団体その他特定の公益法人に贈与した場合には、その贈与した財産には相続税はかかりません。